この眠気は何だ??いつから?? ①

《テストも無事全て終わった放課後》


「咲希!!今日なんか用事??遊び行こーーっ!!」


 明日香がカバンを肩に引っ掛け小走りで後ろから駆け寄ってくる。


 その後を、恵美がペタペタついてきた。


「あっ!ごめん!!今日、地元の友達と夕方からご飯の約束あって~。」


 あたしは、経緯を話すと⋯⋯


「ねぇ。それって、わたし達も付いてっちゃダメ??

恵美と話してたんだよねぇ。

『いっぺん、咲希がよく行ってるっていうその店行ってみたいねぇ!!』

って!!

その地元の友達って子にも会ってみたいし!!」


 この二人には、そのお店の料理は抜群に美味しいという事。そして、地元の友達つまり ”果歩" の事は話してある。


 果歩とは中学からの友人で、平日であろうと話したいことがあったり(愚痴や悩み他)、その日の気分で週1~週2のペースでいつも同じ店で会っていた。


 部活が終わり帰宅後、夜8時過ぎであろうとシャワーを浴びて出かけ、閉店後まで入り浸る。(とはいえ、お店は家から徒歩10~15分。因みに、閉店時間は平日は0:00金土は2:00)


 二人で延々と話し続け、閉店後はお店のパパ(マスター)も巻き込み話し続け、お店の後片付けが一通り終わると店長に


『果歩ちゃん!!咲希ちゃん!!帰るよ~!!』


って、言われるまでいた。


 そんな事を、地元ではしているという事を話していたので俄然興味があったのだ。



「ん?? ん~、別にいいと思うけど⋯⋯。まぁ、一応メールしてみるね。」


 あたしは、愛用の折りたたみ携帯(当然ガラケー)を取り出しメールを打つ。

 すると、すぐに返信が来た。


『well come』


 と、絵文字も何もないたった一言だけ。

 愛嬌も可愛らしさの欠片も無いメール。


 これが、果歩のメールの特徴だ。


 本人曰く、


『伝われば良くない??』


 とのこと。


 割と絵文字機能も追加されたばかりで、みんなこぞって使いまくってた最中これだから、やっぱり少し変わってるのかな??


 あたしの周りは、一癖ある子ばかりだ。


「OKだって!!」


 あたしは、そう伝えると送られてきたメールを二人に見せる。


「⋯⋯解りやすい⋯⋯メールだね。」


 恵美がボソッと呟いた。




*************



 現時刻15:00

 お店集合18:00 自宅にて



「さすがにまだ時間あるし、お風呂でも入りますかねぇ!!」


 父も母も、さすがにこんな時間には帰ってこない。

 父に強引に入ってこられる心配も、母にどやされる心配もない。

 誰にも邪魔されない、快適バスタイムの始まりである。


 あたしは、かなりヌルい湯を張ると、真水に近いシャワーを一気に頭から浴びる。


 浴室のムワッと篭った空気が徐々に冷んやりしてくる。


「はあぁ~~。ヤバイっ!!涼しいーーっ!!」


 小学校の授業のプール、地獄のシャワーと呼んでいたのが懐かしい。

 今となっては快感で幸せでしかない。


 あたしはサッと頭やら体を洗い終え、濡れた髪をかきあげながらオールバックにすると、そっと湯船に浸かる。


(なんか⋯⋯あったかいなぁ。体冷やしすぎたかなぁ。)


 肩までしっかり浸かりながら、両脚を外へ放り出しこれからの事を考えてみる。


(⋯⋯なんか、地元の友達と高校の友達が会うとかなんか不思議な感じだなぁ。なんだかちょっと緊張する。)




 現時刻 17:40


 お店集合 18:00


⋯⋯ブクッ


ブクッ⋯⋯ブクッブクッ⋯⋯

⋯⋯ブクッ⋯⋯ブクブクブク⋯⋯ゴブォッ!!


ゴボッ⋯⋯ゴボゴボッ⋯⋯ガハッ!!



 あたしは、湯船で寝てしまった挙句、鼻まで沈んでいた。



 変な体勢で沈んでしまったおかげで体が引っかかりなかなか出られない。


「げほっ!!ゴホッ!ゴホッ!!

飲ん⋯⋯⋯⋯ぅおえっ!! けほっ、けほっ!!

