第34話「異世界合コンの結末」

【大門寺トオルの告白⑮】


 翌日朝……


 リンちゃんと愛を確かめ合った俺は改めてどうするのか考えた。 


 今日はとてもじゃないが、出勤というか出動は不可能だもの。

 なので昨夜ジェロームさんへ依頼済み……

 適当な理由をつけ、騎士隊へは有給休暇希望の連絡をして貰っていた。


 ジェロームさんからは、傷害罪でアランを訴える事も可能だと言われたが、

 俺は許してやる事にした。

 アランの奴、俺がジョルジエットさんを泣かせたと勘違いして、

 思わず我を忘れたと分かっていたから。

 

 一見、軟派で茶目っ気たっぷりだけど、実は真面目で冷静なアランがあんなに取り乱すなんて。

 今から考えれば……

 あいつがあの日、人生をかけると言ったのは、聞き違いではなかった。

 

 そして後輩のカミーユは事の『真相』を知っているから、ちょっとだけ気になったが……

 万が一聞かれても、まともには答えないと思う。

 

 そんなこんなで、昼過ぎに……

 アランとジョルジエットさんふたりの行方が判明した。

 

 と、いうよりお昼頃、何事もなかったかのように騎士隊の宿舎に現れたアランは……

 自分が殴って大怪我をした俺が、創世神教会附属病院に入院したと聞いて、すっ飛んで来たのだ。


 そんなわけで、今、俺の前には……

 アランとジョルジェットさんが、並んでいる。

 傍らには、ジェロームさんが渋い顔をして、腕組みをしながら立っていた。


 ちなみに、リンちゃんも部屋に居る。

 リンちゃんは元々、教会の聖女なので、同席しても違和感はない。


 ……アランとジョルジェットさんは、

 何と! 

 頭を床にすりつけ土下座をしていた。

 俺は止めたのだが、ふたりは頑として聞かなかった。


「も、申しわけありません!! つい、かあっとなって……思わず副長を殴ってしまった。僕の完全な勘違いです」


「ま、まあ、幸い骨折はしてなかったからさ。何とか軽傷で済んだ」


「副長っ! 本当に! 本当に! 申しわけありませんっ!! ジョルを悲しませる奴は、誰であろうと絶対に許せなかったんです」


 え?

 ジョル?

 昨夜、アランはジョルジェットさんを、そうは呼んでいなかったはずだ。


「ごめんなさい! クリスさんには優しく慰めて貰っていただけなのに……私が嬉しくて、大泣きしたせいで、アランたら、とんだ過ちを犯してしまって……」


 ふたりの間には、昨夜より、特別で親密な雰囲気が醸し出されている。

 このふたり……昨夜中に「男女の関係」になったようだ。


「副長! 貴方も騎士だから分かるでしょう。戦場で聖女は天使だ。そしてジョルは僕にとって、唯一の大天使なんだ」


 おお、凄い。

 唯一の大天使って?


 何だよ、おい。

 アランは、ジョルジェットさんに「べたぼれ」だ。

 治癒士の悩みも聞いたから、愛しさが一層増したのだろう。


 プロポーズにも等しい愛の言葉を聞いた、ジョルジェットさんも感極まっているようだ。


「アラン! う、嬉しい!」


「副長、隊長も聞いてください! 僕は決めました! お詫びの場でなんですが、ジョルと結婚する事に決めたんです! 一回会うのを断られた時、気になる子くらいだと単純に考えていたんです。だけど……昨夜会って話してからは、僕にはこの子しか、ジョルしか居ない! そう思ったんです」


「わ、私も! アランの悪い噂は聞いていたから……噂通りいい加減な人だったら思い切り振ってやろうと思っていたわ……でも、違った!」


「ありがとう! ジョル、結婚してくれ!」


「はいっ!」


 あらら、アランの奴、本当にプロポーズまでしちゃった。

 

 こうなると……もう決定的。

 アランとジョルジェットさんは、熱く見つめ合い、固く手を握り合っている。

  

「うふふ、凄いですね」


 にっこり笑ったのはフルールさんこと、リンちゃん。

 その意味は、すぐに分かった。

 俺は前世同様、またまた出席した合コンで、運命的なカップルを生み出していた。

 つまり愛の伝道師の『ふたつ名』は、異世界でもやっぱり威力を発揮したのだ。


 でも良かった。

 俺は凄く嬉しくなった。

 心の底から。 

 以前の俺なら「良かったなあ」と思いながら、実は羨ましかったに違いない。

 

 しかし、今は違う。

 俺には愛するリンちゃんが居る。

 

 異世界転移で離れ離れになって、一生会えないと思ったリンちゃんに、

 運命の再会をした上、恋人同士にもなれた。

 さっきの、アランのセリフではないが、

 俺にはもう……リンちゃんしかいない。

 

 反省しきりのアランはお詫びとして、

 昨夜の店の飲食費一切と、慰謝料として俺へ結構な現金を支払った。

 

 贈られた現金を、固辞した俺であったが……

 アランは気が済まないので、ぜひお渡したいという。

 

 仕方無いので、とりあえずは受け取り……

 場所が場所なので、創世神教会にそのまま寄付した。

 

 リンちゃんに再び引き会わせてくれたのが、もしもこの世界の神、創世神様なら、お礼の意味もある。

 ちなみに寄付された金は、教会が経営する孤児院などの運営費に使われるらしい。

 

 俺との『示談』が無事に済み……

 アランとジョルジエットさんは改めて謝罪した上で、満足そうに去って行った。

 

 だが、『話』はまだ……終わらなかった。

 驚く事にまだ、俺の伝道師の力が? しっかりと働いていたのである。

 

 アラン達が去った後、ジェロームさんが呼ぶと……

 シュザンヌさんが、顔を赤くして部屋へ入って来たのだ。


 おお!

 まさか、この展開は?


「ええと、こんな時になんだけど、俺達……結局、付き合う事になったから」


「はい! 私、ジェロームさんと、お菓子の話で意気投合しちゃいました。お菓子が大好きな強い騎士って、意外性もあってとても素敵!」


 おお、ジェロームさん、良かったなぁ!

 それに、シュザンヌさんも幸せそうだ。

 美男、美女のカップルで、とってもお似合いだよ。


 ジェロームさんが、満面の笑みを浮かべて言う。


「クリス……お前に言われた通りだ。素直になってシュザンヌと話したら、とても楽しかったよ……愛する彼女が居るって、実に気持ちが良いな」


 結局、ジェロームさん達カップルも手をつなぎ、スキップしながら去って行った。

 こうして、病室に残されたのは……

 またもや、俺とリンちゃんだけ。


「リンちゃん、……俺ってさ、またこんな毎日が続くのかな?」


 苦笑する俺に対して、リンちゃんはほっこり笑顔である。


「うふふ、大変ね、トオルさん。また誰かから、頼りにされそうよ」


 リンちゃんの癒し笑顔を見て、俺は名案を思い付く。


「ようし、リンちゃんから、凄いパワーを貰っちゃうぞ」


「OKよ!」


 今、リンちゃんとふたりきりだし、身体も復活しつつあった。

 

 アランや、ジェロームさんに負けじ! と……

 俺は、リンちゃんを抱き寄せ、あっついキスをしたのであった。

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