第26話
『女子高対抗メルカバトル』のルールはこうだ。
参加できるパイロットは最大4名までで、同じくメルカヴァも最大4機まで。
どちらもオーバーするのはダメだが、少ない分にはかまわない。
でも制限といっていいのはそれらの数だけで、メルカヴァのサイズや武装は問わず、なにを使ってもいいそうだ。
ゴーレムについても無制限に参加が可能。
何機でも投入してかまわない。
……こう聞くと、かなりルールがザルのような気がする。
金にモノを言わせて、何百体もゴーレムを入れればいんじゃね? と俺も思った。
だがゴーレムは自律で動かすとかなり弱っちいらしく、働きを期待するのであれば遠隔制御をする必要があるらしい。
しかしそれにはメルカヴァを操る以上のスキルが必要らしく、苦労に見合う強さもないという。
遠隔制御の人員もパイロットの頭数としてカウントされるので、そんな役立たずにリソースを割くヒマがあったら、メルカヴァの操縦テクを鍛えさせたほうが圧倒的に効率的だそうだ。
それを如実に表しているのが勝敗ルール。
相手のメルカヴァを全滅させたほうが勝ちなのだが、ゴーレムは別に倒さなくてもいいらしい。
俺はこの世界のゴーレムというのをまだ見たことがないのだが、その扱いからするに、『みそっかす』くらいの存在のようだ。
大会に参加するのは地区予選を勝ち抜いてきた32校。
AブロックとBブロックに分かれ、トーナメントによる勝ち抜き戦で優勝校を決める。
簡単に言うと、5回勝てばチャンピオンってことだな。
我が『母なる大地学園』はAブロック1回戦で、『岩石乙女高校』を破り2回戦に進出。
万年最下位から脱出したらしい。
しかし万年最下位のクセに、よく毎回毎回、地区予選を勝ち抜いてくるよなぁ……と思っていたんだが、『母なる大地学園』の地区はメルカヴァ部が他になく、毎回自動的に本選に進出していることがわかった。
本来であるならば、地区予選すら勝ち抜けない実力らしい。
なるほど……どうりで『万年最下位』なんて呼ばれるわけだ。
その激弱なウチの部が次に当たるのは『すくすく冒険学校』。
なんか名前からするに楽勝っぽいな。
俺はすぐにでもたたんでやりたかったんだが、Aブロックの2回戦は1週間後らしい。
そりゃそうか、他の学校の試合もあるんだからな。
あとちなみにではあるが、『ブラックサンター国立第三毒蜘蛛女子』はBブロックなので、当たるとしたら決勝戦以外にはない。
ヤツは俺のターゲットでもあるから、勝ち上がってきてくれなきゃ困るんだが……どうやら今回の優勝候補らしいので、心配はいらないだろう。
なお大会期間中は、バトル会場のまわりにあるキャンプ地が合宿所として割り当てられ、そこで生活することになるらしい。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
初勝利をかざった母大メルカヴァ部のメンバーたちは、その日の夕方ごろ合宿所に戻った。
さっそく所内にある魔送モニターの前に陣取り、他の学校の試合観戦をはじめる。
俺は例によって合宿所には入れないので、外の庭でコクピットから試合を観ることにする。
ちょうどいいタイミングで、『ブラックサンター国立第三毒蜘蛛女子』の試合が始まるところだった。
相変わらず元気ハツラツな実況と色気ムンムンの解説役が肩を並べ、試合前のアナウンスをはじめる。
『……さぁっ! いよいよやってまいりました! Bブロック1回戦、「ブラックサンター国立第三毒蜘蛛女子」と「ピック義賊」の対決!
どちらも強豪校とされ、激戦は必至のこのカード!
解説のヴェトヴァさん! この試合、どちらが勝つと予想されますかっ!?』
『……ンフフフフフ……!
「ピック義賊」のメルカヴァは「
メルカヴァとは思えない身軽さで、相手を翻弄するのを得意としております……!
対する「ブラ女」のメルカヴァ、「ネフィラ・クラヴァータ」は1機……!
しかし全ての能力において、この大会最高クラス……!
ピック義賊のメルカヴァ4機あわせても、足元にも及ばない……!
ブラ女の圧倒的勝利に終わるでしょう……! ンフフフフフフ……!』
……たった1機なのか? と俺は思ったが、画面が切り替わってすぐに納得がいく。
ブラ女のメルカヴァ『ネフィラ・クラヴァータ』は8本脚の蜘蛛のようなメルカヴァで、ロボットというよりも歩く基地に近かったんだ。
長い脚に支えられた巨大なコクピットはビルのような高い位置にあり、そこには4人の搭乗者がいた。
なるほど……4人で普通のを4機じゃなく、4人でデカい1機を操ろうってワケか……。
それにデカいのは機体だけじゃなく、乗ってるヤツの態度も同じくらいデカそうだった。
リーダーっぽいパイロットは、なんか高飛車なお嬢様ってカンジのヤツだ。
いや、お嬢様どころか、まるで雲の上から下界を見下ろす女神様みたいだぜ……蜘蛛だけに。
って、やかましいわ!
でも4人で1機のメルカヴァを操作するとは……なかなか面白ぇじゃねぇか……!
正直、最初はあまり期待していなかった。
『ブラックサンター』の一員ってことは、良くて『キング・バンディット号』に毛が生えた程度だろうと思っていたんだ。
でもいい意味で期待は裏切られた。
さすがランキング10位だけはある。
こりゃ、少しは楽しめそうだぜ……!
