第34話
それから俺は、『母なる大地学園』の監督として、4人の部員たちを指導した。
『岩石乙女高校』とはあれっきりではなく、毎日練習に参加してきやがった。
まあ、こっちとしてもコンビネーションを受けてくれる相手が欲しかったので、交換条件として彼女らにも稽古をつけてやることにする。
練習内容はもちろん次の戦相手である、『すくすく冒険学校』を意識したもの。
試合まであと数日しかねぇから、のっけから実戦を想定した練習試合を何度もやって、メンバーに身体で覚えさせる。
相手の研究も忘れない。
ブソンから動画を提供してもらい、『すくすく冒険学校』の戦い方についても対策をたてておく。
『すくすく冒険学校』のメルカヴァは、
ファンタジーRPGにおいての「バランスのとれたパーティ」のお手本みたいなヤツらだが、実際に攻守の連携がとれているという強豪校らしい。
戦士と僧侶が前衛となり接近戦を行い、中衛である盗賊がクロスボウで援護。
ちなみに盗賊が使うクロスボウは人間サイズのではなく、メルカヴァ用の巨大サイズのやつ。
この世界のロボット、メルカヴァってやつはどうやら人間と同じ武器や魔法を使うのが一般的のようだ。
話を元に戻そう。
3体の前衛と中衛が敵の足止めをしている間に、後衛の魔法使いが『炎の呪文』を詠唱し、攻撃魔法をたたきこむ……それがヤツらの必勝パターン。
特筆すべきは魔法使いの攻撃魔法で、その火力は大会でもトップクラス。
そのメルカヴァには二つ名が付けられており、ようはそれほどまでに恐れられてるってことだ。
いいよな……二つ名。憧れるぜ……!
『白い悪魔』とか『青い悪魔』とか『赤い悪魔』とか……。
って、悪魔ばっかりじゃねぇか!
話を元に戻そう。
対するわが校は、全員魔法使い。
地震を起こすサイラ、砂の波を起こすラビア、石化して相手の動きを止めるカリーフ、瞬時に穴を掘れるシター。
こうして思い返してみると全員、地面に関する魔法ばかりだな。
魔法っていうと強力そうなイメージがあるが、相手にダメージを与えられるものがひとつもないんだよな……。
まあ優勝のことだけを考えるなら、俺が全部片付けちまってもいいんだけどな。
でもせっかく監督をしてやる以上、自分たちの力でちゃんと勝てるようになってもらいたい。
俺の授けた必殺のコンビネーションがあれば、きっとうまくいくはずなんだが……。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
『さあっ! やってまいりました、女子高対抗メルカバトル、Aブロック第9試合! 母なる大地学園と、すくすく冒険学校の対決です! 今回なんと、万年最下位といわれていた母大が、2回戦進出を果たしました! 母大の勢いは、このまま続くのでしょうか!? 解説のヴェトヴァさん、どう思われますかっ!?』
『ンフフフフフフ……! 母大の1回戦は、幸運がぐうぜん重なっただけ……! 運も実力のうちとは申しますが、運だけで勝てるのは一度だけ……! いつものように、完封される母大の姿が目に浮かびます……! ンフフフフフフ……!』
『ヴェトヴァさんもそう思われますか! 視聴者アンケートでも大方が……いや、100パーセントが母大の敗北を予想しています! 万年最下位のレッテルは、ダテではないようです! 彼女たちの一度の勝利は化けの皮なのか、それとも本当に生まれ変わったのか……それはすぐにわかります! まもなくバトルスタートです!』
俺は好き勝手ぬかす実況と解説を耳に挟みながら、スタートラインに並ぶ3つの背中を見据えていた。
今回のバトルフィールドは大草原。
木がぽつぽつと生えてはいるものの、メルカヴァが隠れられるほどの大きさではない。
はるか向こうに、対戦相手である『すくすく冒険学校』のヤツらがスタートラインについている姿が見える。
視界は開け、初期位置から敵の位置はお互い把握しているという状態からのスタート。
兵装の
こちとら時間がなくて、敵と真っ向から戦う練習しかしてこなかったからこれは助かる。
それに相手は、こっちの新作戦を知らねぇ。
初撃を外さなければ、イケるはず……!