鼻入ったしっ!! いったっ。

ゲホッ、ゲホッ!! はぁ~、はぁ~~。

⋯⋯やばっ!!その内、死ぬぞ!あたしゃっ。」




 おもむろに時計を見ると⋯⋯17:40


(⋯⋯えっ??)


 思わず、二度見 三度見するが時は変わらない。


「やばいっ!ヤバイッ!!やばいって!!お風呂で寝ちゃったーーーーっ!!」


 簡単に髪を乾かすと、高速で着替え慌てて家を飛び出るあたし。



ピリリリリリッ!!



 すると、狙ったように携帯が鳴る。

 明日香からだった。


「咲希、今どこ??駅着いたけど!!」


(あちゃ~、ですよねぇ。)


 あたしにとっては地元でも、当然明日香たちにとっては地元ではなく電車に乗って来ることになる。


 だから、あたしが駅まで迎えに行く事になっていたのだ。


「ごめん!!今、家出た!!ダッシュで行くから後3分だけ待って!!」


 そういうと、自転車に乗り一気に飛ばす!!


 毎朝、日課のように鍛えているあたしの足を舐めてはいけない!!


 とはいえ、1日に2度も飛ばす羽目になるとは⋯⋯。



「はぁ、はぁ、はぁ。ごめん。お待たせ。」


 時間通り(?) 3分で到着するあたし。


 すると、恵美がペタペタ近寄ってきてハンドタオルを渡してくれた。


「さきぃ、どしたの??その髪⋯⋯汗??」


 半乾きの状態で飛び出してきたところに、もり漕ぎ(激チャ)の疲労による汗のダブルパンチ。


 あたしの髪は、もう訳の分からないことになっていた。


 とりあえず、チャチャっと簡単にくくると


「えぇ~っと⋯⋯、風呂上がりの半乾きと汗8対2かな?? まぁ、夕方って言っても真夏のこの暑さだし、すぐ乾くっしょ!!

⋯⋯ごめん。お風呂で寝ちゃって遅れました。」


 軽く頭を下げた。


「ホントだ!!咲希の髪いい匂いする!!」


 と、人の髪を嗅ぎまくる恵美を尻目に


「髪乾かすぐらい、言ってくれればそれくらい待つよ!!」


 と、明日香が言ってくれた。



 暗くなるにはまだ若干早い夏の夕時。

 蝉の合唱の中に、餌を待つすずめの群れの鳴き声、そしてその奥にカラスの鳴き声が微かに混ざる。

 真横から飛び込んでくる陽の光に目が眩むと、視覚から聴覚から今日の終わりを告げられているようだ。

 ムワッとまとわりつく空気が、クーラーの効いた部屋でキンキンに冷えたドリンクを飲む自分を想像させた。



「ありがとっ。じゃ~、行こっか!!もう、あの子もつく頃だし!!」


 あたしは、そう言いながら二人を促すと "ピローン" 携帯のメール音が鳴る。


 果歩からだ。



『中で待つ』



 以上だった。


「ねぇ、この人怒ってない??大丈夫??」


 恵美が心配そうに覗き込んでくる。


「大丈夫!大丈夫!!いつもの事だから!!」





 5分も歩くとすぐにお店が見えてきた。


「よ~し!着いた!着いた!行こっ!行こっ!」


 あたしが、小走りでお店の出入り口に向かうと、どうも後ろがついてこない。


「お店ってここ??ってか居酒屋じゃん!!」

「えっ?私たち入って大丈夫??」


 よくよく考えてみたら当然のリアクションだ。

 あたし達は18歳、高校生だ。


 未成年の飲酒は法律で禁止されていますって言うアレだ。


「まぁまぁ、気にしない気にしない!!別に、お酒飲めって話じゃないんだし。ここのご飯ほんと美味しいんだから!!」


 あたしは、そう言うと二人の手を引いて店内に入っていく。

 もう、喉がカラカラで我慢ができないのだ。

 そして、同じくあえてカラカラの状態にして我慢している子が中で待っている。



「いらっしゃいませっっ!!」


 自動ドアが開くと、店のあちこちから元気のいい声が聞こえてくる。


 店内はまだ夕方だというのに、すでに20代~70代まで性別問わずお客さんで溢れていた。


 テーブル席はすでに満席、カウンターもほぼ埋まりかけている。


 そして、あちらこちらからお客さんの色んな声が飛び交いみんな楽しそうだ。


 スタッフも負けじと声を張るので、もうお祭り騒ぎになっている。




「あ~ら、咲希ちゃん!!いらっしゃい!!果歩ちゃん、もう来てるよ!!あらっ??お友達??初めまして⋯⋯だよね??」


 入り口で女性店長が出迎えてくれる。

 年齢は教えてくれないが、恐らく40手前かな??


