第28話
『ブラックサンター国立第三毒蜘蛛女子』と『ピック義賊』の戦いはそれから覆ることはなく、試合というよりも処刑のような展開を繰り返し、幕を閉じた。
常識的な感覚ならば途中で待ったが掛かってもおかしくなのだが、解説兼大会委員長であるヴェトヴァが最後まで試合を続行するよう両チームに伝えたんだ。
大会ルールではパイロットへの『故意』の直接攻撃は禁じられているのだが、ブラ女の攻撃にその意図は認められないというのがその言い分だった。
結局、ピック義賊の女生徒たちは全員、手足を貫かれて負傷し……試合終了とともにコクピットから助け出され、タンカで運ばれていった。
その一部始終を中継で見ていた俺は、揺るぎない決意を固める。
『ネフィラ・クラヴァータ』を、絶対にブッ潰すと……!
俺は、降伏した相手を攻撃するのが大っ嫌いなんだ……!
そういうヤツに限って、相手をじわじわいたぶるようなマネをしやがる……!
ゲームでもそんな悪趣味なヤツは珍しくない。それこそごまんといる。
そういうヤツと対戦した場合、俺は徹底的にヤルって決めている。
普段なら一撃で楽にしてやるところを、二度とそんな気が起こらねぇように、スクラップを通り越して鉄クズにする。
並のやつならネフィラと同じく手足をもぐことくらいしかしねぇが、俺はさらにその先……パイロットを閉じ込めたまま、ボディをサイコロにしてやるんだ。
そこまで破壊された場合、通常以上の
たとえエース級の機体であっても、いっきに量産機レベルにまで堕ちるんだ。
そうなったヤツは二度と俺の前には現れなくなる。
なかには数万時間かけて育て上げた機体を俺にオシャカにされて、引退しちまったヤツもいるが……知ったこっちゃねぇ。
そうだ……俺はネフィラのパイロットであるヴィスコリアを、二度とメルカバトルができねぇほどに叩きのめしてやるつもりだ……!
俺がひとりカッカしていると、合宿所の建物から『母なる大地学園』のメンバーがぞろぞろと出てきた。
ブラ女の試合を観てすっかりビビっちまったのか、どいつもこいつも青い顔をしてやがる。
「はぁ……ブラ女の試合、すごかったね……」
リーダーのサイラがため息をつく。
「あんなの……勝てるわけねぇーじゃねぇーか!」
ガン! と壁を蹴って八つ当たりしているラビア。
「こ、こここ、怖かったですぅ……!」
青を通り越して、真っ白になっているカリーフ。
「勝率はコンマゼロ。勝つのは不可能」
シターは唯一冷静だったが、もうあきらめの境地に達していた。
おいおい、コイツらもう負けたような気でいるじゃねぇか……と思っていたら、サイラがいきなり弾けるようにピョンピョン跳ねだした。
「……って、落ち込んでる場合じゃないよっ! 負けたら廃校になっちゃうんだよ!? まだ次の試合までには時間があるから、練習しようよ! ブラ女と当たるとしても決勝だから、それまでに強くなれば、きっと勝てるよ!」
「そ……そうだな。よく考えたらブラ女と当たるのはまだ先なんだよな! おいっ、いつまでもメソメソしてんじゃねぇぞ、カリーフ!」
「きゃんっ!? はっ、はひい! ご、ごめんなさぁい!」
「我々の現状の作戦から見直す必要がある。そうすればコンマゼロの勝率も、多少はあがる可能性がある」
「いまの俺たちの作戦って、サイラが考えたヤツか?」
「うん。でもボク、作戦立案はあんまり得意じゃなくって……あ、だったらシターちゃん、なにかいい作戦はない? 勝率がドーンってあがるような!」
「自分はメルカヴァの作戦立案はできない。あくまで分析のみ。現状の作戦では、勝率はかぎりなくゼロに近い」
「だよなぁ、岩石乙女の時の試合も、カリーフのヤツが真っ先に逃げ出してから総崩れになったんだ……わかってんのかよ、オイッ!」
「ごっ、ごめんなさぁい……! あたしが臆病なばっかりに……!」
「もう、ラビアちゃん! カリーフちゃんだけの責任じゃないよ! カリーフちゃんも泣かないで、あの作戦はちゃんとやればうまくいくんだから、練習しよう!」
なんとなく、コイツらの性格がわかったような気がした。
リーダーのサイラがムードメーカーで、ラビアは強気で思ったことをズケズケ言う。
カリーフはひたすら弱気で、シターは冷静に状況を分析している……。
そしていちばんハッキリとわかったのは、コイツらはド素人である、ということだ……!
大会に参加する強豪校どころか、同好会レベルの腕前の集団……!
こりゃ、ブラ女どころか次の試合も危ういんじゃねぇか……? と思っていたら、またしてもサイラの声が弾けた。
「……あっ! いらっしゃーい!」
サイラの見ていた方角に、ひとりの少女が立っていた。
忘れもしねぇ……今朝がた俺にベアハッグをかけてきたヤツだ。
「あなたはたしか……あっ、思い出した! ……えーっと、えーっと……誰だっけ?」
ぜんぜん思い出せてねぇじゃねぇか。
「……岩石乙女のキャプテン、ブソンだ」
ブソンと名乗ったソイツは武人のような堂々とした足取りで、母大メンバーの元へと歩みよっていく。
長髪に、宝塚の男役みたいなキリリとした顔。
身体は女にしては大柄で、かなり引き締まっている。
メルカヴァ乗りというよりはレスリングの選手みてぇだ。
さっそくウチの切り込み隊長が食ってかかるが、如実に体格差がある。
「なんだテメェ!? 負けた腹いせに来たのか!?」
受けて立つとばかりにリアルファイトの構えをとるラビア。
その背後にサッと隠れるカリーフ。
ブソンは挑発に乗ることも言い繕うこともせずに、ゆっくりと首を左右に振った。
「違う。試合開始後の挨拶を忘れていたのだ。敗北のショックですっかり忘れていたのでな。こうして挨拶に来たのだ」
「律儀」とつぶやくシター。
サイラは人懐こい笑顔を浮かべながら、ブソンの手をとり歓迎する。
「わざわざありがとうブソンちゃん! ……あっ、そうだ! ちょっとお願いがあるんだけど……」
「なんだ?」
「ボクたちこれから次の試合に向けて練習しようと思ってたんだけど、もしよければ付き合ってくれないかな?」
「練習試合の申し込みか。構わない、受けて立とう」
「ホント!? ありがとうブソンちゃん!」
「……実は、私もそれを頼みたかったのだ」
「えっ、そうなの?」と驚くサイラを横目に、ブソンはなぜか俺を見上げた。
「試合後に合宿所に戻って整備班に確認させたのだがな。我々のメルカヴァに整備不良は認められなかった。となると我々が敗北を喫しのは偶然などではなく、このゴーレムの実力ではないかと思ってな。それを確かめたかったのだ」
「あっ、ブソンちゃん、この子は『ボーンデッド』さんっていうんだよ!」
「……『ボーンデッド』か……どうか、もう一度手合わせを頼みたい」
そう言ってブソンは、軽く俺に一礼した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
というわけで、俺も練習試合に参加するハメになっちまった。
参加校の合宿所どうしはそれほど離れていないらしく、ブソンはいったん戻るとすぐに例のどすこいメルカヴァを引き連れて戻ってきた。
それで、規模の違いを思い知らされる。
岩石乙女のメルカヴァ部は数十人規模で、一軍と二軍に分かれている。
パイロットの数以上のメルカヴァを有しており、専用の整備班によりメンテナンスも行き届いているようだった。
対する母大のメルカヴァ部は4人きり。
メルカヴァが故障しても自力では直せず、大会側が用意してくれている整備スタッフにいつも頼んでいるそうだ。
戦う前から勝負はついているほどの設備差をまざまざと見せつけられ、俺は納得する。
……う~ん、これじゃたしかに岩石乙女のヤツらも、負けたのは偶然だと思いたくなるよなぁ……。
それからさっそく練習試合ということになったんだが、俺の実力を見極めたいということで、母大のメンバーとは別に試合をすることになった。
母大のヤツらは4対4で普通のメルカバトル、俺は複数を相手にした組み手という形式になる。
それは俺にとってもちょうどいい申し出だった。
母大の作戦とやらがどんなものなのか、俺はまだ見たことがなかったからな。
我が部のメンバーの戦い方を見た俺は、そのあまりの意外さに驚くことになるんだが……それはまた次回ってことで。
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