第66話 学園祭の来訪者・同年代の乙類5位。
ルーファさんは完全にクラスの騒動の渦中になってしまったので、とりあえず置いておくことにした。
まあ三田ケ谷がいればどうにでもなるだろう。
檜村さんと体育館に行くと、体育館には畳が敷き詰められていて、簡易的な稽古場のようになっていた。
椅子が並べられていて、50人近い人が座っている。結構集まってるな。
「今日は私たち放課後退魔倶楽部のイベントに来てくれてありがとう!」
畳の中央に立った篠生さんが元気いっぱいって感じで言う。
おしゃれな私服姿で周りから主に男性の歓声と拍手が起きた。
「今日はエキジビションです。うちの倶楽部の乙類と!なんと!高校生5位!片岡先輩とも戦えるかも!みんなふるってエントリーしてね!」
篠生さんが会場をあおって拍手と大歓声が起きた
なんか大げさなことになってるな。
はじめはこんな面倒なことしたくないとか思ったりもした。
でも、伊勢田さんが自分一人で戦えばいいってわけじゃないって言っていたけど。
一応5位なんてところまで上がったら、まあこのくらいの普及活動の手伝いはしてもいいかもなと思う。
「大丈夫かい?」
「まあ、宗片さんより強いやつはいませんよ」
「それはそうだが」
檜村さんがちょっと不安げな感じで僕を見上げる。
「殺し合いじゃないんですから大丈夫ですよ」
あの八王子の宗片さんとの一騎打ちとはわけが違う。
相手はそこまでではないだろうし、それに使うのも模擬刀とかだ。
「そんなに心配ですか?僕はそんなに頼りない?」
ちょっと意地悪したくなっていってみた。
「いや……そんなつもりはないよ、いや、あの……」
慌てたように檜村さんが言って気まずそうに俯く。
困った感じが普段と違ってなんとなくかわいい。
「すまないね、そんなつもりは……」
「冗談ですよ。まあ見ててください。僕も少しは強くなってますからね」
畳の方を見ると、結構な人数が上がってきていて箱に手を差し込んでは藤村に見せていた。
どうやらくじ引きで対戦の順番を決めているらしい。ホワイトボードに張った紙にそれぞれ順番が貼られている
さて僕の相手はどんな人かな。
いつもの道場で使っている模擬刀を軽く振る。
「やあ。初めまして。片岡水輝君」
畳の方を見ていたら後ろから声が掛かった。
◆
「そちらは……丙類4位、檜村玄絵さんですね。初めまして、お会いできて光栄です」
後ろから声を掛けてきたのは、黒い学ラン姿の男の子だった。
男の子、というか僕と年は同じくらいだろうけど。
黒々とした濃い眉と短いスポーツ刈りの黒髪で、四角い顎とすこしニキビが浮いた頬がなんとなくクラスメートの野球部に雰囲気が似ている気がした。
ちょっと硬い表情だけど、見慣れない学ランの詰襟をきちっと閉めた着こなしがなんとも生真面目な雰囲気を漂わせている。
背は僕より低いけど、学ラン越しにでも体格の良さは分かった。鍛えてるな。
何処かで見覚えがあるな、と思いつつ誰?と聞こうと思ったけど、持っていた長い包みをみて思い出した。
これは槍か。
「もしかして……
「知っていてくれたか。それはうれしい」
生真面目な顔に人懐っこい感じの笑みが浮かんだ。
硬い雰囲気が和らぐ。
「同じ高校生5位だからね」
北海道の槍使いで僕と同じ乙類5位の高校生だ。
流石にものを知らなすぎるのはまずいと思って五位になった時に同年代の5位は調べたけど。ただこの人はなぜここに居るのか。
「同じ5位がどんな人かって思ってね。見に来たんだよ。
あわよくば手合わせをと思ったんだけどね……ツイてた」
そう言って籤を見せてくれた。そこには僕の名前が書いてある。
「お互い堂々と戦おう」
◆
くじ引きが終わったらエキジビションが始まった。
やっぱりメインは僕でそれの合間に一年生の乙類の二人が戦うって感じになっている。
二人とも刀を使っているけど……僕が言うのもなんだけど、足元が危なっかしいし刀のさばきもまだまだだ。
いかにも修業を始めたばかりって感じだな。
僕も籤通りに何度か参加者の人と手合わせした。
大人相手にはほどほどに、子供相手には手加減しつつって感じでさばく。
何人か剣道とか格闘技の経験者もいたんだけど、対応するのは難しくなかった。
畳の上で100回稽古するより、命の取り合い1回の方が身になるぞ、と師匠は言っていたけど、確かにあのときぶつけられた殺気とは全然違う。
誰かと向かい合っても落ち着いて対応できている感じだな。
宗片さんやエルマルとの戦いはなんだかんだで経験値として僕の中に蓄えられたらしい。
「では次の方!」
「はい!」
何度目かの試合のあと、篠生さんがコールすると大きな返事が上がった。
◆
斎会君だ。礼儀正しく一礼して畳の上に上がってくる。
どこで着替えたのか、袴姿になっていた。
「これは本格的!自前の武器を持ってますね、好勝負が期待できそうです!」
篠生さんが格闘技イベントの司会のように大げさに会場をあおる。
斎会君の手には槍が握られていた。さっきの包みの中の奴だろう。
枝刃の無い穂先が長い槍。如月の槍とは違うな。
枝刃は突きを躱しにくくなるから、受ける側としては無い方がやりやすい。
「
さっきの温和な雰囲気と一変して、腹の底から出たった感じの迫力のある口調で名乗りを上げた。
篠生さんが一瞬戸惑ったような顔をしたけど、すぐに事態を察したらしい。
「なんと驚き!片岡先輩の相手は斎会将太さん!ということは、高校生五位対決です!」
篠生さんが言って、会場が湧いた。でも斎会君は全く動じない感じで表情を変えない。
「今日来られた皆さん!ツイてますよ!なかなか見られないプラチナカードです!お見逃しなく!」
「尋常の立ち合いに……情けは無用。いざ!」
そう言って斎会君が足で畳を強く踏んだ。ダンと大きな音がして空気が震えて一瞬会場が静まり返る。
そのまますっと槍を構えた。
エキジビションじゃないな、これは。向けられた槍から緊張感が伝わってくる。
ガチだ。深呼吸して刀を正眼に構える。
如月のときにも思ったんだけど、槍はとにかく間合いが遠い。
風を飛ばせない以上、どうやって懐に辿り着くかが鍵だ。
槍使いということは知っていたけど、どんな戦い方かはわからない。そもそもまさかこんな感じで直対なんて想像してなかったし。
出た所勝負で行くしかないか。
「片岡先輩、いいですか?」
審判役の藤村が聞いてくる。
「ああ、いいよ」
「斎会さん、いいですか?」
「いつでも」
斎会君がこっちから視線を外さないままに頷く。
「では!試合開始!」
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