詩
エンドレスホース
ぼくはホースの先端を持ったまま、歩き出した。
ホースは意外な程よく伸びた。
ぼくは家の門を通って敷地の外に出た。ホースはまだまだ伸びる。
所々、気になる所に向かって水を放った。
ホースヘッドのグリップを軽く握るだけで、それまでホースの中に充満していた水圧が一気に放出される。
初めは各々の家庭の庭などで育てられている鉢植えの向けてだったり、アスファルトの隙間から力強く芽を出し、太陽に向かって伸びる雑草なんかに向けて水を向けていたけれど、そのうち何でも良くなった。
ぼくは目の前をふらっと横切った小さな虫に向かって水を向けた。
水は当たらなかった。
虫は危険な空気でも感じたのか、すぐさま空中で踵を返し、猛スピードで離れていった。
僕はホースヘッドの先端を操作して、水が広範囲に広がるシャワーになって出るようにした。
空中に向けて水を放つと少し離れた所に奇麗な虹ができた。
その虹を見て、ぼくは
「ああ、懐かしいな」
と思った。
そのまま歩いていると、公園で子供達が遊んでいる姿が見えた。
僕は公園に入っていって、グリップの握りを強め、空に放つシャワーの勢いを可能な限り強くした。
虹は少し大きくなった。
子供達は喜んで、さかんに虹を掴もうとした。
でも、何がどうなっているのか、どんな方向から虹に向かっていっても、誰もが同じようにすり抜けていくだけだった。
ぼくはホースを持たない方の手を伸ばして、子供達と同じように虹を掴もうとしてみたけれど、反対にグリップを握る力が弱まってしまい、子供達から不満の声を浴びせられるだけだった。
やがて子供達はずぶぬれになってしまった服を乾かすために水の届く範囲から遠ざかっていった。
子供達の歓声が過ぎていくと、ぼくはまた歩き出した。
まわりの豊かな緑に向かって思う存分水を放ちながら、公園の真ん中を突き抜けていった。
しばらく歩くと、どこへ向かう道なのか、ながいながいまっすぐな遊歩道に出た。
遊歩道の両脇には背の高い何だか分からない木が左右入れ違いに同じ間隔で植えられていて、過剰に人の手入れが入り過ぎていない状態の古代の遺跡に向かう回廊のように見えた。
木々の枝葉のの影や、その隙間から漏れ込む光が、回廊のような遊歩道の床面に風に揺れながら動く仕掛けの模様を描いていた。
それはモノトーンに彩られた幾何学模様のタイルを思わせた。
すべてが美しかった。
ぼくはその遊歩道の両側の並木に盛んに水をかけながら、タイルの上を踏みしめていった。
この道はどこへ続くのだろう?
辿り着いた先には何があるのだろう?
それともこうして歩き続けて、ぼくはどこかへ辿り着く事が出来るのだろうか?
ホースはまだまだ伸びている。
この道が途切れるまで、ホースの長さはもってくれるだろうか。
不安とも、悲しみともつかない思いを抱きながら、ぼくは水を撒き続ける。
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