強さの変わりに

「シオンにぃ、レオちゃんは?!」


「大丈夫、傷も癒えたし明日には起きるだろう」


「よかった~。本当に心配したよ~」


部屋を出た俺に、急いで駆け寄ってきたキャロとシャロだったが、レオの状態を聞いて安心するように一息ついた。


ダンジョンから帰ってきた俺とルリは、血だらけのレオを見つけてすぐに宿屋に向かった。激しい戦闘を行ったのだろう。幾つもの切り傷や、打撲、内臓までにダメージが入っていた。かなり危険な状態だったが、父さん、母さん、ルリ、ナツメに協力してもらい。何とかなりはした。

だが、暫くは絶対安静にしなければならない。


今はベットで寝ているレオを父さん達が看てくれている。


「シオンにぃ、どこ行くの?」


「兄さん。外はもう暗いよ~」


宿屋から出ようとした俺を妹2人は止める。だが「1人にして欲しい」と言い残し俺はその場を離れた。

そして、見付からないように門を出て、一人町の外に歩き出した。


外に出てからだいぶ経ったのだろうか、もう周辺には町は見えない。その代わり俺の周囲には魔物が寄ってきていた。

俺を取り囲んで、いい餌が手に入ると思っているのか涎をたらしてる魔物までいる。


俺は冷静に〈ディメンションバック〉から鬼神刀をだし。目の前の魔物から切り倒して行った。中には硬い鱗に身を守られてる魔物も居たが、そんな魔物も鬼神刀の前では薄い紙と同じだった。それだけ切れ味が凄かったのだ。

気がつくと魔物は居なくなり、俺の周囲には、残った死体が散らばっていた。

だがこんな事をしても、俺の気は一向に晴れることはなかった。むしろ腹の立つ一方だ。


「クソ!!」


近くにあった、大岩を感情のままに殴りつける。そしてその場に座り込んだ。

一体、誰がやったのか。どうして俺がいないときに狙われたのか。狙われる可能性のあったレオと、どうして一緒じゃなかったのか。


今苛立っているのは、レオがやられたからじゃない。自分の不甲斐なさに苛立っている。


「主こんな所にいたのですか、町からこんな離れて心配でしたよ」


「レオどうして」


誰もいなと思っていたのに、不意に声がした。そこにはついさっきまでは、寝ていたはずレオが立っている。幻かと疑ったが、そんな気配は一切なく。むしろその気配から、本物である事はわかった。


「なぁレオ、何があったんだ?レオを圧倒するほどの化け物がいたのか?」


単純な疑問だった。確かにレオは見た目だけなら。5歳より少し上の子供にしか見えない。だが過去に、魔王の娘のリリエルちゃんを圧倒した事があるぐらい強いはずだ。そんなレオがあそこまでやられる相手が居るのかどうか。


「我の敗因は幾つかあります。1つ場所の問題です。相手は完全に把握していて。我は把握できていなかった。完全にアウェーだったんです。そしてリアンが居た事。相手の目的は始めからリアンだったのです。守りながらの戦闘でさらに不利になりました。最後に神の力が一切使えなかった事です。これが一番の敗因だったと思います」


1つ目と2つ目の理由は俺でも理解できた。確かにその状況ならレオが不利なのも納得できる。だが3つ目については俺が理解できなかった。レオにとって神の力が使えないのは力の半分も出ないのと同じ。相手は神の力を封じる事ができるのかと、思った。

だが実際は違った。


「どうして神の力が使えなかったのか。それは主の気配がこの世界から消えていたからですね。本来この世界にさえ居れば何所に居ても魔力で繋がっていれます。我の神の力は、簡単に言うなら主から貰っているようなもの、その主が居なくなれば、当然我も力は使えないです」


「そう...か」


その事実に俺は言葉が出なかった。俺が強くなる代わりにレオが傷ついた。その事実だけで俺は自分を嫌いになりそうだった。何が半神だよと、なにが化け物だよと。

いくら強くても、大切な人を守れなければ意味がないと。


「主は、悪くないです。むしろ我が今まで主に助けられていたと。改めて実感しました」


俺を慰めるように。レオが気を使ってくれている。その事にまた心が痛くなった。

だがいつまでも、落ち込んでいられない。これ以上誰かが傷つけられないように、俺は動くしかないのだ。まずはここまで俺を付けてきた奴から、話を聞く必要がある。


ずっと視線は感じていた。宿を出たときから俺はずっと見られていた。そしてここまで、一定の距離で俺を監視している奴がいたのは、気が付いていた。だが先ほどまではそれを気にする余裕もなかったのだ。


「出て来いよ、誰か知らないが気が付いてるぞ」


「??主」


いきなり、話し始めた俺をさらに心配そうに見つめるレオ。だが足音に気が付いたようで。レオはそっちを警戒し始めた。

そこに現れたのは、フードを深くかぶった。人物だった。だがそいつから一切敵意は感じない。


「僕達を助けてください」


静かな夜。フードをかぶった男性の声が小さく聞こえ。その声はまるで神に祈るような必死の思いに聞こえた。

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