60.決戦、青妖精

「へえ、それじゃあ、青妖精もボスバトルになったんですね」

「うむ。赤妖精や緑妖精もボスバトルに切り替わった。これで周回が楽になったな」


 青妖精討伐に向かう道すがら、フォレスト先輩と情報交換を行っていた。

 妖精系もボスバトルになったということは知らなかったな。


「それで、エイトのボウガンは完成したのかね?」

「おおよそ完成ですね。後は、今日使ってみて、微調整でしょうか」

「なるほど。ちなみに、そのボウガン、量産はしないのかな?」


 おや、先輩も食いついてきたな。


「先輩もほしいんですか?」

「む、他にもほしがっている者がいるのか?」

「若様がほしいそうですよ」

「そうか……まあ、私は急がないし、実際に使っている姿を見てから考えるよ」

「そうしてください。あ、つきましたよ」

「だな。それでは、準備をして乗り込もうか!」


 先輩の号令の元、全員が装備を調え始める。

 と言っても、装備を変更したのは俺くらいなんだけど。


「む、それは青妖精装備か?」

「はい、青妖精装備一式です。若様からの作製依頼報酬として、大量の素材を入手できたので作りました」

「なるほどな。私たちの分はなかったのか?」

「全員分はさすがにないですね。あと、正規の料金をもらいますけど、支払いは大丈夫です?」

「うむ、心許ないな」


 でしょうね。

 だから、声をかけなかったんだし。


「そういうわけなので、今日の青妖精周回で頑張ってください」

「わかった。それでは皆、行くぞ!」


 青妖精のボスバトルフィールドに転送されていくと、そこは鍾乳洞のような場所だった。


「ふむ、ここが青妖精のフィールドか。話には聞いていたが、想像以上に狭いな」

「そうだねー。立ち回りには気をつけないと、壁際に追い込まれちゃいそう」

「そうですね。でも、まずは戦ってみましょう!」

「レイの言うとおりだな。男性陣も準備はいいか?」

「俺は大丈夫だ」

「俺もっす」

「俺も大丈夫です」

「よし、それでは始めるぞ!」


 フォレスト先輩が先頭になり、バトルフィールドに足を踏み入れると鍾乳洞の奥からボスが姿を現した。

 あれが、青妖精ウォーターエルフだろう。

 もっとも見た目は……。


「蛇、だな」

「ですね」

「私、苦手だなー」

「私は平気です」

「どちらにしても周回しなくちゃなんねーぞ?」

「頑張りましょう、ブルー先輩!」

「装備のためだもんね、頑張ろう!」


 苦手そうな顔していたブルー先輩も気を取り直して、青妖精に突撃を仕掛けた。

 それによって、青妖精のターゲットはブルー先輩に固定されたようだが、前衛陣は楽には行かなかったようだ。


「うわ、尻尾の振り回し攻撃!」

「気をつけろ! 全方位に攻撃判定があるぞ!」

「気をつけろったって、前兆がないのにどうやって見分ければいいんすか!?」


 うん、軽くパニックを起こしているな。

 さて、どうしたものか。


「エイトよ。まだ、睡眠を入れるには早いだろうか?」

「睡眠の状態異常は耐性がつきやすいですからね。せめて体力をもう少し削ってからのほうがいいでしょう」

「わかった。では攻撃を続行するとしよう。エイトも、そのボウガンを存分に使ってくれたまえよ」

「そうさせていただきます!」


 前衛の様子見ということで回復に専念していたが、フォレスト先輩のお墨付きもいただいたし、いよいよ竜墜砲・試製二式の出番だ。

 竜墜砲を展開して、水属性の弱点であることの多い雷属性のマガジンをセット、弱点部位がわからないのでとりあえず顔面に向かって狙いを定める。


「さて、どれだけのダメージが出るか……ファイア!」


 トリガーを引くと、風切り音を立てて一気に弾丸が発射される。

 まとめて四発発射された弾丸は、そのまま青妖精の顔面にヒットして、のけぞらせることに成功した。


「ハッハッハ! なかなかの威力じゃないか! 一回の攻撃で目に見えてわかるほどのHPが減ったぞ!」

「それはどうも。追撃のチャンスですけど、俺も前衛陣に混じって攻撃してきたほうがいいでしょうか?」

「いや、ここでどっしり構えて待っていてもいいんじゃないのか? いま、ボウガンで追撃しては、フレンドリーファイアが怖いだろう?」


 このゲーム、フレンドリーファイアも一応存在する。

 フレンドリーファイアといってもダメージは入らず、本来の威力に基づき体勢を崩したり、ダウン、ノックバック、吹き飛ばしなどが発生するだけなのだが。

 俺のボウガンだと、間違いなく吹き飛ばしになるけどね。


「まさか、一撃でダウンして、しかも蛇の体が完全に地に伏せるとは思いませんでしたよ」

「うむ、私も思わなかった。おかげで、私も攻撃できん」

「先輩は曲射もあるんじゃ?」

「やろうと思ったが、天井に突き刺さったよ」


 なるほど、天井が邪魔をしたか。

 いわれてみれば、天井もかなり低いからな。


