第10話『ジャーマンポテト』 


ジジ・ラモローゾ:010


『ジャーマンポテト』  






 お祖母ちゃんが新じゃがを買ってきた。




 子どもの拳くらいのが四十個ほど。重さで二キロくらい?


「ジャーマンポテトを作ろうね」


 半分フランス人のお祖母ちゃんが作るんならフレンチポテトじゃろうがと思うんだけど、フレンチポテトというのは無いんだそうだ。


 ジャガイモはきれいに洗うだけで皮は剥かない。新じゃがの皮は柔らかいから、そのまま食べられるそうだ。


 スライスしたニンニクをたっぷりの油でゆっくり炒める。きつね色になったら、いったんニンニクを取り出して、厚切りのベーコンをぶち込んで炒める。


「あ、しまった!」


 お祖母ちゃんは、ジャガイモの加熱を忘れていた。


「ま、今からでもいいわ」


 ジャガイモを入れたボールにラップをかけ、レンジで七分間チン。


「あたしが出す!」


「火傷に気を付けてね」


「はいはい……アッチッチ!」


「そんな布巾みたいなのじゃダメよ、しっかりグローブのやつで」


「へいへい(;'∀')」


 焼けた鉄でも持てそうなグローブ嵌めて再チャレンジ。テーブルに置いてラップをとると、湯気と言うよりは蒸気がボワッとたって、もろに顔にかかってしまう。


「うお!」


 いっしゅん息が出来ないほど。小粒だけど新じゃがと言うのは凶暴だ。


 新じゃがを、さっきベーコン炒めたままの鍋にぶち込んで、チャッチャか炒める。塩を振って黒コショウをパラパラ、とっておいたローストガーリックを戻して、しょう油を鍋肌に垂らすと香ばしい香りがキッチンに満ちる。


「味見しよう!」


 爪楊枝を出して、お祖母ちゃんと試食。


「ワッチッチ!」


 表面大人しそうになった新じゃがは、ひと齧りしただけで「オレはまだアチチだぜええええ!」と狂暴ぶりを発揮、上あごを火傷してしまう。


 アハハハハハハハハ((´∀`*))


 あ、えと……そんなに笑うことないでしょ、お祖母ちゃん!!




 夕食で敵討ちすることを誓って、ジージのファイルを開く。




『ジージのファイル』


 担任を持って第一にやる事は生徒の顔と名前を覚えること。


 書類や生徒手帳に貼る写真を預かっているので、予備になっている一枚の裏に氏名を書いて、全員分紐に閉じて、英単語を覚える要領で、何度も繰ってみる。


 一発で憶えられる子と、何度やっても憶えられない子がいる。


 どういう子が憶えられて、どういう子が憶えにくいのか、うまくは言えないけど、あるんだよ。


 そうやってると、この子はちょっと……感じる子が居るんだ。


 気になると、中学校や前の担任から預かった書類を見るんだ。


 そうすると、この子は、早くから関わった方がいいというのに出くわす。


 新入生なら入学式の日に、二三年生なら始業式の日に家庭訪問する。


 家庭訪問には理由が居る。何もないのに家庭訪問というのは、警戒されて逆効果になることもあるからね。連絡し忘れたことがありましたとか理由を付けて訪問する。多少抜けたように受け止められても、わざわざ来てくれたということで、まあ、一点先取という具合だ。生徒と言うのは学校と家とじゃ見せる顔が違うからね。うまく保護者に会えたら、二点先取。


 なにごとも先手必勝。


 あ、別に遠まわしの説教じゃないからね。




 


 ジージは、かなり気を遣う人だったんだ。


 説教じゃないからね……ちょっと気になる。


 わたしがファイルを読むときは説教というか……なにかメッセージを残そうと思ってたから?




 あ、こういう気の回し方はネガティブだよね。


 思いついて、ジャーマンポテトをお供えすることにする。


 


 

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