特訓! 今日の汗は明日のビルド!

5秒でわかる前回のあらすじ

「ンママァ〜〜〜……♪ just killed a men……」


 ここは「訓練場」と称されたトレーニング場。

 天使軍の軍基地に備えられている、天使軍のための施設。その二階の、ランニングコースを私達はぐるぐると回り続けていた。


「——最近ずっと、敵がウヨウヨしているのは勘付いてますよね、アルカさん?」

「た、確かに……ハイジンやハイジュウには、よく会うかな……」

「そうですね。外界がそのように変わってしまった今、私達もそれに対抗できるよう己の体を改造していかなければなりません」


 そう言いながら、マニさんは私の横をぴったり寄り沿って走っていた。体感30分間ほど続けて走っているが、一切息を切らしていない。こんなの人間業ではない……あ、そっか天使だったわ。


「改造って? 筋トレのこと?」

「筋トレは基礎です。戦闘をするための、軸です」

「筋トレじゃないの?」

「……まあ、人によりますが、アルカさんの場合は、ええと……」


 マニさんは足に着けていたエフェークオスを取り外し、恐らく時間を確認したのであろう、「よし」と呟くと、私に走るのをやめるように指示した。


「……そうそう、アルカさんはかなりスピードがあります。ですが安定性がありません。人から少し引っ張られただけでバランスを失うでしょう」

「なるほど?」


 私は軽く頷いた。


「アルカさん。戦闘には何が必要だと思いますか?」

「え……うーん、きんにく……?」


 私はクールダウンとして歩きながら、腕組みして考えた。すると、相手は怪訝そうな顔でこちらを覗いた。


「……本当にそう思ってます?」

「えっ……いや……エルのこと考えたら……そうかなって……」


 そう言いながら、私は一階を見下ろした。そこにはエルがいる。さっきまで体に重りをつけて腕立て伏せをしていたのだが、今は足の上にタイヤのような重りを乗せて、腕の力だけで体を支えるなどという、私の理解が追いつかないトレーニングをしていた。


「……あの人は人外ですから……」

「えっと……でも天使の時点でマニさんも人外だよね?」

「……エルさんはそれ以上に、なんですよ」


 しばらく歩いていた私達は、次に階段を降り、エルのいる部屋へ入っていくことになった。


「アルカさんは、戦っている時何を考えていますか?」

「うーんと……相手の動きを読んで……それより速く動く……かな」

「そうですね。大まかに言えば、戦闘に必要なのは強さと速さ、そして観察力や判断力です」


 彼女は口を動かし続ける。


「本当に軍人レベルになろうと思ったら、忍耐力なども求められますが、アルカさんにはそこまで植え付ける必要はないでしょう」

「なんで?」

「軍人ではないからです。泥沼に漬かったり雪山で遭難する訓練、やりたいですか?」

「や……やめときます……」


 ——ガシャンッ!


 部屋の奥で大きな音がした。横目で確認すると、エルがバーベルを下ろした音だった。

 ……うわあ、なんかすごい量の重りついてるよ…………


「アルカさんはあそこまでやる必要はないです」

「うん……」


 私は力無く頷いた。もし彼と真っ向勝負したら、私はどこまで対抗できるのだろう……想像しただけで恐ろしい。


「さて、とりあえず……腹筋や背筋を鍛える時、アルカさんは何しますか?」

「え、うーん、プランクとか?」


 私はその場にしゃがみ、四つん這いになって両肘を着く仕草をしてみた。

 すると、マニさんの顔が一瞬歪んだ気がした。


「アルカさん、プランクははじめにやるべきではないです」

「え⁉︎ そうなの⁉︎」


 マニさんは首を一回縦に振ると、自分のお腹の辺りを人差し指で差した。


「まず、一言で腹筋、と言ってもいろんな腹筋があるんです。プランクはそのいろんな筋肉を一斉に使うので、ひとつひとつの筋肉に、十分な刺激がいかないんです」

「ええっと……つまり、重いものを大人数で持つ時、一人で持つより軽く感じる……みたいな時のカンジ?」

「そういうことです。その一人一人の力がもっと強かったら、どうですか?」


 腕を組んで、私はすこし考える。


「もっと軽くなる……?」

「その通り。なので、まずは一つずつ刺激して、最後に全部使うようにした方が効率がいい、と言うのが私の理論です」

「なるほど……!」


 私は自分の腹を覗いた。人並みには割れていると思っていたが、これらの筋肉はまだ100%の力を出していなかったのか。

 マニさんは「それを踏まえて」と、私と目線の合う高さまでしゃがんだ。


「腹筋の主な筋肉を教えます。まず一つが『腹直筋(ふくちょくきん)』。シックスパックができるところです」


 彼女は、自分で着ていたTシャツをめくってみせた。すると、想像以上にバッキバキに割れたお腹が現れた。


「腹直筋はヒトの身体に縦に付いています。主に起き上がったりするときによく使います」

「へぇ……」


 私は自分の腹をもう一度見た。マニさんに比べたらなんてだらしのない身体なのだろう、と考えると、俄然やる気がでてきた。


「二つ目が『腹斜筋(ふくしゃきん)』です。どこにあるかわかりますか?」

「えっと……『斜』だから、斜め……?」


 その通り、と彼女は指を鳴らす。


「腹斜筋は、表皮近くの外腹斜筋と、深部にある内腹斜筋がありますが……ううん、そこはまあいいでしょう」

「うーん……でも何となくわかるよ!」

「そうですか。自頭が良いようでよかったです」


 あれ、なんか褒められてしまった。エルはいつも大袈裟に褒めるなぁと思ってたけど、優しい人って案外みんなそうなのかもしれない。

 シンブ? とかはわからないけど、フクシャキンとやらがあると言うことだけは理解したつもりだ。


「最後に『腹横筋(ふくおうきん)』です。腹直筋や腹斜筋よりもっと奥の方にあります。いわゆるインナーマッスルというものですね」

「インナーマッスル知ってる!」

「そうですね。この筋肉は、胃や腸などの臓器を支えてるので、とっても重要なんですよ——と、いうわけで」


 彼女はようやくお腹を隠し、両手を叩くようにして合わせた。



「まずはこれらの腹筋を部分別に鍛えます! が! そのあとは腕・脚・背筋も同じように鍛えます!」

「お、おお!」

「そして更に複数の筋肉を組み合わせて使うトレーニングをします!」

「はい!」

「今週中にパルクールまで行くのが目標です!」

「……え? ぱ、ぱるく……? …………いや、とりあえず、はい!」


 マニさんの勢いに釣られ、私も勢いで返事してしまった。

 彼女の顔を見ると、いつも以上に艶を増しているように感じるような……




「——問答無用! さあ! ビシバシ行きますよ! アルカさん!」



 爛々と輝く彼女の左目の奥に、小さな火が灯っているのを見た気がした。

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