第10話 私シリアス、推し困惑
トルネード村
『病気で寝込んでいたウォルドはすっかり回復したようだ。彼らはまた旅を再会した』
『様々な出来事を経て、彼らの絆は深まっているように見えるけれど、それでもまだ互いに知らない部分はある』
『イツハの様子がおかしい。おそらくそれは呪いが原因なのだろう。正直ここまで変わるとは思わなったので戸惑っている。彼等も同じ気持ちだと思う。できれば早く元に戻ってほしい』
ふいに私の顔をのぞきこんできたウォルド様が、おでこに手をあてました。
ウォルド様「変なもんでも食ったか?」
私「どうしてそうなるんですか」
ウォルド様「いや、だってな」
困惑顔のウォルド様。
私の好きな推しは、私の顔を見て「いつもより大人しいしな」と言いました。
私だって、大人しくしてる時くらいあります。
とはいえ、ウォルド様の言いたい事は分かります。
事の発端は、約一時間前。
旅の途中に、もふもふした生物がすむ、トルネード村に立ち寄った時におこりました。
そこは、知能の高い動物がすむ村です。
住人は、ムニベアーという種族。
クマをミニチュアにしたみたいな動物達ですが、ミニベアとはちょっと違います。
額に角がある所ですね。
それ以外にも難点か異なる特徴はあるのですが、特に今は関係がないので横に置いておきましょう。
そのトルネード村には、ムニベアーが、何匹もすんでました。
かわいい見た目によらず、情に厚くて血の気の多い彼達(彼女達)、は私達を追いかけてきた追手をパワフルに吹き飛ばした後、私達をかくまってくれることになりました。
そういうわけがあるため、助けてもらった恩でムニベアー達が大切にしている祠のお掃除を手伝ったのですが、私がうっかりしてしまったため、祠に飾ってある物の一部を損壊。
ちょっとした呪いにかかってしまって、こうなってしまったというわけです。
人を大人しくさせる呪いって何ですかね?
ウォルド様「ちょっとずっと呪われたままでもいいんじゃねぇかって思えてきた」
私「さすがの私でも怒りますよ」
ウォルド様「あ、いや。悪い」
いつも自信満々なウォルド様が素直に謝るなんて、珍しい。
どういう風の吹き回しなんでしょう。
ウォルド様「あんたでも、マジで怒った顔すんのな」
ミュセさん「祠に謝った方が良いのではないでしょうか」
ウォルド様「そういう問題なのか?」
とりあえず、失礼な事をしてしまったのは確かなので祠に向かって謝り倒しました。
もちろん常識的に、ですよ。
いつものように奇声をあげたり、周囲の目をはばからずに奇行に及んだりはしません。
それでも、祠は「しーん」と無言です。
よっぽど腹に据えかねているのでしょう。
困りました。
私がこのままだとウォルド様も寂しいでしょうし、私も元気が出ないので。
振り回されている周りの人からみれば、このまま元に戻らない方が良いのかもしれませんけど。
私が私でなくなったら、それはもはや私ではないので、お断わりします。
ギャップ萌えは、ギャップが一割だから萌えられるんです。
八割も九割もあったら、それはギャップではありません。
ミュセさん「私は前のイツハさんも今のイツハさんも、いつも通り素敵な優しい方だと思いますよ」
ありがとうミュセさん、お世辞でも嬉しい。
ウォルド様「何でそんな元の自分にこだわりがあんだ?」
私「別に普通の事ではありませんか? 自分の個性に関する事ですし。ウォルド様だって、今の人格でなくなってお茶目な人格になったら、嫌でしょう」
ウォルド様「嫌って言うよりそれ以前に想像できねぇよ」
それは確かに。
まあ、こんな状況に陥る人の方がまれなので、想像できないのも仕方がありませんか。
私「とりあえず祠の主について詳しく調査してみないといけませんね」
ウォルド様「そうだな。さすがにあんたがそのままだと、俺も調子が狂ってくる」
トルネード村にある祠。
あれができたのはもう何十年も前らしい。
この祠関係の話は、ゲームにはなかった話だ。
食べるものがなくなって村のムニベアー達が困っていた時に、天から恵みが降り注いだ。
その恵みで命をつないだムニベアーたちは、きっと天使様がお恵みをくださったに違いないと考えた。
だから、その時に天から落ちてきた羽を祠に入れて、大切に保管したとか。
言い伝えによると、天から落ちてきた羽の一枚を地面に埋めた事により、食料を産まないやせた土地が生き返ったらしい。
ミュセさん「不思議な話ですね」
ウォルド様「おとぎ話ってもんは、だいたいそうだろ」
私「というと、天使が怒っているんでしょうか」
ウォルド様「天使も悪魔も、意外と人間っぽいとこがあんだな。だからって俺のやる事は変わらんぇねが」
設定によると、世界を手に入れたいという支配欲があったから、悪魔は天使になりかわろうとした。
悪魔何かに負けると思わず慢心していたから天使は敗北した。
どちらも、人の上に立つ者にしては人間味がある。
ウォルド様が言うように天使でも悪魔でも、意外とそういうものなのだ。
ともかく、私は天使が好きそうな事をすることにした。
ウォルド様「で? 出た結論がそれなのかよ」
私「天使は、人々から恵まれる敬意や心遣い、愛情が好きなようなので」
ウォルド様「天使のために特別なお供えものを用意したってわけか」
苦労して集めた幸運の四つ葉クローバーに銘酒ファイアーボール。
一日に一食しか販売されていない銘菓。
近隣の珍しい物を集めて祠におそなえしてみた。
すると、祠が光り輝いてお供え者が消滅。
ミュセさん「消えてしまいましたね」
手でその付近の空間を、すかすかしてみますが、本当に何もないです。
ウォルド様「どうやら気に入ったみたいだな」
私「何よりですね」
ウォルド様「けど、戻ってなくないか?」
私「そうですね」
ウォルド「天使のやつ、もっとお供えがほしいからとか思ってわざと呪いといてないんじゃねぇか」
私は無言で、近くにあった小石を握りしめた。
私「この天使、どこまで調子に……。私のウォルド様への愛情を利用してっ」
慌てて近くにいたムニベアー達が止めにかかる。
ウォルド様にも羽交い絞めにされて止められた。
ミュセさんはオロオロ。
ウォルド様「落ち着けっ、ちゃんと戻ってる、少しずつ戻ってるぞ」
ミュセさん「今のは、ほんの少しいつものイツハさんらしかったですよ」
私「そうですか。それは良かったです」
私は握りしめた小石をそっと、地面に置いた。
このまま元の私に戻らないままだったら、祠をばらばらにするところでしたよ。
天使さんにはぜひ、ウォルド様の慈悲に感謝してほしいです。
ウォルド様「やっぱ調子狂うな、頼むから天使さんよ。早くこいつを元に戻してくれ」
お供え物の効果って時差でもあるんでしょうかね。
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