第151話 これってハーレ……な訳ないよね

 俺の大葉を誘うその言葉に、エプリとセプトがピクリと反応する。


「悪いな二人共。相談もせずに勝手に誘って。……今回のは完全に俺のわがままだ」

「…………はぁ。仕方ないか。トキヒサなら誘いそうな気がしてたから。利点も多そうだしね。……でも護衛として言うなら、事前に一言欲しかったわ」

「私は別に良い。嫌いじゃ、ないから」


 エプリは軽くため息をつきながら、セプトは相変わらず無表情にそう返す。戻ったらまた説教コースかもしれん。だけどここで誘わなかったら後悔する。そう思ったら自然に口から言葉が出たんだ。


「お出かけっすか? もうすぐ夕食時だしどこか食事にでも行くっすか? ……はっ!? もしやセンパイ。後輩にたかろうって言うんじゃないっすよね? 奢ってくれるのならゴチになるっすよ!」

「えっ!? 俺が奢るの? 久々にポテチとかにありつけたしその分は奢っても……じゃなくてっ! しばらく一緒に行動しないかって言ってんの! ……一つ聞くけど、元の世界に帰りたいか?」

「当たり前っすっ!! 訳も分からずこんな場所に来てしまったけど、帰れるんならすぐにでも帰りたいっすよ」


 ハッキリと、そして切実な様子で大葉はそう答える。そこには今までのおちゃらけた様子は微塵も見えなかった。もしこの世界の方が良いっていうのなら、また違う誘い方をするつもりだったけどこれならそのままいくか。


「そっか。ならやっぱり一緒に行った方が良さそうだ。どうしてこうなったのか今アンリエッタが調べているから、上手くすればそっちの方面から帰してもらえるかもしれない。もし難しいってことになっても、俺が課題を終わらせて帰る時に一緒に返してもらえるよう頼んでみるよ。ほらっ! 少し帰れる目途が立ってきただろ?」

「……確かにこのままここに居るよりは帰れる可能性がありそうっすね。そういう意味では渡りに船って奴っす。だけど良いんすか? 正直あたしあんまり役に立ちそうにないっすよ? 『どこでもショッピング』ももうすぐ日本円が尽きるっすから、こっちの物を買うぐらいしか出来ないっす。……荷物持ちと賑やかしくらいしか出来ないっすよ?」


 大葉はどこか遠慮する様に自分をそう評した。この瞬間、ふと俺が牢獄でイザスタさんに誘われた時のことを思い出す。あの時のイザスタさんも今の俺のような気持ちだったのだろうか?


「荷物持ちは俺の仕事だから盗らないでくれよな。賑やかしはまあ必要だけど、それが出来なくたって誘ってるぞ。


 その言葉に大葉は首を傾げる。……そういえば俺の加護は細かくは説明していなかったな。良い機会だから実際に見せるとするか。俺はまた貯金箱を取り出しちゃぶ台の上に置く。


「俺の加護は『万物換金』。さっきの話の中でもあったように、俺の物を金に換える加護だ。使う道具が貯金箱なので金を貯めることも勿論できる。取り出しも当然可能だ」


 俺は貯金箱の中に入っている金の内五百デンを取り出してみせる。それを見てふむふむと頷く大葉。


「さて、ここからが本題。これは金であれば結構様々な応用が効く。例えば……こちらの金を日本円に両替したりとかだ。こんな感じにな」


 今度は取り出した五百デンに光を当てて一度換金した後、設定を日本円に変更して再び五百デン分……つまり五千円を取り出してみせる。俺の手でひらひらと動く千円札五枚に大葉は目を奪われる。


「つまりだ。日本円が無くなるって言うなら、補充してしまえば良いってことだ。これなら大葉は加護を最大限発揮できるし、こっちも日本産の物の恩恵を得られる。…………具体的に言うと、。互いに良いこと尽くしだと思うんだ。……どうだ?」

