第5話 危険な逃避行



 ギネーブ山道 中腹


 いきなりですが、私達は現在逃走中です。


 いまさら?


 ですよねー。


 噂の大罪人ですし。


 でも今日は、いつもよりちょっと過激なのが問題でっす。


私「きゃああああっ、ウォルド様っ、これ大丈夫なんですかっ!?」

ミュセさん「はうっ。もう限界です……」

私「ミュセさん!? しっかりしてください! ここで気を失われると、万年元気の私でも洒落にならんですっ!!」


 現在私達の乗った馬車は、坂道を超爆走していまっす。

 馬車を引いている馬の手綱を引いているのはウォルド様なのだけど、やばいくらい反応がない。こちらに気を回している余裕がないのかもしれませんねー。


 なぜこんな事になってかというと……それは数時間前の行動が原因だった。





 ハネムシ村


 逃避行中といっても、必要な物は人と触れ合わなければ手に入らない。

 生きている以上、食べ物や安全な寝床が必要になってくる。


 け。れ。ど?


 その真っ最中に油断してしまったせいで、馬車で坂道を爆走するはめになっちまいました。


 そう、あれは運命の反抗!


 立ち寄ったお店で食料を購入している際に、風のいたずらで顔を隠しているフードがめくれちゃった。


 普段だったら、それでも別に大したことにはならなかったでしょーねっ。


 ただの一般市民がいちいち、指名手配犯の顔なんて、覚えているはずがないですしっ。


 いつもなら、手早く用事を終えて、その場を離れればよかったんでっすよ。


 でも、まさかまさか。

 今回は運が悪かったんでい。


エリート1「あれは、指名手配の大罪人だ!」

エリート2「こんな所に潜伏していたのか、捕まえろ!」


 偶然通りかかった一団がまずいのなんの。

 大罪人を追跡する組織、エリート集団に目をつけられちった。


 そういえばゲームだと、立ち寄ったこの町の近くでそういう仕事の人たちが仕事してたんだっけ。


赤銀の番人 ブラッド・ジャスティス、罪人の捕縛部隊。


 とかいうの。


 レッドメタル。赤いピカピカの鎧を着てるのが、特徴!


 で、ひと悶着あってこうなったというわけ。


私「やばいですっ。ウォルド様、ちょー来てますぅぅぅ!」


 背後から番人の馬車を引っ張る馬が、ぶるるるるぅっとか荒ぶりながら、猛烈に追いかけてきてます!








ミュセさん「はうっ、うーん」

私「ミュセさん、しっかりしてください」


 それで、旅の仲間であるミュセさんが、激しい馬車の動きに耐えかねて乗り物酔いを発症。

 ダウンしてしまったのだ!


 え?


 この人だれ?


 登場人物?

 重要人物?


 いいえ、違います!

 被害者だよ!


 巻き添えくったただの一般市民さん。


 私達が強奪した馬車にいた人!

 空の馬車だと思ったのに、中に人がいたなんて。


 ほんとごめんなさい!


 罪悪感に押しつぶされていると、突然の緊急宣言。


ウォルド様「おい女性陣、今から崖飛ぶからしっかり捕まってろよ!」

私「えっ、ちょウォルドさ、まぁぁぁぁぁーーーーー!!」


 心の準備もしてる暇がない。


 変な浮遊感が襲ってきて、馬車がふわってなって、数秒後にどすん。


 怖くて外見れないっ。


 いったいどこを、どう飛んだんですかっ!


 さすがに私もおったまげますよ!


 着地した時に、意識のないミュセさんをかばったおかげで、たんこぶ一個作っちゃったよ!


 いくらウォルド様でも、許さない!

 だけど責任取ってお嫁さんにしてくれるなら許す!


 うへへ、でへへへへ。


 おっと、よだれが。


 って、唐突な急旋回ぃぃぃ!


 私の頭部に対する打撃がクリティカルヒット!


 馬車の壁、地味に痛い!


私「ごふっ。ちょっウォルド様! たんこぶ二つ目!」

ウォルド様「悪い旋回した」


 華麗な乙女に傷がついたらば蟹! 怒り心頭ぷんぷんの助!

 ウォルド様じゃなかったら、その事後報告許してあげないんレベルですよ!




