第7話 プトレマイオスの真実

 シンディが映し出した天球儀船の3Dオブジェクトに、レオと琴音は息を呑んだ。


 上部は、一見すると小惑星のようにも見えるが――よく目を凝らせば、そこには地球図鑑で見たような森林や山脈、川に湖、そして海が広がっていた。


 海は小惑星の縁いっぱいにまで広がり、端からこぼれ落ちた水は、きらめく飛沫となって宙に舞い、やがて霧のように消えていく。


 そして下部には、まるで巨大な宇宙船の船体のような構造。まさに「船」と呼ぶにふさわしい、人工的な意匠が広がっていた。


 ――これだ。


 今朝、展望ラウンジの望遠スコープで見た“あれ”と、形もディテールも、すべてが一致していた。


「どうしたの? 二人とも、そんなに大きな目を開けて」


 シンディが首をかしげながら、不思議そうに声をかける。


「あ、いや……なんでもないよ、先生。はは……」


 レオはぎこちない笑みを浮かべて首を振る。

 琴音も隣で胸に手をあてて、ひとつ、ふたつと静かにうなずいた。


 ――このことは、まだみんなには内緒である。そういう約束だ。


「そう? まるで、この天球儀船――『プトレマイオス号』を実際に見たことがあるような顔をしていたわよ?」


「えっ……!」


 虚を突かれたような衝撃が、レオの顔を走った。思わず声を上げてしまう。


「ん? 本当にどうしたの?」


 シンディが怪訝そうに眉をひそめ、じっとレオを見つめてくる。


 どんっ。


 琴音が無言でレオの足を踏みつけ、さりげなく彼の前に出て話題をそらした。


「へ、へぇ〜……。天球儀船って言うんだ、これ……。ってことは、ここから私たちの船って出発したのかな~?」


 ぎこちないながらも冷静を装う琴音。

 シンディは一瞬、目を細めたが――


「……まあいいわ」


 と、そのまま話を続けてくれた。


「琴音ちゃんの言ったとおりよ。今からおよそ千五百年前、私たちのご先祖さまと、十二隻の移民船はこの天球儀船『プトレマイオス号』から旅立ったのです」


「せ、先生……」


 琴音が硬い表情で尋ねる。


「それから、そのプトレマイオス号はどうなったんですか?」


 シンディはホログラムの再生機能を操作しながら、説明を再開する。


「当時、天球儀船は戦争の渦中にありました。あ、この戦いの映像はあくまでイメージなので、実際の記録映像ではありませんよ」


 立体映像が切り替わり、天球儀船の地表で繰り広げられる戦火の様子が映し出される。


「この戦争は、世界の存亡を賭けた戦いでした。

 地球への帰還を望む人類と、世界そのものを破壊しようとする人類――人類同士による、最後の内戦です」


 無数の光が戦場を駆け抜け、爆発が大地を焼き尽くす。

 燃え上がる森林、崩れ落ちる都市。まるで惑星そのものが泣き叫んでいるようだった。


「結果は……地球に還ることを願ったひとりの人間が、オーロラ・センチネルの神々と手を取り合い、同じ志を持つ人々とともに、天球儀船から脱出しました」


 その映像の中で、一隻、また一隻と移民船が光の軌跡を引きながら飛び立っていく。


「そして、世界を滅ぼそうとした人類は……天球儀船と運命を共にし、宇宙の藻屑となって消えたのです」


 3Dホログラムの船体が、無音の爆発を起こして霧のように散る。


「オーロラ・センチネルの神々もまた、プトレマイオス号とともに姿を消しました。一説にはアトゥイへ還ったとも言われ、今では神話として語り継がれています。その神話をもとにした物語のひとつが――キャプテン・ヴェガなんですよ。どう、わかった? レオくん」


「なるほどぉ……」


 レオは空を見上げて口を尖らせる。


「でも、天球儀船って……ほんとうになくなったのかな〜……なんて――」


 ごふっ!


 琴音の鋭い肘がレオのわき腹に突き刺さる。


「げほっ!」と思わずしゃがみこむレオ。


 悶絶する弟を横目に、琴音はそっと口角を引きつらせた。

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