「おおっ!! それは良いっすね! そういうことなら喜んで同行させてもらうっす! この大葉鶫。お役に立つっすよ」


 先ほどの遠慮するような様子から一転。大葉は一気に元気になっておどけて敬礼してみせる。互いに一番の好物がかかっていると話が早くて助かるな。


「ありがたい。交渉……成立だな」

「はいっす!」


 こうして、俺がこの世界で初めて会った同郷の人。大葉鶫も一緒に行くことになった。大葉もなにやらややこしいことになっているようだけど、一緒に行こうと誘ったこの選択は多分間違っていないと思う。ただ……。


「では改めまして自己紹介っす。この度センパイの一行に加わることになりました新人の大葉鶫っす! なんとか元の世界に帰るべく日々頑張って生きてます。どうぞその時まで、皆さんよろしくお願いしますっす!」

「セプト、です。よろしく、お願いします」

「……エプリよ。あなたの加護はかなり有能そうね。物資の補充が出来るのは強みだと思うわ。……ところで、護衛としては実力についても聞きたいのだけど」

「お二人ともよろしくっす! あと実力って言ってもこの通り、あたしときたらただの女子高生っすからね。

「………………そう。分かったわ」


 エプリは大葉をジッと見つめると、何か納得したかのように軽く頷いた。護衛として今のやり取りで何か分かったんだろうか? 二人に挨拶し終わると、大葉はこちらに近づいてムフフとからかうように笑う。


「センパイの服の中にいるボジョ……くんっすかね? さんっすかね? まあどちらにせよよろしくっす。それとセンパ~イ! いよいよハーレムっぽくなってきたんじゃないっすか? よっ! この色男っ!」

「だぁからそんなんじゃないってのっ! 何がハーレムだってのまったく」

「またまた~。綺麗どころを侍らせておいてそんな気が一切まったくないとでも言うんすか? そしてこのあたしもそのうちセンパイの毒牙にかかり……キャ~っすよ♪」

「トキヒサ。ハーレムって、何?」

「え、え~っとだな。セプトにはまだ早いと言うか何と言うか」

「セプトちゃん。ハーレムっていうのはっすね」

「わぁ~っ!? それ以上言うんじゃないよ大葉」

「…………賑やかなことね」


 大葉を誘った選択は間違っていないと思う。ただ……ずっとこのテンションだと俺が疲れまくる気がする。特に精神的に。


「まあこんな感じっすけど。よろしくお願いしますね。センパイ!」

「ああ。よろしくだ」






「さて早速しゅっぱ~つ……といきたいところなんすけど、そう簡単にはいかないんすよね。センパイ。ひとまず近日中に遠出する予定とかあるっすか?」

「そうだな。…………あくまで予定だけど、近いうちに別の交易都市に行くことになる。六日後か七日後くらいかな。今はそのための旅費を貯めているってとこだな」


 キリが戻ってくる日にちとヒースの鍛錬が終わるのがどちらもあと五日。それから一日か二日余裕を持ってそのくらいに出発だと思う。


 単純に解呪師がいるというラガスに行くだけなら今の所持金でも何とかなる。馬車の料金は足りているからな。だけど実際はそれだけでなく、滞在費やら何やら色々物入りなのだ。


「なるほどなるほど。こちらも旅支度やら色々あるから余裕が有るのは助かるっす。……こんな場所だけど知り合いも何人か出来たっすからね。別れの挨拶もしておきたいっす」

「そっか。……そうだよな。じゃあこっちも一度出直すとするか。次はいつ頃来れば良い?」

「この町を一緒にぶらつくだけならいつでも良いっすよ。遠出には少し準備がいるってだけっすから」


 そうか。……そう言えば明日はヒースの鍛錬は午前中からだったな。午後からは一応アシュさんもジューネも予定が空くはず。顔合わせと金稼ぎ資源回収も兼ねて誘ってみるか。


「じゃあ明日の昼頃、遠出する面子で街の市場に食べ歩きに行くんだけど、一緒に行くか? 今日のポテチとジュースの礼に奢るぞ」

「奢りっすか! 良いっすね! 喜んでゴチになるっすよ!」


 大葉は喜色満面で喜んでいる。ふっふっふ。言質取ったぞ。ようこそ食べ歩き資源回収の旅へ。顔合わせも兼ねてみっちり手伝ってもらうぜ。

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