 




 結果、突発的な山岳地帯馬車レースが一晩中行われました。


 幸いにもみんな無事だったけど、私、もうとうぶん馬車に乗れそうにないですん。


私「うぇぇ、気持ち悪いぃぃぃ」

ミュセさん「はう」


 ミュセさんなんかもう息も絶え絶えになってるし。


 しっかし、ミュセさんの扱いどうしよう。


 私は推し愛があるから、大罪人扱いされても平気だけど、ミュセさんはただの一般人だし。

 連れて歩くわけにもいかないよね。


 どこか安全な所を探してかくまってもらえるように頼めないかなー。


 すると、気が付いたミュセさんが名案!


ミュセさん「こ、この先に、ミニベアの村があるので、そこで、泊めてもらうのはどうでしょう」


 気分悪くしてるところありがとう!


 その情報、無駄にしないよ!


 ミュセさんのこの選択がこの先の明暗を分けたのでしたっ。


 名案なだけに!


 すまんです。特に深い意味はない。行ってみたかっただけです。







 ミニベアの村


 数時間後。

 ミュセさんの案内でたどり着いたミニベアは、ぬいぐるみが住む村みたいだった。


私「ほぁぁぁっ。なにこれ、かわよい。めんこい、かわよい!」


 なんとっ。クマのぬいぐるみみたいなのが小さな村を歩いているではあーりませんかっ。


 そういえば、ゲームにあったね。

 そんなん!


 ミニベアっていうクマっぽい生き物が住んでる村で、主人公が立ち寄るとイベントが開始!


ミニベア「はちみつ、とってきたら、このむら、とめてやる」


 そうそうこんな感じで、イベントスタートなんだよね。


 実写!


私「はいっ、採ったハチミツちょっと盗み食いしてもいいですかっ!」

ウォルド様「正々堂々言ったら盗み食いじゃねーだろ」

ミニベア「ちょっとだけなら、いいぞ」

ウォルド様「いいのかよ」

私「ひゃっふーい。ウォルド様、ミュセさん、行ってきまーす」

ウォルド様「おい、一人でいくつもりか。まったく」







 ハチミツ、ハチミツぅっ。


 ハチミツ採取の依頼を受けた私は、ワクワクした心境で、村の近くにある森へ。

 そこの木にあるハチの巣へ近づいていきまっす。


 けれど、そこから先に進めない。


 あれ?


 ハチミツって実際にどうやって採るのん?


 ゲームなら近づいていって、ボタンポチっで採れたけど。


 ところがどっこい、現実だとそうはいかない。


 ハチの巣のまわりをウロチョロしてたら、やっこさんがブーン。


 ぎゃぁぁぁっ。

 ささないでぇっ。


 乙女のやわ肌に、そのぶっとい針を刺す気ですのん?


 いや、サイズはほっそいけど。


 私は脱兎のごとく勢いで逃げ出すっ!


私「ひぃぃぃん。ウォルド様たすけてぇぇぇ」

ウォルド様「思った通りの展開になってやがんな。ほいよっと」


 そしたら、言った傍から駆け付けてくれる推し。惚れる!


 人気ランキング1位はやっぱり伊達じゃないねっ!


 駆け付けてくれたスーパーウォルド様は、私の顔に香水をぶしゃー。


 ぎゃあっ。

 しみるぅ!


 目がぁぁぁっ。


 乙女の顔に何してんですかぁぁぁ!


 地面でしばらくごろごろしてる私。


 こんな体たらくになってる間に、凶悪犯ハチに狙われたらどうすんです!


 けど、あれ?


 こない。


 開くようになった目で、辺りをキョロキョロ。


 すると、転がっていた私にウォルド様が手を差し伸べてくれます。


 片手でスプレーみたいなものを示してます。


 はっ、まさか。


ウォルド様「話はちゃんと聞いて行けよ。こいつがハチが嫌う匂いだそうだ」


 なるほどー。


 確かに、ハチがぶんぶん飛んでたら、ハチミツ採れませんもんね。


ウォルド様「依頼人からの話は最後まで聞いとけ。後でくれたぞ」


 おっと、私のポンコツさん。


 ゲームでも、イベント会話とか話が長くてだるいとついボタン連打で飛ばしちゃうんだよね。








 そういうわけで、新しくゲットしたスプレー型の香水を駆使して、無事にハチミツを採取。


 苦労しつつも一泊の恩を作り上げたのでしたっ。


 ミニベアの村は全体的にミニマムだったけど、たまに訪れる人間用に人が過ごせる建物もあったのがラッキー。


 山岳逃走での疲れから、寝床に横になったら3秒でスリーピング。


 うーん。それにしても最近、ウォルド様ってば、私の扱いがぞんざいになってません?


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