第6話:立ちふさがる悪夢。その名は薔薇ガキ隊

 陣太一行の退却は順調、とまではいかずとも上々に推移していた。


 余談を許さない状況であるが、それでも最悪ではない。

 包囲されている状態だが、相手のハイ○ーサーたちは理性を失い、最大の強みである連携が失われている。

 数は多いが、それだけだと言えた。


 そもそもなんの考えもなく真っ正面から闘えば、性闘士セイントである陣太と麗華の方が性従士セフレであるハイ○ーサーたちよりも力は上なのだ。

 勝ちの目は十分にある、と陣太は確信していた。


 しかし、それは楽観に過ぎる考えだった。


 まだ性闘士として目覚めたばかりの陣太はその経験不足から見誤っていたのだ。

 仮にも暗黒性闘士として多くの性従士を従えるに至った暗黒性闘士・灰戸鋭介とその組織の実力を。


「ふぐうっ!!」

「あへええぇえええ!!」

「ひぎぃいいいいいいいい!!」

「あたまばかになりゅうううううう!!」


 突如として、野太い悲鳴が荒野を揺るがせた。

 発生源は陣太たちから見て、群がるハイ○ーサーたちの最後方。


 本能的な恐怖を刺激され、ハイ○ーサーたちが後退しポッカリとした空間が生じる。

 そこにいたのは4人の男。


 いずれも一糸まとわぬ裸。

 鍛え上げられ、たくましく隆起した筋肉を陽光の下に惜しげもなくさらした男たち。


 その股間は雄々しく屹立し、てらてらと邪悪な光沢を放っている。

 足下には白目をむいて、ビクンビクンと痙攣けいれんしている4人のハイ○ーサー。


 顔の穴という穴から汁を垂れ流し、ズボンがずり下ろされた下半身からは血さえ垂れ落ちている。

 前戯もワセリンもなくねじ込まれたのに違いなかった。


「ば、薔薇バラガキ隊!!な、なんでここに!?」

 処女を失う恐怖で性欲を消失し、理性を取り戻したハイ○ーサーが叫ぶ。


 それは同じ灰戸鋭介の性従士でありながら、ハイ○ーサーたちにとっての恐怖の権化。


 なぜなら、同じくハイ○ーサーでありながら薔薇ガキ隊が獲物とするのは男。

 ストライクゾーンも非常に広く、美少年からガチムチ、ヒゲ熊系にナイスミドル、何でも来いと言わんばかり。


 片っ端からさらって襲い、血が出ても前後運動を決してやめない地獄の兵士。

 その性質からチーム内の粛正しゅくせいをになう懲罰ちょうばつ部隊としての性格も持っていた。


 しかしながら、度重なるチーム内でのセクハラ行為が発覚。

 灰戸鋭介直々に制裁を加えられ、ハイ○ースの鍵を取り上げられたはずだった。


「お前たちがあんまり情けないからな。ボスがハイ○ースを返してくれたのさ。つかえねえノンケより、つかえるゲイって訳だ。」


 薔薇ガキ隊の中でも一際引き締まった身体を持つ男が言う。赤銅色の胸筋がピクピクと揺れていた。


 もう1人、その隣に立つ巨体の男が口元を拭う仕草で言う。

「おまけに上手く役目をこなせば、何人か見繕って連れて行っちまっていいとさ。久々のごちそうだ。今からよだれが止まらないぜ。」


 ハイ○ーサーたちは今度こそ恐慌を起こした。

 2人の目。獲物、美味そうな肉を見る目だ。

 台詞にある「何人か」が清谷陣太たちではなく、自分たちのことであることを雄弁に物語っていた。


「「「「「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」」」」」

 麗華の鞭を受けず、まだ完全な豚になっていなかったハイ○ーサーが脱兎のごとく逃げ出した。


 高まった性欲も、自分が喰われる側にまわる恐怖には打ち勝てなかったのだ。

 薔薇ガキ隊もそれを追うことはしない。

 それどころか穏やかささえ感じさせる表情でまっすぐに陣太を見据えていた。


 舐めるような視線。陣太の肌は総毛立った。


 対する薔薇ガキ隊は余裕の表情を崩さない。

「そう怖い顔をするなよ。俺の名は平次へいじ。一応、薔薇ガキ隊のまとめ役だ。」

 日焼けした男がまばゆい歯を見せながら言う。


「俺の名は丈治じょうじ。」

 厳つい人相のオールバックが名乗る。


「俺は風蘭人ふうらんと。ひとつよろしく。」

 そう言って笑った男の身体は、細身だがボクサーのように引き締まっている。


「そして、私がボーンナム。行くぞ」

 最後に一番の巨体がずいっと前に出た。


 いやがおうにも注意を引くその威圧感。

 陣太も麗華も一瞬、気をとられた。


 薔薇ガキ隊に注意を向けてしまった分、この場で一番危険な男に対する注意が薄れた。

 刹那の隙。だが、灰戸鋭介はそれを見逃すほど甘くはなかった。


「ザ・テイミングオブザスリュー!!」

 音もなく背後から近づき、相手に襲いかかるハイ○ーサーの技が麗華に襲いかかる。

 麗華とて性闘士、とっさに反応はしたものの、かわしきることは出来なかった。


「きゃああああああああ!!」

 ほとばしる激痛に思わず悲鳴があふれる。


 アザや腫れを生じさせる派手な打撃ではない。

 ただ痛覚を刺激し、激痛を生じさせることで相手の心を折る。灰戸鋭介の得意技だった。


 女性を痛めつけることは大好きだが、その結果、鼻血が出ていたり、顔が腫れてると萎える。灰戸鋭介はそんな男だった。


「麗華さん!」

 麗華の救援に駆けつけようとする陣太だったが、すでにそのとき、周囲は薔薇ガキ隊に囲まれていた。


「おっと、お前さんには俺たちの相手をシテもらおうか。」

「「「「結界珍攻撃!!」」」」


 かけ声とともに薔薇ガキ隊が襲いかかってくる。

 恵夢のフェロモンボムでふぬけになっていた豚どもとは違い、ハイ○ーサー本来のオオカミのごとき獰猛な連携。


 だが、性従士である薔薇ガキ隊と性闘士である陣太の間には明確な能力の差が存在する。

 以下に4対1であろうとも、勝ち目は決して薄くない。


「グハぁッ!」

 はずだった。


 一瞬の後。地面にヒザを着き、苦痛のうめきをあげていたのは陣太の方だった。

「な、なにをしたんだ。」

 痛みをこらえ立ち上がる陣太。

 

 薔薇ガキ隊は包囲を継続しながら、その様子を油断なく見据えている。

「フッ、4対1でも性従士ごときとるに足らないとでも思っていたか。」

 平次が口の端に薄い笑みを浮かべて言う。


「致命傷は防いだようだが、無駄なあがきだ。」

「その様子じゃ、ナニがおこったのかも分かっちゃいないだろう。もっとも、分かったところで防げはしないがな。」


 丈治、続いて風蘭人が口を開いた。

 その口ぶりには自分たちの技に対する絶対の自信が透けている。


「さて、時間が惜しい。野暮用はさっさっと片付けて、存分にアンタの身体を味わいたいからな。喰らえ、必殺の結界珍攻撃を!!」

 ボーンナムが宣言するように言い放つと同時、再び薔薇ガキ隊が陣太へと襲いかかる。


「く、クソッ!!」

 追い詰められながらも、なお闘志を失わず陣太は立ち向かう。


 命の、そして貞操の危機が本能を刺激。それによって研ぎ澄まされた性感セッ○ス・センスが薔薇ガキ隊の動きを完全に捕捉する。


(前方、平次は右の打ち下ろし。左右の丈治と風蘭人は貫手。そして、背後のボーンナム。こ、これは!?)

 薔薇ガキ隊の結界珍攻撃。その恐るべきからくりを理解した瞬間。驚きと恐怖が陣太の背筋を凍らせた。


 ボーンナム以外の3人は完全にシンクロした同タイミングの攻撃を放っている。

 1人、遅れたタイミングで襲いかかるボーンナム。


 ミスではない。そこに巧妙な罠と断固たる覚悟が込められているのだ。

 地を這うような低い姿勢で背後から接近するボーンナム。その目には防御や仲間との連携など一欠片も浮かんでいない。


 考えているのは、たとえどんなことがあっても己がチ○コを陣太の○○にねじ込んでやろうということだけだった。


「おおおおおおおおおお!!」

 ボーンナムの雄叫びが轟く。


「う、うわあああああああ!!」

 ある意味、死よりも恐ろしいイメージに突き動かされ、陣太は振り返りボーンナムをありったけの力で迎撃する。


 だが、それは他の3人に対して無防備になることを意味していた。

「隙だらけだぜえ!!」

 勝利を確信した平次の咆哮。


(し、しまッ)

 陣太が自身の失策を悟るよりも早く、繰り出された三発の打撃が彼を吹き飛ばした。


「ぐわああああああああああああ!!」

 まるでトラックに繰り返し退かれたゴミ袋のように、陣太は砂利の地面に転がった。 


「清谷さん!」

 姫子が悲鳴を上げて駆け寄ろうとするが、恵夢によって押しとどめられる。

 それでも声を上げようとするが、薔薇ガキ隊の尋常ならざる目つきでにらまれると沈黙した。


 陣太はなおも立ち上がろうとするが、手も足もまるで棒っきれのように言うことを聞かない。


(か、からだが動かない。)

 連戦の疲労、薔薇ガキ隊に与えられたダメージ、そして4人組のゲイ(全裸)に囲まれてケツを狙われると言うシチュエーション。


 重なった悪条件が陣太のチ○コを萎えさせ、性闘力コスモを完全に枯渇させていた。

 こと、ここに至って陣太はもはや性闘士にあらず、ただ食べられるのを待つだけのあわれな子羊に成り下がった。


「ふふっ、どうやら食べ頃のようだな。」

 舌なめずりをしながら近づいてきたボーンナムの節くれ立った手が乱暴に陣太のズボンと下着を引きずり下ろす。


「や、やめ。た、たすけ」

 弱々しく悲鳴を漏らしあらがいながら、麗華へと助けを求める。


「陣太!」

「おいおい、お前の相手は俺だろう?」

 麗華も救援には入ろうとするが、それはハイ○ーサーの首領。灰戸鋭介によって阻まれる。


 そもそも、直接の戦闘の場合、麗華にとって灰戸鋭介は相性のいい相手とは言えない。


 もちろん、女性性闘士には男性性闘士と比較して優れた点が多く存在する。

 例えば性闘力の長時間行使などはその典型である。


 男性の性闘士はあまり長時間性闘力を解放すると思考能力が低下するのだ。


 コレを俗に「精子が脳にまわる」といい、この状態に陥った男性性闘士はオ○ニーを覚えたサル、あるいは群れをなした男子中学生と同レベルにまで知能指数が低下する。 


 戦闘の序盤、恵夢を囮にした上でのフェロモンボムというずさんな作戦が成功したのも、今日に備えて禁欲生活を強いられていたハイ○ーサーたちが、その身に宿した性闘力ゆえに知能指数を少なからず低下させていたからであろう。


 しかし、明確に存在する男女の身体能力の差は、性闘力に相当な差がなければ逆転できない。


 さらに、女性を痛めつけることで興奮を覚える灰戸鋭介にとっては、麗華に攻撃を加えること自体が性闘力を高めるファクターであるのに対して、ガチSレズビアンである麗華は醜い欲望をみなぎらせた男と闘っているという事実だけで股間が乾いてくるのである。


 性闘士としては非力な部類の麗華では薔薇ガキ隊を瞬殺することも出来ない。

 陣太が敗れたいま、彼の救援どころか、薔薇ガキ隊から1名が灰戸の支援に加わるだけで危うい均衡は崩れてしまう。


 その先にあるのは決定的な敗北。


 最悪の未来が近づいてくる。その足音に麗華はわずかに動揺した。

 無論、灰戸鋭介はその隙を見逃さない。


「馬鹿め!ザ・テイミングオブザスリュー!!」

「きゃああああああ!!」

 痛恨の一撃を受けた麗華の悲鳴が、陣太の破瓜の悲鳴をかき消すように響く。


「れ、麗華様!!」

 吹き飛ばされる麗華を恵夢がとっさに抱きとめる。


 女王様は満身創痍。

 目立った外傷こそないものの、息は絶え絶え。性闘力も底を突こうとしていた。


「大分、いい顔になってきたんじゃないか?」

 対する灰戸鋭介の表情。劣勢の麗華を見下ろす表情は自身の勝利を確信している。


「く、こんな男に」

 雌奴隷の肩に身を預けるようにしながら、なんとか体勢を取り直す。


 背後には足手まといである救助対象。

 清谷陣太は現在進行形でゲイ4人になぶられていて、目の前には性欲全開の暗黒性闘士。


 絶対絶命、最悪の状況を前にふい、と麗華の肩から力が抜けた。


「もう、ここまでね。」

「え、麗華さま?」


「“欲望は時に愛のごとく燃えさかるデザイアアズバーニングラブ”」

 ここを最後と見定めた麗華の手からありったけのろうそく(SMプレイ用)が放たれ、瞬く間に灰戸の周囲に炎の壁が築かれる。


 しかし、ハイ○ーサーの首領から余裕の表情が消えることはない。

「子供だましの時間稼ぎだな。」


 言葉の通りだった。辺りに燃えるモノも少なく、手持ちのろうそくも使い切った。

 そんな状況では炎の壁がもつのは長くて3分。


 いや、性闘士の身体能力を持ってすれば、それよりも速く飛び越えてくるだろうことは確実だった。


 そんなわずかな時間では、逃げ切ることも出来ない。


「恵夢、いらっしゃい。」

 終わりの時が迫る中、絶望的な状況に似つかわしくない穏やかな声音で麗華は己が下僕の名を呼んだ。


「は、はい」

 困惑しながらも従順な態度の恵夢を抱き寄せながら、今まで見たこともないような笑顔を向ける。


「よく、ここまで着いてきてくれたわね。最期のご褒美に、愛してあげるわ。」

「れ、麗華様!ん、」

 何かを言いかける恵夢を制止するように、おとがいに手をあてると、柔らかく口づけを落とす。


 2度、3度、繰り返されるうちに次第に口づけは深く、長くなり、絡まり合う舌と響き合う水音は淫靡いんびな色を濃くしていく。


 恵夢は悩ましげな吐息をこぼしながら、夢中になって主人の唾液を味わっている。

 麗華は愚かしくもけなげな下僕の様子に目を細めながら、なおも相手の求める全てを与えようとしていた。

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