「今日、高⋯⋯学校の友達も連れてきたんです。ここのご飯美味しいって話したら、行ってみたいって言うので!!」


「あら!そうなの??ゆっくりしてってねぇ!!」



 あたし達一行は、果歩の待つ席を探す。

 すると、


「おっ!サキちゃん!いらっしゃい!今日、早いねぇ!!」

「あらっ!サキちゃん!いらっしゃい。テスト、もう終わったの??」

「あっ!いらっしゃいませ!!サキさん、オーダーは僕が取りに行きますから待っててっ!!」


 すれ違うスタッフがそれぞれ個別に話しかけてくる。



「ちょっと、咲希!あんた、名前覚えてもらってんの??凄くない??」


 そんな事を言いながら、明日香は目をキラキラさせながら店内をキョロキョロ見回している。


 そうこうしているうちに、


「こっち!こっち!」


と、元気の良い声が飛んできた。



「あっ!初めましてっ!!」

「どもっ!急に参戦しちゃってごめんねぇ」


 恵美、明日香は共に簡単に挨拶を済ませると席に着く。


「おっ!どもども!!お初で!!

じゃ~自己紹介は後にして、とりあえずドリンク頼んじゃおっ!!え~っと、生二つが確定で⋯⋯お二方はなんにする??」


「えっ??」

「んん??」


 当然のリアクションだ。

 最初に、ドリンクを聞かれるという暗黙のルールなんて当然知らないのだ。


 ましてや、お酒を飲むなんて前提で二人は来ていない。


「あっ!果歩。二人にはお酒飲むなんて伝えてないんだわぁ。 "ご飯美味しいからっ!!" って、言ってあるだけで⋯⋯」


「えっ??⋯⋯そっか⋯⋯」


 果歩はちょっと残念そうな表情を見せるとソフトドリンクのメニューを見せる。


 すると、明日香があたしの耳に小さな声で心配そうに話しかけてくるので、それに答えていった。


「ねぇ、あたし達飲んでて大丈夫なの??」


「まぁ⋯⋯そりゃ~ほんとはダメなんだろうけど⋯⋯ここではOKってことになってる。そもそもここのパパも店長も⋯⋯ってか、ここのスタッフみんなあたしと果歩の実年齢やら高校名やら何処に住んでるやら全部知ってるから。」


「マジ??けど、さっき “高校” って言いそうになった時隠さなかった??学校って言い直してたように聞こえたけど??」


「あぁ~あれ?一応、お客さんの手前ね。流石に、お客さんまでみんな知ってるわけじゃないから!!」



 そうこう言っていると、果歩が入ってくる。


「なに二人でコソコソ話してんのぉ??決まった??」


 あたしは、明日香が飲酒について心配している事を伝えると、


「そんな事気にしてたの??OK!じゃ~、ウチが聞いたげる!!

パパーーーっ!!この子達オッケー??」


 ふいに大声でキッチンに話しかけると、そこには左手でOKサインを作ったパパがいた。


「⋯⋯すごっ!!」


 二人は揃って驚いていた。





「じゃ~、あたしもビールにしよっかな!!」


 今までのやり取りから、明日香がビールをチョイスした事に少々驚いたが、聞くと家では父から貰って少しは飲んでいたらしい。


 ただ、外では初めてとの事だった。


「えっと⋯⋯じゃ~私は⋯⋯えっと⋯⋯⋯⋯どうしよう⋯⋯」


 長くなりそうなので⋯⋯


「パインジュースにする??」

「うんっ!!」


 これで、4人ともドリンクオーダーも決まりさっそく始める!!


「かんぱーーーーーいっ!!」


 ジョッキをガチャンとぶつけると、あたしと果歩は一気に飲み干すと


「くぅぅぅーーーーっ!!キターーッ!!

しみる~~。これこれっ!!これよこれっ!!

店長おかわり2つお願いっ!!」


 と、さっそく追加した。


 明日香は笑っていたが、恵美はポカーンとしながら


「⋯⋯二人とも慣れてるねぇ」


 と、呟いた。



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