第25話「食事会は逞しい騎士達と③」
【相坂リンの告白⑬】
「俺達、ちょっと、トイレ行って来ま~す」
トオルさんは、またも、おどけて宣言した。
事前に聞いていた限り、クリスさんは硬派キャラで通っていたけど……
トオルさんが憑依して? 完全におとぼけキャラへと変わってしまった。
まあ、私はトオルさんが好きだから問題はないけれど……
それにしても、3人一度にトイレへ立つなんて……
あまりにも不自然過ぎる。
でも、深く追求しても仕方がない、場の雰囲気を壊さない為には、笑顔で見送るしかない。
でもさっきからひそひそ話していたから。
何となく想像はつく。
原因のひとつはシスターシュザンヌの対面に座った隊長のジェロームさんだと思う。
先ほどの話ではないけれど、ジェロームさんこそ、硬派と言って良いタイプ。
私はあまり詳しくはないが……
硬派とは武骨で我が道を行くというイメージがある。
トオルさんのように相手の好みや服装に気を遣ったりする人とは、真逆って感じかな。
さっきの『ワイン事件』でもそうだ。
トオルさんは場の雰囲気を盛り上げようと、一生懸命気を遣っていたのに……
ジェロームさんは全く無視、同席した女性がどう感じ思うのか、考えようとはしなかった。
結果、シスターシュザンヌはしょんぼりし、元気を失くしてしまった。
ジェロームさんに憧れていた分、幻滅も大きかったのだろう。
今回の食事会を結構楽しみにしてたようだから、とても気の毒だ。
それにあんな人が隊長では、クリスさん、否、トオルさんだって可哀そう。
つい同情してしまった。
そしてもうひとり。
不可解な行動をしているのが、シスタージョルジエット。
アランさんを懲らしめようと、あれだけ息巻いていたのに……
憎き彼? とずっと熱心に話し込んでいた。
私はやっぱりと思う。
多分、アランさんは見た目に反して、凄く真面目な方なのでは?
話し方や物腰から、少なくとも軽くはないし、女性を弄ぶようにはまるで見えない。
まあ、いきなり言い争いして大爆発という感じにはならなくてホッとした。
あとは……
最年少のカミーユさんは、シスターステファニーが気に入ったらしい。
でも、シスターステファニーは理想が高い。
その上、年上が好みだとも言っていたっけ。
だから若いリュカさんをまともに相手にしていない。
それに多分、彼女は面食いだから、ジャストなタイプはアランさんか、
まさか!
トオルさん!?
運命の再会を遂げた事で、浮かれていた私はすっかり油断していた。
もしもシスターステファニーがクリスさんことトオルさんを気に入り、
万が一? 交際を申し込みでもしたら……
マズイ!
今居る異世界は爵位もあり、前世日本とは大違い、完全な身分社会。
参加している自由お見合いみたいな、身分の差を越えた愛を見つけようみたいな風潮は最近発生したもの……
なんたって、シスターステファニーの祖父は公爵たる創世神教会の枢機卿、アンドレ・ブレヴァル閣下。
対して、私フルールの父はしがない男爵。
一般社会の中では、男爵だって立派な貴族なのだが、さすがに公爵閣下と比べれば、身分の差は歴然としている。
教会における力関係の絡みだって、当然あるから絶対に強い事は言えない……
私とトオルさんが愛し愛されを主張したって、力技の前では引き下がるしかないだろう……
片やトオルさんが憑依したクリスさんも子爵だから、抵抗しても結果は推して知るべし。
「はぁ~あ」
余計な想像力が働いた私は、思わず大きなため息をついていたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「大丈夫ですか、シスターフルール」
「え?」
心配して声をかけてくれたのは、シスターシュザンヌだった。
どうやら……
私は暫しぼうっとしていたらしい。
後で言われたが、ためいきも何度も繰り返し、ついていたようだ。
でも……
このような時に、人間の真価って出る。
シスターシュザンヌは先ほどの一件で、自分がダメージを受けているはずなのに、私を案じてくれた。
はっきり言って、凄く嬉しかった。
これまでシスターシュザンヌとは特に親しくはなかったが、今後機会があれば、近しくなりたいと思った。
そして……
意外といったら、失礼だが……
「そうですよ、シスターフルール。いきなり元気がなくなりましたが、体調でもお悪いのですか?」
続いて声をかけてくれたのは、何と!
シスタージョルジエットだった。
「は、はい……大丈夫です……」
噛みながらも、返事をした私。
例の件がとても気になっていたので、良いタイミングと思い、改めてシスタージョルジエットを見つめた。
それもまじまじと……
すると!
おかしい?
あれだけアランさんへの怒りをにじませ、
凶相どころか……瞳がうるうる……
これは、はっきりしている。
シスタージョルジエットは『恋する乙女』へと大変貌したのだ。
一体、何があったのだろう?
先ほど、シスタージョルジエットはアランさんと熱心に話し込んでいた。
その時に何を話したのか、聞けば、どうしてなのかが分かるだろう。
でも……何となく聞きにくい。
私はプレッシャーに負け、視線を落とした。
と、その時。
突き刺すような視線を感じた。
まさか!
と思いきや、そっと見やれば……
それは私を見つめる、シスターステファニーの冷たい視線だったのである。
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