対するピック義賊のほうは、猿のような小柄なメルカヴァが4体。
ピョンピョンと飛んだり跳ねたりして、機械のクセに準備運動をしていた。
『さあっ、今、お互いの学校がスタートラインにつきました! メルカバトル、スタートですっ!』
……ドドーンッ!
試合開始を知らせる花火が、夕暮れの森の上空に、夕顔のような花を咲かせる。
それを合図として、かたや忍者のようにすばしっこく、かたや鷹揚に動き出す、それぞれのメルカヴァ。
この『女子高対抗メルカバトル』では、お互いのスタート地点はかなり離れたところにある。
目視できない距離なので、索敵も重要な要素となっているんだ。
その点でだけでいえば、ピック義賊のほうが有利に思えた。
なぜならば、『ネフィラ・クラヴァータ』……めんどくせぇから以降『ネフィラ』と呼ぶが、ネフィラは背が高すぎるからだ。
高所から見下ろせるというメリットはあるものの、機動力がない分、位置を捉えられたら逃げも隠れもできない。
しかし、ネフィラ本人は隠れる気は全く無いらしい。
森の中を通る開けた一本道を、我が物顔で進んでいる。
両者はしばらくの間、ぶつかりあうことはなかった。
魔送で見ていると、上空からの見取り図でわかりやすく両者の布陣がわかるのだが、当人たちは相手がどこにいるのかわからないのだ。
それでもピック義賊のほうが先に相手を発見したようで、森の中で見つからないように包囲網をとっていた。
そして……1機の猿が、森から飛び出す。
『おおっとぉ!? ピック義賊が仕掛けたようです! しかし、驚いている様子! 相手の位置を把握していなかったのでしょうか!? 1対1ではさすがに分が悪いと、道伝いに逃げ出します!』
俺はすぐにわかった。
アレは陽動しているんだと。
……でも、相手は1機だぞ? 1機を陽動してどうするんだ?
と思っていたら、ネフィラの胴体の上に浮かび上がっている4つのフェイスのうち、一番手前にいるお嬢様っぽい女が叫んだんだ。
『マヌケなお猿が1匹飛び出してきましたわっ! ウェブよぉーい!
取り巻きのようなフェイスが『ははっ!』と応じると、ネフィラの胴体から白いボールのようなものがポンポンと射出される。
そのボールは跳ねたあとヒトデのように展開し、人の形をなした。
『おおーっとぉ! 出ましたぁ! ブラ女の頼もしいゴーレム、「ウェブ」です!
今大会、二種類めのゴーレムとなります!
そういえば朝の試合でも白いゴーレムが登場しましたよね!?
それと比べてどうなんでしょうか!? ヴェトヴァさん!』
『ンフフフフフフ……! ブラ女のゴーレムは「スパイダー・ウェブ」と呼ばれる由緒正しきゴーレム……!
高い機動力と戦闘力を有し、
主人が最後の1機になるまで戦いに参加しないような、薄情なゴーレムとはわけがちがうのです……ンフフフフフフ……!』
……薄情なゴーレムで悪かったな。
っていうか、もともと主人ちゃうし。
でも、猿たちの狙いはわかった。
あの『ウェブ』をおびき寄せ、ネフィラと引き離すためだったのか。
おびただしい数のウェブがウジャウジャと群れをなし、陽動の猿を追いかけていく。
お嬢様が『
なら、本体はもうガラ空きなんじゃ……?
どうやらそれが狙いだったようで、茂みを破って次々と猿たちが飛び出してきた。
赤いほっぺをした、田舎の女子高生のようなあかぬけない子たちが、してやったりと叫ぶ。
『見事なまでに引っかかってくれたなやぁ! ウェブを全部出しちゃうおめぇのクセはとーっくに研究済みなんだぁ!』
『さあっ、戻ってくる前にやっちまうべ!』
『よぉし、やるべっ! フォーメーション、Mだっぺ!』
猿たちはお互いの身体を肩車すると、一番上にいたヤツがウキーッと飛び上がった。
どうやら高さと跳躍力を利用して、一気に胴体を攻撃するつもりのようだ。
完全に不意を突かれた形となるネフィラ。しかし、お嬢様はちっとも慌てず、
『……後退っ!』『ははっ!』
次の瞬間、さっきまでの鷹揚さが何かの間違いであったかのように、ネフィラはカサカサカサッ! と後ろに下がっていった。
『ええっ!? ウソだべぇ!? おめぇがそんなに素早いだなんて、聞いてないっぺよぉーっ!』
あと少しで本丸を落とせていた猿は、無念の叫びとともに墜落していく。
しかし空中で「きばるっぺぇーっ!」とネバーギブアップの精神を発揮。
前転して受け身をとったあと、ネフィラに向かって走り出す。
『こっちの有利は変わっちゃいないっぺ! ウェブがいない以上、おめぇはただ速いだけの蜘蛛よぉーっ! 脚を押さえることができれば、その機動力も奪えるはずだべ! みんなっ、かかるんだなやぁーっ!』
『おうさぁーっ!』
三位一体となった猿たちが、一気にネフィラに詰め寄る。
しかしお嬢様は、己の手のひらにいる孫悟空のように彼女らを見下ろしていた。
『フフン……そう簡単に、勝利の女神のおみ足にキッスはできなくってよ……! ウェブ第2弾!
そして再び発射される、大量の蜘蛛の卵。
これにはさすがに猿たちも『ええええええーーーーーっ!?』と絶叫していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます