解答編1

 D. 無罪


 改めて前提を確認します。


 前提a:身体の一部をサイバネティクスにより置換ないし補完した人間は、法律上は元の人間と同一の者として扱われます。


 前提b:遺伝子の一部を改造し、元の遺伝情報と異なる特徴を持たされた人間は、法律上は通常の人間として扱われます。


 前提c:人体の代用部品として使用されている人工部品サイバネティクス及び生体部品オーガニクスは、一時的に取り外した場合でも、法律上は組み込まれた人間の体の一部として扱われます。


 つまり、以下のような事実が判ります。


 前提a´:前提aより、身体の一部をサイバネティクスにより置換ないし補完した人間が、別の一部をサイバネティクスにより置換ないし補完した場合、法律上は元の人間と同一の者として扱われます。


 前提a´´:前提a´より、身体の各部をサイバネティクスにより置換ないし補完し続け、全身がサイバネティクスで構成されるようになった人間は、法律上は元の人間として扱われます。


 前提b´:前提bより、遺伝子の全てを順次改造し、元の遺伝情報を一切持たなくなった人間は、法律上は通常の人間として扱われます。


 前提b´´:前提a´´及び前提b´より、遺伝子の全てを順次改造し、人類種の遺伝情報を一切持たなくなった人間は、法律上は通常の人間として扱われます。


 前提b´´´:前提b´´及び前提cより、遺伝子改造によって生じた無改造人類種には存在しないパーツ、または無改造人類種より数の多いパーツであっても、法律上は人体の一部として扱われます。


 前提c´:前提cより、植毛措置により頭皮に植え付けられた毛髪は、抜けてしまった場合でも、法律上は組み込まれた人間の体の一部として扱われます。


 前提c´´:前提b´´´及び前提c´より、遺伝子改造によって、脳を含む全ての臓器や四肢、骨肉、肌等を備えた、無改造人類種と同等の構成要素と大きさを持つ毛髪を生成し、植毛手術により毛先の一部を頭皮に植え付け、その後抜けてしまった場合でも、法律上は組み込まれた人間の体の一部として扱われます。


 たけしくんの毛髪を元に作られた複製体は、複製体という一個の生命である以前に、たけしくんの毛髪であるとも考えられ、「頭部に噛みつかれ」た時点で植毛が成立、その後に脱毛したとしても、植毛後は「たけしくん自身の一部」であり、植毛前は「物」であると解釈できます。

 従って、たけしくんの行為に関する違法性は見られず、無罪となります。

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