第141話 代々木訓練施設・テラスの攻防・1
お待たせしました。
7連投くらいで行きます。
◆
「なによ、こんな警告聞いたことない」
「俺、8位なんだけど」
警告はしばらくしたら止まったけど……静まり返った道場で周りから不安げな声が漏れた。
「6位以上はいるのか?」
「俺は一応6位だけど」
「ていうか、そこにいるの、片岡くんでしょ。乙類5位」
誰かが言って僕の方に注目が集まった。
「僕が一番上ですか?」
そういうと皆が顔を見合わせて頷く。
と言う事は魔討士の不文律的に此処の指揮権は僕なのか?
冗談じゃないぞ、誰かやってくれと思ったけど……自分以外の誰かがやってくれる、と思うな。
深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
「この警告ですけど、聞いたことあります。
多分いるのは奥多摩系のデカい虫か植物系のやつです。絶対に一人では戦わないで。定着したダンジョンのダンジョンマスター級です」
訓練施設にいる魔討士はどのくらいのランクなんだろうか。
ただ、カタリーナとパトリスは頼れる。それにセスティアンも甲の三位クラスというなら戦力になるだろう。
彼らは下にいるんだろうか。檜村さんとも合流したい。
それに、前の倉庫街や仙台のダンジョンの中と違ってここは都心のど真ん中だ。
周囲からの援護も期待できるし、魔討士協会からの援護もあるはず。
「どうしますか?」
「指示をお願いします、片岡くん」
「皆さんは一階に降りてください。一階の戦えない人を守らないと。
でも、何人かここで待機して、逃げてきた人を下に誘導してください」
そういうとみんなが頷いた。
「あと……さっきの警告を聞いたと思います。不安な人は逃げたほうがいい」
たまたま二度あいつらと戦ったけど、どっちも危なかった。
デカい図体に高い再生能力と攻撃力。野良ダンジョンで戦うやつらとは格が違う。
「僕はテラスにいる人を助けに行きます。誰か援護してもらえると助かります」
アプリのマップを見る限り、大きめの反応はグラウンドにある。
あの知性を持つやつはは上にはいないかもしれない。
正直言うと僕も1階に逃げたいところだけど。テラスのランニングコースには多分まだ人がいるはずだ。
……何人かが顔を見合わせて1階への階段を見た。そりゃ行きたくないよな。
「先輩!私が行きます」
気まずい沈黙を破るように、人ごみの後ろから声が掛かった。
◆
人垣が割れる。
小柄な体に、ふわっと巻くようにカールした綺麗な長い黒髪に動きやすそうな紺色のジャージ姿の女の子だ。
まっすぐに切りそろえた前髪と白い肌、可愛く整った大人し気な顔立ちは日本人形を思わせる。
その子が小首をかしげて僕を見た。
「覚えてくれてますか?」
「勿論」
確か
援護してくれるのは有難いけど……できれば来てほしくない。中学生だったはずだ。
「私だって魔討士です!皆のために戦う覚悟はできてます!それに、私、中学生7位を目指してますから!」
僕の言いたいことを察したのか、大人し気な感じに似合わず、柚野さんが強い口調で言う。
手には銀色の刀身に格子のような黒い柄のレイピアが握られていた。
柄には十字架のようなものを手にした骸骨があしらわれている。格子に見えたのは骸骨の肋骨だ。
可愛い感じの持ち主の雰囲気には合わないグロテスクなデザインだな……とは言っても武器は自分で選べないんだけど。
「急ぎましょう、先輩。二人でもいいじゃないですか。私達ならできます」
柚野さんが言う。
気楽に言っているのか、自信があるのか、怖いもの知らずなのか、どれだか分からないけど。
その言葉に一瞬周りが静まり返った。
「いや……そういうわけには行かないだろ」
「こっちは一応大人だぜ、中学生の女の子と高校生にまかせっきりなんて、流石にダサすぎる」
周りから声が上がって、何人かがそれぞれの得物を構える。
柚野さんが嬉しそうに笑った。
「じゃあ……二人ついて来てください。できれば甲の武器使いか乙類」
蟲が大量にいるような状態になったら詠唱どころじゃなくなる。ここは武器使いの方がいい。
あの知性を持つ后種とやらがいない事を祈ろう。
「じゃあ、俺が行くぜ。よろしくな、片岡君。
「……あとはあたしかな。乙の7位、
40歳くらいの男の人と、25歳くらいの女の人がすすみでてきてくれた。
男の人は180センチくらいで背が高い。此処ではよく見る袴姿で薙刀を持ってる。
女の人は背が低くて大人し気だ。茶色のワンピース姿で片手に短めの日本刀を持っていた。
「テラスにいる人を助けてすぐに戻ります。戦闘が目的じゃない。降りてきた人がいたらその人達をよろしくお願いします」
そう言うと周りの魔討士達が頷いた。
「師匠も誘導をお願いできますか」
そういうと袴姿の師匠が頷いた。
師匠は魔討士じゃないけど、色々と修羅場はくぐってそうだ。頼りになると思う。
「こういう時は俺は役立たずだ……普段は偉そうに言ってるのに、まったく情け無ぇな。
だが、そのくらいは任せろ。気をつけろよ、片岡」
いつの間にか袴姿の師匠の腰には日本刀が挿してあった……どこから持ってきたんだ、こんなの。
「こう見えても、かなりの業物なんだぜ……こんなもんが役に立つかはわからねぇがな」
師匠が刀の鯉口を切って不敵に笑った。
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