こじらせた想い④
「いつまででも待つつもりやったけど大阪に帰ったら一緒にいられんようになるし、他の男には取られたくないから結婚してついてきてくれんかって言われてな……」
「何それカッコイイ……!葉月、茂森さんからめちゃくちゃ愛されてるね……!」
一度でいいから、私もそんなこと言われてみたい。それが率直な感想だ。
やっぱり結婚するなら、愛情とか信頼関係がないといけないと思う。
「もう茂森さんに返事はしたの?」
「なかなか踏ん切りがつかんで迷ってたから返事はまだなんやけど……今月の終わりには引っ越すからそろそろ返事が欲しいって、今日シゲから催促の電話があった」
「もしかして昼休みに入る直前の電話って……茂森さん?」
「そうやねん。イラチやろ?せめて昼休みに入ってから電話せぇっちゅうねんなぁ」
「イラチって……。超イラチの葉月には言われたくないと思うよ」
関西ではせっかちな人のことを『イラチ』というらしい。葉月の口から何度となく聞いているうちに、私も関西弁をいくつか覚えてしまった。
しかし本当にせっかちな人が、いつまででも待つなんて言えるかな?
それだけ茂森さんは葉月のことが好きなんだろう。
「シゲは優しくて頭も良くて、昔から私が困ってるときはいつも助けてくれるねん。ホンマにめちゃめちゃええやつなんよ。私のことめっちゃ大事にしてくれてるのもわかるし、一緒になって大阪に帰るのもアリかなぁって……」
前に一度会っただけだけど、たしかに茂森さんはとても細やかな気配りのできるいい人で、周りの人たちからも頼りにされていて、葉月は茂森さんのことを『みんなの頼れるアニキみたいなヤツやで』と言っていた。
だけど茂森さんとしては、葉月のアニキ的ポジションは不本意だったというわけだ。
昔からお互いをよく知っていて、相手はとてもいい人で、そしてなんと言っても葉月を誰よりも愛して大切にしてくれているのだから、私からすれば理想的な結婚相手のように思える。
葉月と自分のグラスにビールを注ぎ、店員を呼び止めて新しい瓶ビールを注文した。
「じゃあお祝いに奢るから、葉月の寿退社を祝ってとことん飲もうよ」
「とことんって……今日まだ月曜日やで?」
「いいじゃん、月曜だって。もし潰れちゃったら私が責任持って送り届けるからさ」
私がグラスを掲げると葉月も少し笑ってグラスを掲げ、軽くグラスを合わせた。
それからしばらくの間、食事をしながらビールを飲んで話した。葉月は昼休みとは別人のように、いつも以上に饒舌になって、しゃべりながら早いペースでビールを注いだグラスを空ける。
大阪から出てきた友達はみんな『
そして1時間も経つ頃には葉月はすっかり出来上がり、呂律もあやしくなってきていた。
お祝いにとことん飲もうとは言ったけど、これはさすがに無茶な飲み方だ。無茶というよりは、むしろ飲み方も話し方も相当無理しているように見える。
「葉月、大丈夫?ペース早すぎるよ」
心配になって私が声をかけると、葉月はビールを飲みながら腕時計に目を凝らした。
「そんなことないって……さっき飲み始めたところやんか。まだ5分やで?私、まだそんなに飲んでへんやろ?」
完全に酔ってるな、こりゃ。
今まで何度となく一緒にお酒を飲んできたけど、葉月がペースも考えずこんな風に酔うのは珍しい。
そういえば葉月は普段から自分の恋愛の話をほとんどしないけど、酔うと少しくらいは話したりするんだろうか?
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