See you lover,so goo!~修羅場遭遇~⑪
エレベーターを降りると、護は強い力で私の手を引いて部屋の前まで歩いた。
「護……手、痛いんだけど……」
「ああ、ごめん」
護はようやく私の手を離し、今度は玄関のドアをじっと見ている。待たせてしまったことをかなり怒っているのか、それともよほどお腹が空いているのか、早く玄関の鍵を開けろと急かされているような気がした。
鍵を開けて部屋の中に入り、ダイニングのイスに荷物を置いて、カウンターの上に置いてあるシュシュで髪をまとめキッチンに直行する。
料理をするにしても本当は一休みしたいところだけど、これ以上時間が遅くなるのも困るので、迂闊に座ってしまって腰が重くなる前にキッチンに立って、何か作ってしまうことにした。
手を洗って冷蔵庫のドアを開け、適当な食材はないか見てみると、卵とハムが入っていた。冷凍庫にはごはんと刻みネギもあるし、棚の中に鶏ガラスープの素と乾燥ワカメもあるから、チャーハンとスープくらいは作れそうだ。
「チャーハンとスープくらいしか作れないけど……いいかな?」
冷蔵庫のドアを閉めて振り返ると、すぐ真後ろに護が立っていて、強い力で私を抱きしめた。
予想外の護の行動に驚いて、手に持っていた卵を床に落としてしまい、ぐしゃりと卵の殻が割れる音がした。
「護……?」
護は突然私を抱え上げて部屋の隅に向かって歩き、私の体をベッドへ投げ出した。
「俺との約束も忘れて、今まで誰と一緒にいたの?」
「それは……」
「もしかして今日はもう帰ってこないつもりかと思ったけど……男に車で送られて帰って来るんだもんな」
私が車で送ってもらったところは見ていたけれど、それが三島課長だったことには気付いていないようだ。
護は私の喉元に唇を押し当て、舌先を徐々に下へと這わせたかと思うと、鎖骨の辺りを強く吸い上げた。強い痛みが走り、たまらず体を仰け反る。
牙を向いた狼に噛みつかれたような錯覚に陥り、なんとか逃れようと必死で抵抗しても、護の腕は私の体をがっちりと捕らえて離さない。
「や……!痛いよ、離して!」
「離さない。志織は俺のものだ。他の男になんか絶対に渡さない」
護は嫉妬心と独占欲を剥き出しにして私の体を強く押さえ付ける。今まで見たことのない護の姿に言い様のない恐怖心を抱くと同時に、自分の浮気は棚に上げて私を疑う護に怒りが沸々と込み上げた。
私の体になんか興味ないくせに、 護の手は私の服をたくしあげ、肌をまさぐり始める。
私に覆い被さっている護の首筋からは、私のものではない甘い匂いがした。ずっと待ってたなんて言っていたけど、奥田さんのところへ行ってからここへきたのがバレバレだ。
奥田さんの体で散々性欲を満たして来たはずだから、用があるのは私の体じゃなくて、私の作ったごはんでしょ?
馬鹿らしくて言い訳をする気力も失せた。されるがままになって、また体の相性の善し悪しを比べられるのもシャクだから、思い切り身をよじって抵抗してみる。
「私がいつ浮気したって?急用ができたけど仕事が忙しくて連絡しそびれたって言ったでしょ?それは私が悪かったから謝った。それでもまだ疑うの?」
「……あの車の男は?」
三島課長と言うと葉月のことも話さなきゃいけなくなるし、話が長くなるので面倒だ。ここは適当に話を作っておこう。
「今日は葉月と一緒だったの。前から相談したいことがあるって言われてて、話し込んで遅くなったから葉月が友達に頼んで迎えに来てもらったの。言っとくけど私ひとりじゃないし、送ってもらったからって何もないからね」
半分本当で半分は嘘のような話になってしまったけど、この際言い訳はこれでじゅうぶんだろう。
なんにせよ、この状況と体勢から早く抜け出したい。
語気を強めて説明すると、私にやましいことはないと伝わったのか、護はすんなりと信じたようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます