転生汽車 -Train Reincernaitoin-

結城里音 -YUUKI RINON-

第1話 明治転生録 -私、明治時代に来ちゃった⁈-

 学園の長期休暇が数週間後に終わる八月。私は、珍しくなってきたSLの動画を見ていた。


「やっぱり、SLはいいなぁ~いかにも、走ってる!って感じが……」


 宿題もそこそこに仕上げた美智留みちるは、残りの期間を謳歌していた。

 美智留の暮らす街は、桃郷とうきょうの郊外に位置し、SLなんて無縁の鉄道が走っている。そんな土地で育った美智留が、どうしてSL好きになったのかといえば、母親の彩香あやかの影響だったりする……

 休日を利用して連れていかれた郊外で見たのは、蒸気をモクモクと上げ、力強く走ってる姿だった。

 最初こそ、テレビアニメからSLを知った美智留だったが、現実のSLを知ってからは、一気にSLの虜になった。

SLのおもちゃを揃え、型式を調べたが……


『わからないけど、楽しい……』


 その頃の美智留は、SLのスペックや性能。構造などより、純粋に走る姿に魅了されていた。そのうち、性能にも興味を示したが、そこまでドはまりするようにはならなかった。

 そんな幼少期を過ごした美智留は、高校生になっても変わることはなかったが、秘密の趣味ということはなく周囲に着々と同じ趣味を広げていった。

 学校の長期休暇の最中も、一日SLのことを考えていたり、動画を見たりなど、充実した毎日を送っていた……


「ねぇ。美智留? こんなのあるんだけど……」

「えっ? 母さん……それって……」

「そう、誕生日プレゼント。」

「あ、ありがとう!!!!」


 数日後に誕生日を控えた美智留に、親からのプレゼントはやっぱりSLのチケットだった。美智留の暮らす現代では、珍しくなったSL。維持費だけでも相当かかることで、イベントにしか運航されない。

 そんなこともあり、チケットが販売されると、プレミア級のレア度を誇っている。発売から数分で売り切れるものも多かったが、彩香が手に入れたのは、そのチケットだった。


「入手するの苦労したんじゃないの?」

「まぁね、なんとゲットしたよ。」

「ありがとう。お母さん。」


 いそいそと準備を済ませ、余所行きのフリルをふんだんに使ったおしゃれ衣装に身を包んだ美智留は、意気揚々と出発先となる駅へと向かう。

 最寄りの駅の城東駅じょうとうえきから電車に乗り、桃郷駅とうきょうえきへと向かう。そこからは、さらに乗り換え田舎の帝京駅ていきょうえきと向かい、帝京駅から城東駅へと向かうルートでSLが運航されるチケットだった。

 そこまで距離は離れていないものの、移動に時間がかかった美智留。何とか出発に間に合った美智留は、改札を済ませSLへと乗り込んだ。


「何とか間に合った……」


 蒸気を上げ、今にも出発しそうなタイミングでギリギリの乗車をした美智留だった。

 電車とは違い、速度は出ないもののゆっくりと加速していくSL。美智留の乗る車両にも、レールの継ぎ目から心地よい振動が伝わってくる。

 それは、急いできたかいのある心地よい振動と、蒸気の香り。程よい疲れもあった美智留は、思わずうとうとと眠りに落ちてしまう……


「はっ!!」

「寝ちゃった……」


 汽車の到着の衝撃で気が付き、飛び起きた美智留。周囲をしっかり確認せずに、荷物をまとめると、慌てて降りる。


「あぁ~。ほとんど、寝てたなぁ~あちゃぁ~」


 駅の構内を抜け、駅前の広場に出た美智留は、見たことのない光景を目撃していた……

 出発するときにはなかったレンガ作りの建物、駅舎の建物もそれまでの鉄筋コンクリートではなく、レンガ造りのレトロな建物。それに、出発の時にはなかった路面電車すら走っていた……


「ここどこよ!!!!」


 天高く叫んだ美智留の声は、周囲の住人を振り向かせるほどに轟いた……

 ふと我に返った美智留は、周囲の人に謝り何とか事なきを得ていた。そして気が付く……


『背、ちっちゃっ!!』

『せいぜい、150? それくらいよね?』


 美智留の周囲には、住人はいたものの明らかに美智留よりも背が小さかった。せいぜい150センチ前後の身長しかなかった。

 そのため、女子の中では大きい部類に入る美智留の身長、165センチは完全に頭ひとつ飛びぬけていた。


『和服? あれ?』


 美智留が目にとめたのは、待ちゆく人のほとんどが和服を着ていたことだった。出発する頃は、和服を着るなんて初詣かお正月。成人式だけだったあの和服が、目の前には普通に着て歩いていた……


「ちょっと待って、まさか……」


 美智留はふと思い出した……

 美智留が住んでいた駅は、今時レアな掲示板があり、周辺のイベントなどのチラシなどが掲示されていた。それを思い出した美智留は、掲示板のある場所へと足を進める。すると、新聞が掲げられていて、その日付を見た美智留は……


「う~ん?」


-年五拾五治明-


 日付にはこう書かれていたが、美智留は読むのに苦労していた。それもそのはず、この時代。左から右への表記ではなく、右から左の表記だった。そして……


「め、明治55年? っていうことは……1922年?!」


 見慣れたはずの文字列だったが、ところどころに難しい旧漢字が使われ、左から右ではなく右から左に書かれていたこともあり、読むことすらちょっと苦労した美智留だった……


「あたし……明治時代に来ちゃったってこと?!」

「どうすんのよ、これ!!」


 SLの蒸気を抜けた先でたどり着いたのは、明治55年の世界だった……

 明治時代に降りたってしまった美智留は、どうなってしまうのだろうか……

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