しっかりキメてくれよ、サイラ、ラビア、シター……!
ううっ、なんだか落ち着かねぇ……!
こういうチーム形式で戦うのは久しぶりだから、すっげーワクワクするぜ……!
俺が、初めて戦場に立った時のような高揚感を味わっていると、不意に隣から、エコーがかかった声がした。
『あの……本当に、大丈夫でしょうか……?」
スピーカーごしなのに蚊の鳴くようなその声……カリーフだ。
フェイスも今にも泣き出しそうで、ウルウルしている。
それだけ不安そうにしておいてもまだ足りないのか、ボーンデッドの腕にぎゅっとしがみついてきた。
メルカヴァごしじゃ、ぬくもりなんて伝わらないのに……でもやらずにはいられないんだろう。
俺は八文字以内で励ます。
『シンパイ スルナ』
「あの……やっぱりあたしも、前に出て、みんなと一緒に戦ったほうが……」
不安のタネは試合の行く末よりも、自分の扱いについてのようだ。
しかしこれについては甘やかすわけにはいかねぇ。
『ダメダ』
「どうして、どうしてダメなんですか……? どうしてあたしだけ……!」
『キニ ノボレ』
「監督……!? 本当に、本当に試合中も木に登る練習を続けないとダメなんですか……!?」
『ソウダ』
「そんな……!」と、親から突き放された子供のような表情を浮かべるカリーフ。
……俺は母大のメンバーに、新しいコンビネーションを授けた。
ただそれはサイラ、ラビア、シターの3機で成立するもの。
残ったカリーフ機に俺が命じたのは『木登りの練習』。
それも、練習中でも試合中でもおかまいなしに。
メルカヴァで木を登るのは不可能に近いらしく、ピック義賊の猿のようなメルカヴァ『
部員たちからムチャだと反対を受けたが、俺は押し切った。
木に登れるようになるまで、それ以外のことはするな、ひたすら練習しろ、と……!
……ドドーンッ!
上空から轟音が降ってくる。
試合開始を知らせる花火が、雲ひとつない空に白煙をばら巻いていた。
短距離走のピストルの合図のようにスタートを切る、サイラ、ラビア、シター。
俺はカリーフに『イイカラ ヤレ』とだけ伝え、彼女らの背中に興味を移す。
ガチョンガチョンと遠ざかっていく3機のメルカヴァを、メインモニターでズームして追いかける。
その間、左右に配したサブモニターを素早くチラ見。
片方のモニターは『さあっ! いよいよ始まりましたっ!』と身を乗り出す解説者。
もう片方には『がんばってー! ボーンデッドさまーっ!』と大声援をくれる嫁たち。
聖堂院にある魔送モニターには、嫁たちだけじゃなくて街のヤツらの姿もある。
俺がメルカバトルに出ていると聞いて、応援に来てくれたんだろう。
でも、男の声援はあんまりいらねぇな……と思っていると、先陣を切っていたヤツらが戦闘態勢に入った。
量産機っぽい肩越しには、主人公機っぽいのが肩を並べている。
真紅の鎧に、武器は巨大な剣と盾。
フェイスにはハチマキをしたボーイッシュな少女、『
純白のボディに、モーニングスターと盾。
フェイスには規律正しそうな、前髪ぱっつんの少女、『
紅白の機体の間から覗く、緑色のメルカヴァ。
ハリツケ台のような巨大な十字を構えるのは、キツネ目の少女、『
そして……彼女たちの最後尾、大ボスのように控える影。
そこだけ夜が訪れたような、漆黒の機体。
フェイスも深くフードを被っていて、表情は伺い知れない。
口元がボソボスと動くたび、掲げた杖の先から赤熱する魔法陣が広がっていく。
アイツが、『
『爆炎の使徒』の異名を持つ、『すくすく冒険学校』のエース……!
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