20 せっかく妖精女王に会えたのにマイペースすぎる。【桜SIDE】

『こんにちは、サクラ』

「え、あ……こ、こんにちは!」


 その妖精は白髪にルビーの瞳という特徴によってどうにも他の妖精達とは違う雰囲気を纏っていた。

 慌ててお辞儀をする。なんだか偉い妖精みたいだし、一応ね。

 「顔をあげて」と言われたのでその通りにすると、目の前にその子がいた。

 思わず後ずさる。


『あんっ、逃げないで』

「え、あ、え、えっと……あなたは??」

『ワタシはこの森を住処にしている妖精女王フェアリークイーンよ。貴女……サクラのこと、ずっと見ていたの!』


 妖精女王はまた私の身体をくるくる回ると私の頬に触れた。


『ふふ、スライムみたいにぷにぷにして可愛いほっぺ、自分の意思を強く持つその瞳に……思わず食べちゃいたくなる苺みたいな唇……やっぱり全部可愛いデース!』

「は、はぁ……」


 とってもテンションの高い女王に私は間の抜けた返事しか返せない。

 この人はどうして私の名前を知ってるの? っていうか、私をずっと見ていたって? それにどうして今、私の前に現れたんだろう。

 頭に疑問点がポンポン浮かぶ私に女王はうんうん頷いた。


『聞きたいことが沢山あるのは当然のことネ! じゃあまずはワタシがどうしてサクラの名前を知っているのかということから教えましょう!』

「えっ!」


 ど、どうしてこの子私の考えている事分かるの!? 

 ……あ、そうか。妖精は人間の感情を読み取ることが出来る。それならば妖精女王なら人間の思考を読み取ることも簡単に出来そうってわけか!


『ワタシ、この学校に入学していた時からずっとサクラのこと見ていたの。ワタシの可愛い子供達にすっごく好かれてるみたいだし、最初はちょっと気になってた程度なんだけど、ずっと見ているうちに夢中になっちゃったネ。あ、ちなみにワタシの子供達と視覚を共有していたっていうことよ』


 妖精を通じて私を見ていた? それってかなり凄くない? でも、私なんか見ててもそんな面白いもんじゃないと思うけどな。


『サクラのお兄ちゃかしら。サクラにそっくりの男の子! あの子もすっごくキュートデ~ス! でもサクラが一番キュンキュンするネ! あの男の子はきっと相手の世話を焼きたいタイプの人間でしょう? ワタシもそのタイプだからサクラの方が可愛く見えてきちゃうの。ふふ、性格の相性って重要よね?』

「あ、あの……」

『大丈夫。言葉にしなくていいわ。サクラのことなら何でもお・み・と・お・し! ワタシがどうして今アナタの前に現れたのか、でしょ? それはもう簡単な話ネ! ワタシの中にあるサクラへの熱~い思いがあふれ出してきたからなのデス!』

「あ、うん……そうですか……」


 す、すごい私がここまで口を挟めない人、初めてだ。余程マイペースなのか、テンションが上がった状態なのか……。

 すると女王が私の瞳を覗き込んで嬉しそうに微笑む。陽気に空中でぴょんぴょん跳ねた。


『──サクラ、私と契約しない?』

「けいやく?」

『そう! そうしたらワタシはずぅっとサクラと一緒ネ!』


 契約。それってつまり私がこの子のご主人様になるってこと?

 でもマドレーヌおばあちゃんは「妖精はお友達だよ。縛るものじゃない」って言っていた。私自身そう思うし、契約したらそれは友達じゃなくて主従関係になるのがなんとなく嫌だった。だから、私の答えは──


「──お断りします」

『!?』


 女王は「えぇ!?!?」と背中を仰け反らせてびっくりしていた。


「ごめんなさい、妖精の女王様。私は妖精は皆お友達でいたいんです。契約したら私達は主従関係になるのですよね。私は命令とかしたくない。縛りたくないんです」

『えぇ、でも……ワタシ、サクラになら縛られてもいいのよ?? むしろサクラに命令されたいのに? なんならえっちな命令でも……きゃーっ!!』

「そ、そんなことしませんっ! と、とにかく私は妖精とは契約しない主義なんです! ……そ、その代わりお友達じゃ駄目ですか……?」

『っ!』


 女王としばらく見つめ合う。すると女王は小さなため息を溢して少し寂しそうに俯いた。


『……本当に駄目デス? この妖精女王と契約したら、きっと伝説に残るわよ? 聖女だって皆に崇められて、何不自由ない生活を送れること間違いなしよ? なんならサクラの邪魔になる人間は全部ワタシが消しちゃいますよ??』

「はい。伝説とか聖女とかは、今は特に興味ないので」


 ガーン。そんな効果音が聞こえてくるくらい、女王は唖然として固まる。

 しかしすぐに唇を尖らせて私に背を向けた。


「──分かったわ。残念だけど契約は諦めます。サクラとはお友達、ね?」

「! ありがとう、女王様。うん、お友達!」

「じゃあサクラ、アナタのポケットにあるキャンディはワタシが貰ってもいいかしら?」

「え?」


 すっかり存在を忘れていた私の凸凹キャンディ。私はそれを取り出すと、女王はそのキャンディを愛おしそうに抱きしめた。


「ふふ、すっごく凸凹。可愛いわね」

「そ、それは失敗作なのであげるようなものではないんですが……」

「いいの。サクラが作ったものはぜーんぶ愛おしいのデス! じゃあ、今はこれで我慢するわ。……今は、ね」


 女王は私にウインクを残すと、空気に溶け込んで消えていった。

 その途端、妖精達も動き出す。『驚いたね~』『女王様もサクラが好きなんだね~』と通常通り私の髪を弄ったり、頭に乗ったり通常運転だ。

 しかし最後の女王様、ちょっと怖い顔をしていたような……?

 私は突然現れた妖精女王について考えていたが、そこでデュナミスとリリスがこちらへ歩いてきているのが見えた。デュナミスは何故か妙に笑顔だ。


「デュナミス! リリス様!」

「サクラ! リリス様を見てくれ」

「え?」


 デュナミスの言うとおりそちらに視線を映すとリリスの頭の上に真っ赤な髪の毛の妖精が仁王立ちしていることに気づいた。


 この子、まさか……!


「この子はサラマ。私の──契約妖精ですわ!」

『このへっぽこ女が妖精と契約できねぇとぴいぴい泣いてたんで優しい俺様が契約してやったのさ!』

「へっぽことはなんですのサラマ!」


 リリスがきぃいっと甲高い声をあげて、サラマをわしづかみする。

 サラマもサラマでリリスの手に噛みついたり容赦がない。でも、喧嘩するほど仲がいいっていうし、結構いいコンビになるかも?

 デュナミスが苦笑しつつ私の肩に手を乗せた。


「サラマはあんな風にちょっと乱暴者でな。その性格のせいで他の妖精から避けられて独りぼっちだったらしい。そんなところにリリス様が毎日必死に妖精達と契約しようとしているのを見ていたら、思わず自分と重ねてしまって放っておけなくなったんだと」

「なるほど。やっぱり毎日この森に来た甲斐があったってわけね。あの子の属性は?」

「炎だ。炎の象徴サラマンダーからサラマになったみたいだな」

「はは、リリス様凄く嬉しそうだね」


 私とデュナミスは喧嘩するリリス様とサラマを温かく見守る。

 二人は喧嘩はしているものの、凄く楽しそうだ。

 一件落着。そう思ったのだが──


 ──この時の私はすっかりあの妖精女王フェアリークイーンのことを忘れてしまっていたのだった……。

 ──それが後でどんな結果になるとも知らずに。

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