第4話 どこにいった女子力
ゲーム「ヒロイック・プリンス」人気投票ナンバーワン。
孤高の王子ウォルド様!
女性ファンからの圧倒的支持!
多くのポイントを集めて堂々の連続一位ランクイン!
もやは殿堂入り!?
人気投票を記念して、全国各地のアニメ専門店で、フェアを開催!
ウォルド様の、キャラクターグッズを販売する予定です!
クリアファイルや下敷き、消しゴム、シール、キーホルダーなどなど。
キャラクターソングも新たに収録!
過去イベントで拾うされたオリジナルドラマも、CD化。
ウォルド様をあなたの生活に中にどうぞ!
これから「ヒロイック・プリンス」の世界に目を向けたい、という人には、本編でーむディスクを購入すると特別な記念品をプレゼント!
特価価格商品もあるので、ファンの皆さんお店にきてくださいね!
以上長い回想でした。
そんなわけでウォルド様にぞっこんな私は、橋の転落事故を経て異世界に転移してしまったのさっ!
転移って事だから、死体は残ってないよね?
華の乙女が無残な姿さらして、周囲の人にトラウマ植え付けてたりしないよね。
うっかりな私の行動で誰かの心に消えない傷を刻み付けてしまうのは本望ではないのでっ!
やー。困った困った。
普通、あれでいきなり異世界いくんかい?
そう思いますよねっ!
ひょっとして最近の流行りは、橋から落ちると、異世界レッツすんです?
何もできないただの女性学生が、異世界に行っても困るだけだぜ?
ほんと、困った困った。
ウォルド様が助けてくれなきゃ、牢屋の主と化して囚人たちにウォルド様を布教する所だった。
ウォルド様のすんばらしさは、男女共通だと思っているので、男性の方に布教するのもやぶさかではないけどっ。
私は恋するお嬢さんたちと、きゃぴきゃぴトークをしたいのだっ。
でもあれだよね。
ウォルド様って、面倒みすんごいいいよね。
私、自分の性格ちょっとあれかなーって自覚してるとこもあるんですよ?
これでも。
そんなあれな私がくっついていても、それほど嫌な顔しないんですから。
『イツハ達は、天使の神殿に向かっているようだ。野宿の品を片付けながら、地図を見つめている。犯罪者となっている彼らは大きな町には滞在できない。だからこうして夜を明かす事が習慣づいてしまったようだ。もっとも、彼らはそんな事、まるで苦にしていないようだが』
私「よっしゃぁぁぁ! 食べられるキノコゲット!」
ウォルド様「とったか? なら朝飯用のなべにつっこんどけ。後で煮るからよ」
私「わっかりましたぁぁぁ!」
ざばばっと。
さてさて。
今の時期は原作ストーリーの中盤かな?
このまま進んでいけば、ウィルド様の旅が進んで、天使と悪魔の入れ替わりが判明。
天使討ちをするという目的ができる頃だ。
今はまだ、その事実は知らないけど。
うーん。教えちゃおうかな。
朝方、野宿の寝袋の前で、ウォルド様が地図とにらめっこしている。
私「ウォルド様っ。次は天使の神殿に行くんですかっ」
ウォルド様「ああ、そうだな。そこで、あいつを助ける。連れていかれちまったあいつを」
私「実はその天使、中身が悪魔なんです。って言ったら信じてくれます?」
ウォルド「エルフを食らう奴の性格が、天使なわけねーだろ」
そういう比喩的なあれじゃなくっ。
私「天使様の中身は、実は悪魔にのっとられてるんです。ってのはどうです?」
ウォルド「へいへい」
がびーん。信じられてない。
分かってましたけど。悲しいですん。
なんて、落ち込んでると、ウォルド様が勘違い。
もうっ、なにこの一方通行。
ウォルド「もしかして怖気づいてんのか? それならそれでも別にいいんだぜ。もともとは俺一人で行こうと思ってたところだしな」
私「違います! 馬鹿にしないでください。たとえ神様でも、私のウォルド様愛は沈下できませんからねっ。ウォルド様なんてっ、ウォルド様なんてっ。実はさびしんぼさんの兎さんのくせにっ、そういう……俺べつに平気だからムーブかまさないでください!」
ウォルド「……」
私「ウォルド様が行くなら、深い海の中だろうと、険しい山の頂だろうとついて行きます!」
ウォルド「ほんっと、物好きだなアンタ。そんなとこには、いかねーよ」
ウォルド様は再び地図とにらめっこ。
移動ルートを考えているウォルド様の代わりに、私は私のできる事を!
罪びとでお尋ねものだから、気軽に有名な都市を経由できないのが辛いところなんでい。
私はぐるぐる、朝摘みしたキノコ、その他もろもろをお鍋で煮込む!
水を入れて、調味料もいれて、おたまで鍋の中身をかきまぜる。
それ、ぐーるぐるー。
私「ご飯は任せてください。もうちょっと待ってくださいねー。すぐご飯できますから」
ウォルド様「あー、あんたが作ってたのか。……気長に待たせてもらうぜ」
ただ旅についてくだけなのはさすがに心苦しいので!
ご飯とか洗濯とかをやらせていただきますよ!
きゃっ、これってまるで奥さんみたい!?
できれば、あーんとかもしてみたいっ!
うっ、脳内のウォルド様、かっこよすぎ。
それだけでご飯三杯いけそう。
私「うふふ、うふふふ、うふふふふふっ!」
ウォルド様「おーい、女がしちゃいけない顔になってるぞ」
はっ、失敬。
ですけど、お料理の成績あんまりよくないんだよね。
家庭科の通信簿も「もうちょっと頑張りましょう。変なアレンジさえ加えなければ合格点です」だったし。
むーん。あふれ出る独創性をひっこめられなかったのだ。
私「できました! ってあれ?」
ウォルド様「ZZZZ」
おっと、さては時間制限付きのクエストだったな?
残念、タイムアウトだぁぁぁ!
待ちぼうけくらったウォルド様は、寝ていらした。
居眠りしてるウォルド様も恰好良いけどねっ!
寝顔、堪能させていただきました!
それで、起こすのが遅れて料理が冷めてしまったのは、失敗失敗。
ごめんなさいもうしません。
料理の感想は「まあ、独創的な味だな」だった。先生と同じ感想だったよっ!
ねっ、私の独創性もう少し存在控えめにしようか?
とりあえず、そんなわけだから炊事役はウォルド様になった。
ウォルド様の作るご飯、どうだったって?
美味でした。
私のよりも数十倍。
何あれ!
女子!?
ウォルド様って女子だったの!?
食材もちゃんと切れてるし、火もちゃんと通ってるし、味付けもしっかりしてる。
どこにコツが?
なんて聞けばウォルド様はあきれ顔で「基本通りに作る事」だそうです。
うん、私の独創性ちょっと引っこめとこう。
街道を移動しながら、私に秘められた独創性について反省していると、汚名返上の機会がやってきた!
よーし、ウォルド様に気に入ってもらえるように、もっと他の部分で女子力をアピールするぞーうっ!
おっとっと、ウォルド様の旅の負担を軽減するのも忘れちゃいけない。
心構えは、長時間残業で疲れて帰宅した夫を迎える優しい妻のように!
妻!? まぁっ!?
ぐへへへへっ。
ウォルド様の妻だなんて、何て恐れおおい、にへへっ。
なんて、笑ってたらウォルド様に引かれてしまった。
ウォルド様「おーい、もどってこい。また、いつものか。顏引きしめとけ、通りがかった旅人が引くぞ」
はっ、つい。
ほっぺをぺしぺし。
ウォルド様の連れとして恥じないような品を保たなくては!
すれちがった旅人さんが、「うわぁ」みたいな顔して通り過ぎてったよ。
どんなひどい顔だったの!?
私「シリアス、シリアス」
元からあるとは思いませんがねっ!
でも、努力はするよ!
ウォルド様「あんたって、たまに変な言葉つかうよな。よく分かんねーけど、あんまり気張りすぎんなよ」
私「はいっ、頑張りますっ!」
ウォルド様「よし、聞いてねぇって事が分かった」
で、そんなこんなで真剣顔になった私がすまし顔で歩く。
どこって?
ウォルド様のう・し・ろ。
推しの隣もいいけど、いざという時対応できないからこの位置になったんです。
いざという時?
それはもうそろそろ判明すると思いまっせ。
ちょうどその時、道の向かいから、さっきすれ違った人とは別の旅人さんがやってきた。
その旅人は、一見普通のように見える。
けれど、ウォルド様が、警戒。
空気がほんのちょっぴり、ぴりっ!
ウォルド様の存在感が、五割くらい上がった感じでい!
私の推しは、緊張してるようだ。
おや、もう伏線回収で?
向かいからやってきた人たちは、私達とすれ違うってなった時に、その旅人がいきなり抜刀!
ひえーっ。
けど、ウォルド様がそれに対処した。旅の合間にゲットした刀でズバズバ切りあげる。
そしたら、旅人さん、ばったり。
お見事!
どうやら、旅人は変装した野盗だったみたいでっす。
野盗「金目のものをだしな! そうすりゃ命だけは助けてやる」
ウォルド様「地面に倒れながらすごんだって、説得力ねぇよ」
ウォルド様は、無謀にも立ち上がって反撃してくるその野盗に、ため息。
そして、さくさくたおしていく!
おぉー、かっこいい!
こう、ボコッ、ドカッとかいう効果音がつきそうな戦闘なんだけどね。
キラキラキラっていう演出も入ってるみたいな気がする。
バックに光が舞ってそう。
ひゅー。さっすが人気一位。緊急時でも絵になる!
写メってもいいですか!?
なーんて、スマホはこの世界に来た時に落っことしたから、持ってないんだよね。
はぁー。がっくし。
ウォルド様「ふぅ、終わったぞ。大丈夫か。って、心配するまでもなかったな」
おや、いつのまに戦闘修了?
ウォルド様はこちらを見て、肩をすくめる。
余裕ですね~。さすが主人公。
ウォルド「おっと、服が血で汚れちまったな。このまま町に入るわけにもいかねぇし、どうすっかな」
洗濯ですね!
はいはいはい!
私やりますっ!
やらせてくださいっ!
私「ふんふんふーん」
推しのお召し物を両手に持った私は上機嫌。
近くに川があって良かった~。
じゃぶじゃぶじゃぶ。
ウォルド様の汚れたお召し物をひったくって、ではなく丁重にもらって川で絶賛洗濯中。
私の気分は、とんでもなく最高潮。
うぉぉぉっ、これが推しの服。
ただの布切れの分際で、私のウォルド様にひと肌温度で温めてもらえるとは、なんと憎らしいっ!
むきーっ!
ごしごしごし。
私「お前は私のライバルだー。ウォルド様になれなれしく近づくんじゃなーいっ!」
ウォルド様「服洗いながら百面相して何やってんだ? それ以上洗うと、布がすりきれちまう」
気が付いたら背後にウォルド様。
はっ、またまたやっちまった。
手に持っていたお召し物が横からひょいっ。
ウォルド様は洗い過ぎてほんのちょっぴりすりへってる服を手にして、適当に絞ってからお召しになられた。
おおっ、ワイルド!
