第23話

 俺は、『キング・バンディット号』を倒してランキング11位となり、その報酬として新しい兵装をふたつ得た。

 そのひとつ『ローラーダッシュ』が絶賛稼働中。


 これは機体の足の裏に車輪が増設され、立ったまま車のように走れるという便利なヤツだ。

 ボーンデッドの装備としてはショボイ部類に入るが、あるのとないのとでは大違い。


 これナシだと、脚を使って人間みたいに走らなくちゃいけなくなる。

 それだと振動があるうえに、ガションガションうるさいんだ。見た目もなんかアレだし。


 それに比べたら……いまは天国みたいなもんだ。


 俺は心地よい振動を感じながら、森をぬうようなあぜ道をひたすらに疾走していた。


 ……『ロッガスの町』を出て、もう一週間か。


 最初のうちは聖堂院に置いてきた女の子たちが心配になって、気が気じゃなかったんだが……それは意外なスキルで緩和できた。


 『魔送』……この世界でいうテレビ放送が受信できるスキルなんだが、これをレベル2にしてみたら、なんとビデオチャットができるようになったんだ。


 相手は聖堂院にある大きな魔送モニター。

 といっても俺がチャットをするわけにはいかねぇから、向こうの映像を一方的に覗き見するのに使っている。


 簡単に言うと、留守中に赤ちゃんとかペットとかを見守るカメラみたいな使い方だな。


 ボーンデッドのコクピットにあるモニターをひとつ割いて、聖堂院の様子だけはいつもわかるようにしている。

 今現在、俺のかわいい嫁たちは、ボーンデッドを模した手作りの像に向かって日課の歌を唄っているところだった。


 ルルニーの淑やかなピアノにあわせ、ララニーが元気いっぱいに指揮をとる。



「さぁーっ! みなさん! 今日も元気にうたいましょー!」



 「はぁーい!!」という弾ける笑顔とともに、清らかな合唱がはじまる。



 ♪ボーンデッドさま、おはよう、今日もいちにち良い子でいます


 ♪ごはんもしっかり、おべんきょうもしっかり、おいのりもチャッカリやります


 ♪だからはやく、帰ってきてね、かえってみんなと合体してね


 ♪ボーンデッドさま、だいすき、だいすき、だれよりも愛しています



 ちなみにこの歌は5番まであって、朝、昼、おやつ、夜、寝る前にそれぞれ歌われる。

 その度に俺はボーンデッドを反転させて、来た道を戻りたくなっちまうんだ。


 だけど……そういうわけにはいかねぇ。

 『ブラックサンター』に狙われている俺が戻ったら、彼女たちを不幸にしちまうからな。


 といっても……このまま黙ってるつもりはねぇ。

 いずれはこっちから打って出るつもりだ。


 まだ敵の規模はわからねぇけど、『魔送』の放映ができるってことはかなりのモノなんだろう。

 いくらボーンデッドとはいえ、マトモな飛び道具もないうちからやりあうのはヤバいかもしれねぇ。


 とりあえずはランキングを上げて報酬を得るのと、ボーンデッドをパワーアップさせることに専念しよう。


 それと並行して、『ブラックサンター』についての情報を集めるんだ。


 ちなみに情報収集の一環として、『魔送』はつけっぱなしにしている。

 あのクソ総統の演説が、またあるかもしれないからな。


 でもいまは平和で、ちょうど『メルカバトル』というメルカヴァ同士の戦いを実況する番組が放映されている。


 今回のメルカバトルは、高校生どうしの団体戦を中継しているようだった。



『……さあっ! 「母なる大地学園」と「岩石乙女高校」のバトルはいよいよ決着に向かおうとしています!


 試合は大方の予想どおり、序盤から岩石乙女の一方的な試合運びとなりました!

 やはり「母なる大地学園」は万年最下位のまま終わってしまうようです!


 これも、運命というものなのでしょうか……!


 残るは母大のリーダー、サイラ機のみ!

 それを岩石乙女はフルメンバーで追いかけています!


 逃げるサイラ機! 追う乙女!

 しかしその差はどんどん縮まっています!


 母大の滅亡へのカウントダウンは、刻一刻と迫って……!