「あ、起き上がりましたね」

「ダウン時間は三十秒ほどか。しかし、いい感じにダメージを与えることができたようだな」

「ですね。あと、HPが60%を切ってますけど、特殊攻撃が来るんじゃないですか?」

「む、そうだな。全員、青妖精から離れろ!」


 ダウンから立ち直った青妖精はその場でとぐろを巻くと、竜巻を巻き起こしその中に隠れてしまった。

 そして、その竜巻から小型の竜巻を分裂させてこちらに飛ばしてきた。


「ふむ、これはかわすのがきついな!」

「フォレスト先輩、そう言っても余裕でかわしてるじゃないですか!」

「レイ、こういうのは、慣れだよ、慣れ!」

「私はまだ慣れてません!」


 そんなことを言い合うふたりは、割と余裕を持って竜巻をかわせている。

 竜巻自体は、不規則かつ直線的に飛んできているようで、フォレスト先輩ではないがなれればかわせるだろう。

 だが、ブルー先輩はかわすよりもガードしたほうがダメージが少ないと踏んで、がっちり盾を構えている。

 ソード先輩とブレンは……なんとかかわしているな。

 俺のほうはと言うと……。


「うん、竜墜砲にガード機能をつけておいてよかった」


 竜墜砲をガードモードにしてその陰に隠れていた。

 ガードモードにしたからといって、竜墜砲の耐久力が削られるわけではないので、安心して隠れていることができる。

 一応、盾ガードと同じ扱いなので、ガードするたびに自分のHPが減っているが、ある程度減ったらポーションを使って回復することで、割と安全に切り抜けさせてもらった。


「……む、これで特殊攻撃は完了か」


 竜巻攻撃開始から三十秒ほどたったところで青妖精が通常モードに移行した。

 ブルー先輩のHPがそれなり以上に減っていたので、ポーションを投げて回復しておく。

 他のメンバーは、ダメージを受けた分は自分で回復しているみたいだ。


「エイト、また特殊ダウンを一発でとれると思うかね?」

「一発では無理でしょうね。何発か当てればいけそうですけど」

「よし、それでは、その方針で行ってみよう。私は猛毒矢を使うのでダウンはよろしく頼む」


 ダウンをとるのを任されたので、再び竜墜砲で狙いを定めて攻撃を始める。

 今回はダウンをとる前に、フォレスト先輩の猛毒を入れてもらわないといけないから、ペースを見極めての攻撃となった。

 少し時間をかけて攻撃を行い、マガジンの弾が尽きると同時に特殊ダウンを奪うことができた。


「さあ、ダウンだ! 一気に仕掛けるぞ!」


 今回は俺も刀に持ち替えて、攻撃に参加する。

 とはいっても、居合いで一気にダメージを与えた後、すぐに離脱するのだけど。

 居合いの連閃が気持ちよく決まり、ダウンから復帰する前に至近距離から離脱する。

 離脱した後は、竜墜砲をリロードし、少なくなったTPを念のため回復しておく。


「さて、残りHP40%、ここから先は少々きつくなるぞ」

「そうなんですか?」

「うむ。青妖精が巻き付きホールド攻撃を仕掛けてくるようになるのだ。大抵は、タンクが被害に遭うのだがな。ホールドされている間、なにもできないのは当然のこと、継続ダメージも受けてしまうやっかいな攻撃だ」

「解除方法は?」

「青妖精に一定ダメージを与えればいい」

「……それって竜墜砲があれば楽勝じゃ?」

「……便利だな、竜墜砲」


 動きが遅くてでかい相手にははまるからね。

 本物の竜相手にどこまで通用するかが課題なんだけど。


「ともかく、巻き付きには注意……って」

「さっそくホールドされてますね。ブレンが」

「うむ。エイト、やってもらえるか」

「わかりました」


 弱点っぽい顔面めがけて弾丸を撃ち込む。

 さすがに、一撃じゃ解除できなかったが、三発目で解除してくれたのでかなり余裕があったほうだろう。

 ブレンも生きてるし、安い安い。


「さて、あちらさんののこりHPも33%を切ったし、先ほどの竜巻攻撃がもう一回きて、追い込みだな」

「最後のほうって行動パターン変わるんですか?」

「いや、基本的に変更なしだ。今まで通りにやってくれればいい」

「わかりました。適当にやっちゃいますね」


 その後は、フォレスト先輩の言葉通り、問題なくクリアできた。

 一周クリアしてわかったことだが、竜墜砲のシールドを使ってガードすると、オプションパーツの耐久値が減るようだ。

 まあ、消耗率三割なのでそこまで気にすることはないのだが、毎回修理すれば壊れることもないだろう。

 壊れればまた作ればいいのだし。

 結局、この日は青妖精を七周ほどして俺の工房へ行き解体して解散となった。

 もちろん、全員分の青妖精装備は受注したよ。

 他の依頼もあるから、すぐにはできないことを伝えてあるけど、なるはやで作ってあげよう。

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