第170話 各自捜索開始


 俺はレイノルズとアーメに事の経緯を説明した。ヒースがまだ帰ってこないこと。これまでも時々遅くなることはあったけれど、今日は訳があって早く帰ってもらわないと困ることなどだ。


 今日何か起こりそうなこと、都市長とアシュさんがおそらくそれに関わっていることなどは伏せておいた。アーメはともかくとして、レイノルズに知られるのは何か嫌な予感がしたからだ。


 説明を受けた後のレイノルズの行動は迅速だった。


「ふむ。早速私の手の者に情報を回し、最後にヒース様が確認された場所を中心に探させよう。トキヒサ君の話だと、既に都市長様の屋敷の者が数名探しに出ているようだ。その者達に会ったらこちらで話を通しておく。見つかり次第連絡を入れ、屋敷に送り届けよう。では失礼するよ」


 レイノルズはそう言って奴隷たちを引き連れて去っていく。だけどどうやって連絡するのだろうか? 何かそういう道具でもあるのかね?


「じゃあ私達も……と言いたいところですが、流石にレイノルズ氏のような人海戦術は厳しいですね」


 アーメは難しい顔をして言う。……それはそうだ。向こうは奴隷とかを考えると相当の人員を回せる気がする。対してこっちはシスター三人。同じ方法では太刀打ちできない。


「一度シーメ達を呼んできましょうか。あの子達ったら放っておくとずっと話し込んでしまいそうですから」

「そうですねアーメさん。これからどうするか話さないと」

「……なんで急に敬語に?」

「いや……まあさっきのやりとりを見ていると、ちょっとこっちも気合入れて話さないといけないかと」


 レイノルズとのやりとりは、これまで何度か見てきたシスター三人娘の一人とは思えない程短いながらも鋭さあふれるものだった。こっちが素だとしたらタメ口というのはいささかマズいんじゃないだろうか?


「別に普通に話してくれて構いませんよ! むしろ普通のままで! トキヒサさんって見たところ私達とそんなに歳の差もなさそうじゃないですか。それなのに敬語というのはその……落ち着かなくて」

「そうか? それじゃあいつもの喋り方で行くよ。……それとさっきはありがとうな。多分アーメ達が来なかったら、普通にレイノルズ達に協力を頼んでたっぷり借りを作ることになっていた」


 そこで礼と共に頭を下げると、アーメは慌てたように手を広げてぶんぶんと振る。


「あ、謝る必要なんてないですって。たまたま呼ばれたところで何やら大変そうだから手を貸しただけですから。……それと奢りのことなんですが、先ほどはレイノルズ氏を牽制するためにああ言いましたけど、ほんとに奢ってくれなんて言いませんから」

「いや、それじゃあこちらの気が済まないし、その分はしっかり奢らせてもらうよ!」

「……ふふっ。ありがとうございます! じゃあその時を楽しみにしていますね」


 そう言いながら、アーメはニッコリ笑って大葉の家に皆を呼びに行く。……不覚にも一瞬その笑顔に見とれてしまった。お~い。待ってくれよ! 俺も一緒に行くって!





「……それで? 私達が真面目にこれからのことを考えている時に、貴女達は何をやっているんですか!」

「まあまあそう言わずに。お姉ちゃんも一つどうこれ? このうま〇棒ってのもうメッチャ美味いよ!」

「シーメ姉の言う通り! これ美味しいよアーメ姉!」


 どうやら話をしている間、皆して大葉の出した駄菓子で軽いパーティーをしていたらしい。皆でうま〇棒をかじっている。……うま〇棒も箱買いしてたんかい。


 俺達も入るが、元々大葉の家は狭いので全員入るとかなりぎゅうぎゅうだ。何とか空いたスペースに腰を下ろした。


 その際にほとんど密着に近いレベルでエプリとセプトが隣に居るのは考えないことにする。……ちょっとうま〇棒(コーンポタージュ味)の混じった良い匂いがするなんて思ってないぞ。


 大葉とシーメが両手に花だのなんだの言って笑っているのが何とも言えない。


「まったくもう。…………本当に美味しいですねコレ! このサクサク感がなかなか!」

「喜んでもらえて何よりっす! センパイ。こっちではほら……互いにどういった知り合いなのかとか、ちょこちょこ話してたっす! センパイ方の首尾はどんな感じっす?」


 俺とアーメはレイノルズとの話の内容を説明した。加えて今日何か起こる可能性が高いこと等もだ。


 ヒースのことを聞いたシーメとソーメは少し顔を険しくしたが、全て聞き終わるとどこか納得したように大葉の方を見る。


「なるほどなるほど。緊急用の照明弾を使ってまで呼び出すなんてどんな一大事かと思ったけど、こりゃあ確かに問題だよね」

「はい。一大事……です。オオバさんが呼ぶのも納得」

「そうなんすよ。我ながらナイス判断っす!」


 大葉がドヤ顔でそんなことを言っているが、まだ見つかってないんだからドヤ顔は後にしような。


「もしかして、今日アーメ達がここら辺を巡回していたのも何かあるって知ってたからとかか?」

「いいえ流石にそこまでは。ただ今日は昼間から妙な感じがすると言うか……何となく嫌な予感がするとソーメが言うので、念のため普段と少し違う場所を回っていたんです。結果的に正しかったようで何よりでした」

「そっか。じゃあソーメには礼を言わないとな。おかげで助かったよ」

「たまたま……です」


 ソーメが恥ずかしそうに顔を伏せる。その勘のおかげで助かったのだから恥ずかしいことなんてないのにな。


「しかしどうしましょうか? ……まだ屋敷からの連絡はないのですよね?」

「……ええ。つまりまだヒースは帰ってきてはいないようね」


 アーメの言葉にエプリがそう返す。ヒースが何をやっているのか知らないが、ここまで遅いとなるともう自分で帰るのを待っている訳にもいかない。


「となるとまずは大前提として、ヒース様を見つけて連れ帰ること。そして出来ればということが望ましいですね」


 それは言われなくても分かる。先に見つけられたらそれを元に何を言われるか分かったもんじゃない。


「じゃあわざわざレイノルズと一緒の所から探すことはないね。どのみち向こうの方が人数多いし。私達は別の所から探そう。目星はあるのトッキー?」

「それが全然。……むしろアーメ達の方が知ってるかもって思ったんだけど? エリゼ院長は都市長さんと古い付き合いらしいし、その縁で心当たりがあるかなあって。それもあって呼んだんじゃないのか大葉?」

「えっ!? それは知らなかったっすよ! 呼んだのはただ単に、前に連絡用の道具を渡されたのを思いだしたからっす」


 知らなかったんかい! まあ考えてみれば最初は都市長さんのことも知らなかったようだし、繋がりが有るのを知っていたならアーメ達の伝手で会いに行くとかもやっていただろうしな。


「こっちも教会の縁で人手を集めるとか出来ないんすかね?」

「恥ずかしながら、うちの教会も最近ヒトがあまり来なくて困っているくらいです。それにこんな時間に手伝ってくれそうな方となるとさらに少ないですね」

「あぁ……なんかゴメンっす」


 自分で言ってちょっぴり落ち込むアーメに、大葉が慌てて謝る。そもそも前見せてもらった人形劇スタイルの読み聞かせも、来る人を少しでも増やすために考えたらしいしな。どこも世知辛い世の中だ。


「……ただエリゼ院長なら確かにヒース様が行きそうな場所も知っているかもしれません。今から戻って聞いてみるというのも一つの手ですね」

「だけどアーメ姉。ここからだと……教会まで少し掛かるよ」

「そうですね。行って戻るとなるとそれだけで大分時間が掛かりそうです。なら何人も連れ立っていくこともありません。あとで私が一人で向かいましょう」


 一人でってのは少し気にかかるが、確かに話を聞くだけなら何人も行く必要は無い。ここはお願いするとしよう。


「じゃあ頼むよ。後は誰か探す当てみたいなところはあるか? アーネを待っている間も出来れば動いておきたい」

「……と言っても、ヒースとは基本屋敷の中で会ってばかりだしね。一緒に出かけるという事も無いから当てと言っても」


 エプリが素っ気なく言うがもっともだ。これなら一回ぐらい一緒に講義を抜け出して飯でも食いに行けばよかったかな? …………待てよ? そう言えば、


「ラーメン、一緒に食べた」


 そこでセプトが俺と同じ考えに至ったのか、そうポツリと呟く。


「ラーメン……ですか?」

「ああ。そう言えばヒースがこのところ、数日おきに通っている店があったんだ。もしかしたらそこの店主なら何か知っているかもしれない」

「なるほど……そこなら何か分かるかもしれませんね」


 幸いそのラーメン屋はここからそう遠くはない。ただ通りに待たせている雲羊の所に一度戻ってとなると少々タイムロスになるかもだ。それを伝えると、アーネが何か思いついたかのように頷く。


「……ここは三手に別れましょう。まず私が教会まで単身で向かいます。そしてそのラーメン屋に向かう組と、クラウドシープを回収しながら途中を捜索する組を作るというのはどうですか?」

「…………他に探す当てがない以上、今はそれくらいしか手が無いか。……よし。それでいこう」

「では、一足先に出発しますね。一番時間が掛かるのは私みたいですから」


 ひとまずの作戦を決めると、アーメは周りの人に当たらないようゆっくりと立ち上がり、そのまま家の外へと歩いていく。さっそく教会へ向かうつもりらしい。


「あっ!? ちょっと待ってくれアーメ。一人で行くのはまあよく巡回するくらいだからある程度は安全だとして、連絡手段はどうする?」


 後ろから声をかけると、アーメは白いフードを被り直しながら振り向いて微笑んだ。


「ああ。それなら妹達が一緒に居る限りは心配ありませんよ。話すと少し長くなるかもしれませんから、詳しい説明は二人に聞いてください。光よここに。“光球ライトボール”」


 そう言ってさっと“光球”を身体に纏わせ、夜の闇の中に消えていくアーメ。……二人に聞けって何のことだ?


 よく分からないのだが、まずは早いところ組み分けをするとしようか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る