 ……おおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?』



 ……ドガァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!



 轟音とともに、ボーンデッドのコクピットが激しく揺れる。


 しまった、魔送に夢中になって前を見てなかった。

 なにかにぶつかっちまったようだ。


 見るとそこには、相撲取りみたいなごついメルカヴァが倒れていた。


 どうやら、俺が吹っ飛ばしちまったらしい。

 ぶつかった箇所は大きくへこんでおり、そのショックで内部損傷したのか機体のあちこちから白煙が吹き出している。


 しかし……このメルカヴァ、どこかで見たことがあるような……?



『……ーーーーーーーーーーーーーーーーっとぉぉぉ!?!?


 ここでいきなりゴーレムが乱入してきましたっ!


 まさか、母大がこんな隠し玉を用意していただなんて……!』



 実況の声に、俺はハッと魔送モニターのほうに視線を戻す。

 するとそこには、俺……ボーンデッドが映っていたんだ……!


 遠くから、スピーカーごしの声が響いてきた。



『なんだ!? いきなりゴーレムが飛び出してきたぞっ!?』



『すみませんキャプテン! やられてしまいました!』



『だから油断するなと言っただろう!』



『どうしよう!? 見たこともないゴーレムよ!?』



『どうせ、最後の悪あがき……! しょせんはゴーレムだっ! 一気につぶせっ!』



『おおっ!』



 声のしたほうを見ると、アマゾネスのような蛮声とともに襲いかかってくるゴツイ三連星。


 どいつもこいつもやたらと図体がデカく、ボーンデッドよりひと回り以上大きい。

 そんな巨体が列をなして走っているもんだから、ドスンドスンと地響きが起こっていた。


 浮かび上がっているフェイスも、かなりの体育会系女子……。

 女相撲の立ち会いのような迫力満点の顔で、今まさに突っ込んでこようとしていた。


 その相手はもちろん…………俺っ!?



「……おい、待てよっ!? 俺は通りかかっただけだぞっ!?」



 と、コクピットで叫んだところで聞こえるわけもなく、かといってチャットを打ってるヒマもない。


 俺は操縦桿を握り直し、すばやい操作を行った。


 暴れ牛のようなメルカヴァを一体一体かわし、すれ違いざまに脚をひっかける。



 『ああっ!?』『きゃあっ!?』『しまった……!』



 野球の練習のように、次々とヘッドスライディングをかます三連星。



 ……ドスン! ドスン! ドスゥゥーーーン!!



 走っていたときの何倍もの衝撃を持って、地に伏した。



『おおっとぉーーーーーーっ!?!? 母大所属のゴーレム、これはラッキーです! 偶然にも、3体とも足を滑らせたようです!』



 偶然じゃねぇけどな……と心の中で実況に突っ込んでいると、倒れたメルカヴァたちはひっくり返った亀みたいにバタバタともがきはじめた。



『し、しまった!? 倒された!?』



『どうしよう!? このままじゃマズイわよ!?』



『は、早く起き上がるんだっ!』



『で、でも私たち……起き上がる練習なんて、してませんっ!』



 ……なんだコイツら……自力で立つこともできねぇのかよ……。


 しょうがないので俺は、手をさしのべて助けてやることにした。



『えっ……? あ、あれ……?』



『お、起こしてくれる……の?』



 キョトンとした表情のパイロットたち。

 襲いかかってくる時は恐ろしい顔してたけど、こうして見ると普通の女子高生だなぁ。


 なんてことを思いながら、おそらくリーダー機であろう最後の1体を助け起こしてやった。



『う、うむ……かたじけない。まさか敵に助けられるとは、思いもしなかった……』



 リーダーの子は戸惑いながらも近づいてきて、ボーンデッドにハグをする。

 なんだ、かわいい所あるじゃねぇか、と思っていたら、



『だが、勝負は勝負……! 許せ……! 私たちも負けるわけにはいかないのだ……!』



 突然ベアハッグのように、締め上げてきやがったんだ……!

 ったく……! 俺は関係ねぇってのに……!



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●レベルアップしたスキル


 内装

  Lv.01 ⇒ Lv.02 魔送

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