どんななまえをつけようと 【現ドラ 百合じゃない……よ?】

 私には、親友がいない。


「あー、茉奈まな。どうしたのこれ、かわいー!」


 同じクラスの璃子りこが、買ったばかりのペンを目ざとく見つけて声をかけてきた。


「わあ、本当だ。可愛いね」

「見せて、見せて」


 席の近い女子が集まって、話しかけてくる。

 みんな友達だ。

 SNSでも繋がってるし、こうして喋るのは楽しい。でも親友? って聞かれると、私にはよく分からない。

 確かに仲はいいんだけど。


 今日は私の誕生日。

 だけど、このクラスの誰も、それを知らない。


 ◆◆◆


 あおいだったら、もしかしたら覚えてくれてるかもしれない。

 でもあの子は違うクラスになってからあまり会わなくなったし、今は彼氏がいるから。

 やっぱり親友なんかじゃない。


 授業が終わったら、みんなはさっさと部活に行く。私は部には入ってないから、放課後の教室でのんびり後片付けをしてた。

 すると廊下をパタパタと走る足音。そして後ろのドアがガラッと勢いよく開けられた。


「やほー、茉奈! まだ居たね。よかったー」

「葵……どしたの?もう部活始まるんじゃないの?」

「いいのいいの。今日はさぼっちゃおうと思って。あのさ、茉奈って今日の放課後は」


 こうして葵が放課後に来るのは、彼氏ができてから初めてかもしれない。

 前は時々こうして、部活をサボって一緒に帰ってた。でも彼氏ができてからは、ほら……。


「走ってどこに行くのかと思えば。葵、もうみんな部室に行ったぞ」


 彼氏は葵と一緒の部活だから、いつだって彼女の側にいる。

 束縛が酷い彼ってわけじゃないんだけど、仲が良すぎて私には辛い。


「あー、今日は部活休むって、みんなに言っといて」

「なんでだよ」

「だって、今日は茉奈の誕生日じゃん。ね、茉奈。誕生日には一緒に買い物行こうって約束したもんね」

「……そうだっけ?」

「えー、覚えてないの?去年の私の誕生日の時に、約束したでしょ!」

「ああそうだったか、仕方ないな。先生には俺が適当に言っとくよ。じゃあまた明日な。谷口も誕生日おめでと」


 意外なほどあっさりと、彼氏は手を振って教室を出ていった。


「でさ、茉奈、今日は一緒に帰れる?」

「……うん」

「じゃあさ、まずは一緒にプレゼントを選んでから、ケーキセット食べようよ」

「うん。あのね、聞いていい?」

「なに?」

「どうして私のほうを……。彼氏とか部活じゃなくて、私の誕生日を優先してくれたのかなって」

「それは、だって茉奈は友達じゃん」


 そっか。友達か。

 ちょっとだけ、葵の口から『親友』って言葉が出たらなって思った。


「やっぱいいね。茉奈と喋るとほっとするわ」

「私……喋るのトロいのに」

「いいんだって。ほっとするよ。もっと一緒に帰りたいんだけど今は部活がサボりにくくてね」

「そっか。今年は私たちの学年が主力だから」

「そうなのよー。次の大会、応援していてね」

「うん。応援しにいくよ」

「やったー! 茉奈が来たら勝てる!」


 大きな口を開けて笑う葵に引っ張られて、教室を出る。

 私も少しだけ、声を上げて笑った。


 葵にとって私は友達で、私にとっても葵は友達。

 だけどその関係にどんな名前をつけようと、私は葵が好きなんだなって思う。


「ハッピーバースデー、茉奈!」

「ありがとう」


 一緒に帰ろう。

 買い物をして、ケーキを食べよう。


 ハッピーバースデー、私!


 ――了――

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