花蓮の過去

私達がこの世界に来たのは2年前のことだった。

あれは高校の帰り道、弟の将太と帰っているときに目の前から車が突っ込んできた。せめて将太だけはと思い庇うように動いたが間に合わずして私も将太も車にはねられて死んだ。

そう思っていた。


目が覚めたときはよくわからない空間にいて、将太も横で眠っている。とりあえず将太を起こしてあの後何があったのかを話し合った。


「ねぇ将太、どう思う?お姉ちゃん達は間違えなく引かれたわよね?」


「そうっすね。間違えなく引かれたと思うっすけど...」


だが幾ら話してもわからないことはわからない。二人して「うーん」と唸ねっていると、いきなり声が聞こえた。

そこはさっきまで何もないはずの空間だったのに、その時、確かに何かがいた。見てもまるでモザイクがかかっているようで、何かもわからない。


「危なかったですね、お前達に気づくのがあと少し遅ければ、間違えなく死んでいたでしょう」


いきなりの事過ぎてパニックになる、様な事はなかった。私も将太もいわゆるオタクという奴で、私はもしかしたらという淡い期待もしていた。よくわからない声の主は「死ぬところだった」という事から、とりあえず私達は死んでないことはわかる。


「ふむふむ、なるほどお前達の事を少し見させてもらったが、この事、つまり転移に関する知識があるようだね。話が早くて助かるよ、とりあえず簡単に説明してすぐ異世界に行ってもらうから」


きたこれ。

つい心の中で思ってしまった。まさか夢に見てた転移ができるなんて。一体どんな世界なんだろう考えるだけでわくわくが止まらない。


「お前達が今から行くのは、まぁおおむねお前達が考えてる世界に近いだろう。勇者がいて魔王がいて、冒険者などもあって、魔物もいる。そんなファンタジーな世界だ。いくつか違うとすれば、勇者と魔王はもう争ってなくて。日本人も数多くいるって所だろう」


語られたのは、ザ、ファンタジーな異世界で、しかも日本人もいるという。ある意味では理想といっても間違いない場所だった。


「残念ながら容姿などは変わらないが。お前達、転生者はどの国でもそこそこ手厚く受け入れてくれるだろう。さていきなり平和なところで住んでた者が戦いなど、できるはずもないのでそこはこちらが、サービスしてやろう」


この人?または神?は凄く親切だった。確かに転移者=チート能力。と思っていたが。チートではなくても生きやすいように考慮してくれるなんて。


「今から言う言葉の意味はわからんと思うが、それはあっちの世界で調べてくれ、お前達の初期ステータスはオールC以上から始まる。さらに成長補正もついており努力しだいではオールSも可能だろう。あとはあちらの世界に行ってステータスを見てくれれば、特別なスキルを持っているだろう。ただスキルは完全ランダムだから何かは言えない。だいたいわかったかな?」


ある程度の理解はできた。将太の方もわかったみたいで頷いている。そして私達をその人は指をパチンと鳴らした。次第に意識が落ちていき、目が覚めたころには異世界についていた。


私達はのどかな草原で目を覚まし、近くにはおっきなお城のある都市みたいなのがあった。そこに入る前に門番さんに「身分の確認をさせて欲しい」と言われ、当然その時身分を証明できるものなどなく、ダメもとで転移者だと伝えたら。お城まで案内してもらえた。


そこからは話がスムーズに進んでいった。ここ王都サブメラの国王とお話をさせてもらい、家を提供してもらった。その時当面の生活金を貰い、この世界で生きていく上で大事な事を教わった。


貰った家で将太と2人での生活をし始めて数日、私は冒険者になる事を決意した。

将太もなりたいと言っていたが、将太には普通に学生として生きて欲しかった。この王都には冒険者になるための学園もある。そこを卒業した時に一緒に冒険しようと言って納得してもらった。


冒険者になって始めのうちは、基本一人で活動していた。知らない人と話すのが少し怖くて、自分からパーティーに入れてもらうことはしなかった。

私は痛いのが苦手でもし魔物と戦って傷ついた場合すぐ回復魔法が使えるように、回復魔法はよく使っていくことに決めていた。自分自身に使う事は少なかったが、たまたま出くわしたパーティーの傷を治したり。王都の中で傷ついてる人を治したりしていた。そして気がつくと半年くらいで[凄腕の治癒術士ヒーラー]と呼ばれるようになった。


そしてある日の事だった。私を尋ねて来た、という人がいて、会ってみるとその人は、新塚勇輔にいづかゆうすけという、転移者で勇者だった。勇輔君は私と同い年らしく、元々はパーティー勧誘に来たらしいのだが、日本のことで話が盛りすぎてしまった。

同じ転移者ということで私は勇輔君の、勇者パーティーに入れてもらった。

その時は勇輔君と私あと女の人が2人のパーティー最大人数である4人でパーティーを組む事になった。


勇輔君達とパーティーを組んで数ヶ月、私は勇輔君を少し好きになっていた。元々顔はかなり私のタイプではあったのだけど、パーティーをまとめるリーダーシップ性、何にも臆さない勇気、そんなところに私は少しずつ惚れていった。

家では気がつくと勇輔君の話とかをしていて、将太に「姉さん、そんなに好きならアタックしてみればいいじゃないっすか」と言われたぐらいに好きになっていた。


だけどそんな楽しい日々も長くは続かなかった。勇輔君は変わっていった、たとえ格上の魔物でも戦闘をおこなったりした。今までは撤退などしていたのに、その時からまるで変になっていった。


そして事件は起きた。【バジリスク】討伐のクエストを受け出発した。その時私を含めて誰も【バジリスク】の事なんて知らなかった。それがどんな魔物なのか。戦闘になった時【バジリスク】がブレスを放とうとしているのに勇輔君は突っ込もうとした。それを見た私はとっさに勇輔君を庇い自身がブレスを受けた。状態異常になった事を察して回復しようと思ったが、体が麻痺して動かなかった。


それからの事は全く覚えていない。ただ何となく分かるのは体は痛いのに治す事もできず、おそらく死ぬまで苦しまなくてはいけないのだという事。意識はあるのに周りの状況はわからなかった。


だけどその状態も長く続けば少しずつ変わることもある。半年過ぎる頃にぼんやりとだが声が聞こえて、回りも少し見えるようになった。将太は毎日部屋に来て泣いていた。私はそれがとても悲しかった。

そしてそれからさらに半年、私は自分の死期を悟った、もうすぐ死ぬんだ。それがわかってしまった。将太を残して死んでしまうのは後悔してるが、もうそれもどうしようもない事だと思った。

私ができるのは死ぬ最後まで将太の顔を毎日、見ることだけだった。


もう数日だろう、そんな事を考えていると将太が将太が2人の男女を連れてきた。友人だろうか?おもてなしできないのが凄く残念である。だが将太にも友達ができてると知ったことで心残りはなくなった。そう思い私は最後の時間を将太たちの会話を聞いてまとうと思った。だけどその内容は私を助けようとする内容で。たとえそれは無理な事でも最後まで将太に思ってもらえてると思うと、嬉しくて幸せでしょうがなかった。


あの2人が出て行って何時間経っただろう、久しぶりに激痛を味わった。もう意識が途切れそうだ、きっと意識が切れれば本当に最後かな...

嫌だ、死にたくない、もっともっと将太と暮らしたかった、もっと冒険したかった、もっと生きていたい。


そう思っても、意識だけじゃどうする事もできない、せいぜい時間が少し延びるだけだろう。

だがそんな時何時間か前に出て行った二人が戻ってきた。女の子は私に回復魔法をかけてくれる。それで少し楽になった気がする。男の子は将太と一緒に別の部屋に移動した。だけど将太はすぐに戻ってきた。


なんだかんだで長い時間生きてこられた。死ぬのは嫌だけどどうしようもない、諦めきれないけど諦めるしかない。覚悟を決めようとした時男の子は帰ってきて、将太に謎の瓶を渡す。将太はそれを私に飲ませた。

始めはうまく飲み込めなかったが、気がつくと瓶が空になるまで中身を飲み干していた。

そしてその時私は自身の異変に気がついた。今までの痛みが全て消え、体の重みとかもなくなった。

そしてただただ眠かった。何が起きたのかわからないけど、とりあえず意識はなくなった。


もう目覚める事はないと思っていた。だけど私は再び目を覚ました。目も開いて体も起こせる。周りには将太と昨日からいる2人の子供が眠っていた。

私は起こさないように「ステータスオープン」と言い自分の状態異常の確認だけをする。


ステータス


常態異常 なし


私はとっさに理解した、今いる2人の子供に命を救われた事を。感謝しなければいけない、こんな他人を救ってくれた事を。


私が2人を見ていると男の子が目を覚ました。まだ状況を理解してないのか周りをキョロキョロしている。

あ、横で寝ている女の子の頭を撫でて!!

そんな風に男の子を見ていると、その子はこっちを向いた。当然目が合う。だがなぜか一回、目を逸らして、又こちらを見てくる。

そんな男の子をみて私は微笑みながらこう言った「おはよう、そして初めまして

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