でもそこも恰好良い。
ウォルド様「着心地悪くなってるな。あんた洗濯禁止」
私「ええーっ!」
そんなぁ、せっかくできる事があると思ったのに。
女子力アピールの道がまた一歩遠のいてしまった。
なんて落ち込んでたら。
ウォルド様「血の付いた服なんてよく触りたがるな」
濡れた服を着たウォルド様が背中を向けて語りかけてきました。
私「ちょっと赤くなったくらい可愛いもんでいっ!」
ウォルド様「可愛いとかそういう問題か?」
私「血の付いた服だろうと汚れのついた服だろうと、それがウォルド様の服である事に変わりはないのでっ!」
ウォルド様「いや、俺が着てるとこが問題だろ」
何を言うんですウォルド様。
ウォルド様のお召し物は「ウォルド様の」という所が大事なんですよ。
それ以外の要素はおまけにすぎないんですからっ。
私の生涯の中では、もっと泥団子になった服を洗濯した思い出が山ほどあるしねっ。
迷子犬探し回った時とか、アクセサリーお砂場に落っことした時とか。
ウォルド様「あんたやっぱり変わってる」
ウォルト様はちょっぴり笑ってくれました。
そんな面白い事言った覚えはないけどな。
その後、無事に町に入って、数十分で買い物を終えて、さくっと外へ。
街の人達には、私達の事は、気づかれてなかったっぽい。
今回は、追いかけっこはなし。
うん、良かった。
私「全滅だぁぁぁっ!」
荷物番、火番、計算、繕い物(かろうじてマシ、ただし玩具制作だけ)、マッサージ、お茶くみ。
宿探し、地図読み、お買い物。
その他たもろもろ。
色々やってみたけど、全部だめだったよっ!!
特に女の子らしい事とか、家庭科っぽい事は全滅。
唯一、話し相手だけは好評だったけど。
だめだこりゃ。
私、お荷物。
推し、呆然。
って感じ。
うわーっ、さすがにやばいよ、これどうしよう。
推しについていきたいのに、何一つ貢献できてない私の存在意義。一体どちら様へ?
勝手にくっついてきた分際で足手まといとか、あなた何様って感じじゃないですかっ!
秘められた私の女子力どこ!
いつ目覚めてくれるのっ!
はぁーっ。
ウォルド様「何落ち込んでんだ? らしくねぇな」
なんて、ため息吐いてたらウォルド様が心配顏。
私の推し、やっさしい。
私「いえ、ちょっと壊滅的にダメダメなので落ち込んでました。しばらくひたってます。慰めて励ましてくれると嬉しいです」
ウォルド様「普通はそこで何でもないって言う所だろ」
おや、懸命なウォルド様なのに知らない?
見栄を張っても現実は変わらないんですよ?
しかし、本当にどうしよう。
このままじゃ、本格的にウォルド様の足手まといだ。
私、お邪魔キャラ。
これじゃあ、序盤で主人公につっかかってくるけど、数多の衝突の内に分かり合って、それなりに信頼感がでてくるうざったい雑魚キャラにもなれないよ。
はぁーっ。
私「ウォルド様-っ、こんなか弱くて何もできない私を捨てないでーっ。これからも旅に同行させてくださーいっ!」
ウォルド様「おいっ、びっくりするだろ。いきなり叫んで抱き着こうとするな」
すかっ。
よけられてしまった。
イケメンキャラならここで、恰好よく女の子を受け止めて慰めるのが普通なのに。
でも、そこをあえて避けるウォルド様、渋い! 恰好良い! 硬派!
人気ナンバーワンの推しウォルド様は、そういうのは安売りしないのだ。
ウォルド様「さてはあんた、落ち込んでるように見えて、あんがい平気だな」
てへっ。
ウォルド様「まっ、細かい事は気にすんな。同じ牢屋を脱獄した仲だしな。ワンセットで指名手配かかってる事思えば、そう簡単に見捨てやしねぇよ。じっくり自分にできる事考えりゃ良いんじゃねーか?」
私「本当ですかっ!」
足手まといなら置いてくって流れになるかと思ったのに。
さすが私の推し!
懐が深い!
女子力壊滅的だけど、できるだけウォルド様の力になれるようにがんばらなくっちゃ!
とりあえずは。
目指せ、推しの嫁!
ウォルド様「何か寒気がしてきたな。そういやこいつ調子のせると、結構失敗しするやつだったな……?」
後日、ウォルド様人形特大を作って、ウォルド様に引かれちまったよ!
恥ずかしいよね、ごめんなさい。
『イツハ達の旅は本当に楽しそうだ。夕飯のメニューは町での買い出し。些細な事でも、楽しいと幸せがあふれている。見ているだけで、私の心も温かくなってくる。でもそのたびに心が苦しくなる。何かが違えば、私がイツハの場所にいたのだから。ひょっとしたら、私もイツハと同じように彼の事を好いていたかもしれない。いや、もしかしたら今も……』
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