第42話 エッケルム

「困った事になった様です」


リブラが、困惑した顔で告げる。


「どうしたんだ?」


レオが小首を傾げる。

今は、史学部の部室。


「史学部が目の敵にされている……なんでも、王女を洗脳して、賤混者ハーフの国に作り替えようとしているとか……そんな噂が広がっていましてね」


「私は私よ。あと、王になる気なんて無いですからね?!ああもう……王位継承権の放棄を早めようかしら」


「落ち着け、リリー」


最終的に破棄するにしても、王をどうするか決めてからだ。

クラテスに若返りの秘薬でも飲ませるか?

ルシフは素材に想いを馳せる。


「まあ、俺の所にも、変な奴が来たな」


リリーの取り巻きが。


「誰、そんな命知らずは?」


リリーが低い声で言う。


「まあ、ルシフさんなら、心配は要らないでしょうが。みんなが戦える訳でも無い……しばらくは単独行動は控え、お互いを護衛する様にしましょうか」


「なら……この前のペアで良さそうね」


いや、ディアナはリリーと組まないと護衛できない。

リブラがツッコミを入れるより早く。


「そうですね」


ディアナが同意してしまった。


……まあ、登下校を護衛する様にして……授業中は人の目も有るし、多分大丈夫だろう。

リブラは、心の中で溜息をつく。


あと……リリーとルシフのペアにちょっかい出す奴がいたら不幸すぎる。

リブラは、心の中で冥福を祈る。


「よっ」


どさどさどさ


ディアナが、ゴミ箱に可愛らしくラッピングした箱を棄てる。


「ディアナ、それは?」


ルシフが尋ねる。


「手作りのお菓子とか、有名店のお菓子とか、ね。受け取りたくないんだけど、押しつけられて……でも、やっぱり色々狙われる身なので、よほど信用できる人から貰った物以外は、口にしないのよ」


ルシフは、その内の1つを手に取り、


「これ、貰うぞ」


「……ルシフ、そんな物、幾らでも買ってあげるけど……」


リリーが恨めしそうに言い、


「いや、これが欲しいんだ」


有無を言わせず、ルシフは可愛らしい箱を鞄にしまった。


--


ジュ……


試験管の中に落とした薬品が……光を放つ。


ルシフは自室で、リリーから奪ってきたお菓子を解析している。


「エッケルムの毒……迂遠な」


超遅効性、だが、確実に蓄積する毒。

少し理性を緩める毒。

攻撃衝動を少し増す毒。


毒とも言えない効果の弱いものが多数ではあるが……

紛れもなく悪意の塊。


味は知らない。

食べる気にはならない。


そして……


視る。

そこに残された……魂の残渣を。


流石にルシフとて、出会った人の魂の形容かたちを全て覚えている訳では無い。

だが……


「あいつが……?」


それは、酷く見覚えの有るものであった。

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