ひとをくらうばけものとばけものをだますもののおはなし
@dekai3
ひとをくらうばけもの
ドシンッ!
我の目に映るのは、澄み渡る満天の星空と、 キッ とした表情で我を見下ろす女。
「気に入った。我と
「えぇと…プロポーズは嬉しいのですが、その様な状況だったかしら……?」
襲い掛かった勢いのままぐるりと地面に叩きつけられ、首元を潰されかけながらも、我はその人間の美しさに目を奪われてしまい、思わず求婚を申し出た。
†
「まさか寝ている間に人類が滅びるとはな」
かつては大勢の人間が住んで居ただろう住居の跡を飛びながら、我は一人ごちる。
ここは東の果てにある島国。
確かこの国では木組みに土の壁で薄く硬い煉瓦を乗せた平たい家屋が一般的だったはずだが、いつからか鉄組みに土の壁で作る縦穴式住居に切り替えたらしく、先程から大きな円筒型の住居ばかり見掛ける。
そして、その大半が半壊しており、中は全て廃墟と化していた。
「砂漠や雪国は捜していないが、温暖な気候の地域に居ないとなると……な?」
先程から虚空に語り掛けては居るが、我の頭がおかしくなっているわけでは無い。
単にこうして口で声を発するという行為を行なっていなくては、いざ人間に出会った時に喋る事が出来なくなるからだ。
以前、錬金術に嵌った時に150年程他者と接しない期間があったのだが、その時は声を出すという行為を忘れてしまい、暫くは唸り声しか挙げる事が出来なかった。
あの時はまさか一から舌を使って発音を行う練習をする羽目になるとは思いもしなかった。我は知性ある生物だ。獣とは違う。
「むっ?」
昔の事を思い出しながら夜空を飛んでいると、ふと、この島で一番大きい山の麓に灯りが見えた。
山火事の類いではない。灯りが数点、等間隔に並んでいる。
あの様な人工的な物はこの島に至る迄に見掛け無かった。もしかすると生き残りの人間が居るかもしれない。
「まあ、人間が居なかったとしても情報収集にはなるだろう」
我は再度独り言をごちると、灯りが燈る場所へと急降下をした。
†
そして、その灯りの中で見付けたのがこの女だ。
肌はくすみ、髪に艶は無い。衣服はぼろ切れで清潔感も無い。
しかし、我には彼女がとても美しく見えた。
全てが滅び、自然だけが残された世界で、なんとも澄んだ空気を出すのか。
この我が思わず飛び掛かってしまう程の、穢れを知らぬ純粋な女だ。
美しいだけでなく強くもあったのは予想外だが、そこもまた魅力だ。
我はこの日から、求婚の返事を聞く為、この女の元へ365日通う事になる。
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