第13話 推しにお姫様抱っこされる!ご褒美かっ!?



 天使の神殿前 橋


『イツハ達は、隠された海中神殿にある要石を壊し、天使の神殿に向かう橋を出現させた。これでこの旅の決着がつくのだろう。長くはなかった。私にとってはとても短かった。でももう、これで終わり。……橋を渡るイツハは大丈夫だろうか』


 うぉぉぉっ、私だぁぁぁぁ!


 うっかり壊しちまった祠の呪いがとけて、完全復活しましたぃ。

 ウォルド様大好きの、わ・た・しっ、ですっ!


 ひゃっふぃぃぃぃっ!!


 いよいよ物語の終盤!


 ウォルド様は、最後のフィールドである天使の神殿(真)に乗り込んでにっくき天使(中身悪魔)をやっつけに行きます。しゅっしゅっ(エアボクシング中)


私「ミュセさんっ、私達もがんばりましょう!」

ミュセ「えっと、はい。私達は戦えませんけど、応急手当の心得はあるので、怪我をしたら言ってくださいね」

ウォルド「おいそこの応援団。静かにしててくれ」


 はいっ、お口にチャックですね!

 さすがにシリアスになります。


私「でもいいんですか? ミュセさん。こんな所まで一緒に来ちゃって。この先けっこう、ちょっぴり、だいぶ危ないですよう?」

ミュセさん「はい。でも大丈夫です。私もよく考えて決めた事ですから。ウォルドさんやイツハさんのお手伝いができれば。二人の事は大好きですから」


 おおおん。なんていい子なんだミュセさん。

 巻き込んじゃった事、すんごい申し訳ないよっ。


 でも、手伝ってくれるのは嬉しい。

 私結構、足手まといになる確率多いからねっ。


 しっかり者のミュセさんがいてくれると、だいぶ違うよっ。






 さてさてっ。そんなこんななイベントを経た後。

 さっそく問題が一つ。発生しましたっ!


 神殿に行く前に、クソ長い橋を渡らにゃならんですけど。


私「おおう。めっちゃ橋・ブリッジ!」


 前代未聞の壁を前にしてっ、私の足、すんごいがくがくしてるよ!


ミュセさん「大丈夫ですか?」

私「へ、へいきれふぃ」


 強がってみても、意識が飛びかける。

 私の脳裏に浮かぶのは、とある人の怒鳴り声だ。


『どうしてこんな簡単な事も出来ない! あれだけ時間があったのに』


 どことなくアズリーレに似ている男。


 その男の近くには女がいるけれど、哀れんだ目をむけるだけで、私にも男にも何もしない。


 体から血の気が徐々に引いていく。

 冷たくなっていくみたいだ。


 世界からも、温度が消えて。


 それでも、ポケットには温もり。


 雨が降っても、必ず晴れる。

 曇りがかっても、その向こうに太陽はある。


 私に前向きになれる魔法を教えてくれた。


 辛いときに、私の心を明るくしてくれた。


 それは、架空の世界だけど、私の心を温めてくれる唯一だった。


私「ひぃ、はぁ、ふぅ。私、がんばれ。できる! やれる!」


 私の一人芝居を聞いていたウォルド様は「まったく」と呟く。


ウォルド様「あんたすげー冷や汗掻いてるじゃねーか。そんなになってまで強がんなよ」

私「まあ、そうも見えまっすねっ」

ウォルド様「そうしか見えないんだけどな?」


 高所に設置された橋を前にして、まごついている私の顔をまじまじと見ながら、ウォルド様は「で、歩けんのか?」と発言。


私「歩けますよう。これくらい。いや、あははは、ひじょーにしまらない話なんですけど。昔こういった橋で、おっちょこちょいな私がおっこちた事があるわけですので。うへへ」

ウォルド「そこで笑うあんたの思考回路が理解できねーや」


 ですよねー!


 現在、橋の元でうろうろりんしてる私です!


 さっきから頑張ってるけど、一歩も進んでない!


 やばしやばし、なのでした!


 うぉー、高所こえー。まじやべー。


 橋の入り口から動こうとしない私に、ウォルド様はげっそり。


ウォルド様「はぁ。ったく。どうやったら動き出すんだ?」

私「そういわれましても(震え声)私自身にも解決方法がさっぱりとんちんかんでして(怯え中)!」


 それが分かったら苦労しない!


 って感じです。はい。


 ごめんなさい。


ミュセさん「あの、少し休憩しては?」

私「だっ、いじょーぶっすぅ」


 強がっても声がずっと震えてるよう。

 ううっ、泣けてきた!


ウォルド様「仕方ねーな。自分であるけねぇんだったらこうするしかねーか」


 ひょい。


 えっ?


 それはまさしくあれでした。

 乙女が夢見るあれ。


私「うぉぉぉぉ、抱っこ! ウォルド様に抱っこされてるぅぅ!」

ウォルド様「おい、暴れんな。バランスとれねーだろーが」


 この状態。分かります!?


 お姫様抱っこです!


 何でそんな涼しい顔してるんですか、私の推し!


 いやだって、抱っこですよ。

 全乙女が渇望するウォルド様からの。


 テンション上がらないわけにはいかないじゃないですか!


 うひょぉぉぉい(天国の時間堪能中)。







 はい、渡り終えました。


 冷静になってみて、落ち込み中。


 いや、抱っこは嬉しかったですけどね。


 私、お荷物ですん。


 もっと役に立ちたいんですけどねっ。


ウォルド様「何いまさら落ち込んでんだ」

私「ううっ、私なんて路傍の石ころなんです。どうか放っておいてください」

ウォルド様「へいへい」


 私を放っておいてさっさと歩きだすウォルド様。


 冷たいですーん。


 あっ、ミュセさん背中ぽんぽんありがとうございます。

 優しいですねー。ウォルド様と違って。


 まったく、私の推しは!

 本当においていく事ないじゃないですかっ。


 むかっ、私だって怒りますよ。


私「ウォルド様のイケメン! 人たらし!」


 あとは、あとは。えっと。


私「ウォルド様の顔だけ好青年! ウォルド様なんて、銀座のナンバーワンホストになってしまえばいいんですっ」


 はっ、悪口になってない!?


ウォルド様「そんだけ騒げるんだから元気あんだろ」


 明るいのがとりえですしっ!


 はーぁ。


 精進あるのみですよねー。


 私はどんよりとした顔をしながら、ウォルド様に引っ付いてあるきます。


 振り返った橋は、あの橋ではない。


 元の世界にある橋とは似ても似つかない。


 それは分かっているのに。


私「やっぱり、超幸運のハッピーガール五葉にはなれないんですかねっ」


 商店街の福引。

 よくあるガラガラの細工物が脳裏に浮かんだ。


 あれは、珍しく追いつけられた買い物だったけど、あの時あまった福引を譲ってくれた人がいた。


 なんでもない恰好をしたお兄さんが、自分は外れだったからって言って、残念賞のクローバーをくれたのだ。

 君みたいな子だったら、もしかしたらいいものが引けるかもねって。

 そしたら、その通りになった。

 ウォルド様に出会えた。


 私は髪留めをそっと触る。

 これは、あの世界にある唯一の未練。

 お礼を言いたかったな。


ウォルド様「それ、大事なもんなのか?」

私「むっちゃ、大事ですっ、ウォルド様の次に大事ですねっ」

ウォルド様「一番目はふつー自分だろ、つーか二番目にもいないのな。我儘なんじゃなかったのかよ」

私「ちゃんと我儘ですよーう?」


 だって私がいないと、ウォルド様を愛でられませんし?

 

ウォルド様「元気出せよ」

私「ありがとうございます」


 ちょっとしょんぼり小次郎してた私は、歩く速度を緩めたウォルド様の横に並んで、ミュセさんに気遣われながら、遺跡へ向かっていくのでした。



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