23.対戦、紅妖精フランジャ
カクヨムコンに参加するためカクヨム版のみ先行公開しています
本日は3話投稿します
7時・12時・19時ごろ公開予定です
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「くー、紅妖精フランジャ、待ちきれないぜ!」
紅妖精フランジャの実装日である金曜日朝、本当に一日で風邪を治してきた
話題はやはり《Braves Beat》で実装される新たなボス『紅妖精フランジャ』の話だ。
ちなみに、ゲームのほうは午前十時から午後六時までメンテナンスでログインできない。
俺たち学生にとっては、ほとんどの時間を学校で過ごすため、ありがたい話である。
「琉斗はどうなんだよ? やっぱり楽しみか?」
「楽しみというか……不安だな。今日の夜にゲーム同好会で狩りに行くんだろう? 俺が一緒に行って大丈夫なのかなって」
「細かいところを気にしてるなぁ。三海先輩が大丈夫って言ってるんだから大丈夫だろ?」
「だといいんだけど」
そうは言っても、不安なのは不安である。
俺の戦闘力なんて並以下なわけだし、実装初日の討伐ができるかどうか、微妙になってしまう気がする。
いっそのこと、俺以外の誰かを誘って行ってもらい、一度倒して情報を集めてから再度誘ってもらったほうがいいんじゃなかろうか。
「まあ、初日のクリアは目標であって、絶対に実現させなきゃいけない話でもないだろ。気楽にいこうぜ、気楽にさ」
こういうときは、和也のお気楽さが本当にうらやましい。
俺の不安をわけてやりたいよ。
そんなことを考えながらも、俺たちは自分たちの教室までたどり着く。
そこにはすでに葉月さんが登校していた。
「あ、琉斗君、和也君、おはよう。 今日は楽しみだね!」
「おはよう、葉月さん。俺は、楽しみというか不安だけどな」
「おはよ、葉月さん。琉斗のヤツ、朝からこんな感じなんだぜ?」
「うっさい、和也」
いまから胃が痛くなってきた。
俺はあくまで生産プレイヤーであって、戦闘コンテンツは苦手なんだよ。
「琉斗君、あんまり気負っちゃダメだよ。クリアできるかどうかなんて、情報不足な以上、ある程度は運も絡んでくるんだから」
「……そのある程度以外は?」
「……実力?」
その実力が俺には足りてないんだがなぁ。
とはいえ、まずは学校の授業を受けなくては。
「……あ、そろそろホームルームの時間だね。私は席に戻るから」
「俺も自分の席に行くわ。それじゃ、琉斗、またな」
「ああ、ふたりともまた後で」
こうして、若干不安になりつつもこの日の授業をこなしていくのだった。
……ああ、胃が痛い。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
放課後は少しゲーム同好会ですごしてから家に帰り、寝る支度を調えてからゲームを始める。
メンテナンスは予定通りの時間に終わり、早めの晩ご飯を食べてからのログインとなった。
待ち合わせ場所は、俺の工房ということになっているから、俺は移動する必要がない。
そして、工房の玄関を開けようと思って扉に向かうと、すでに全員が集まっていた。
「お、ようやくログインしたか。おせーぞ」
「遅いって、待ち合わせ時間はまだ三十分先だぞ?」
「待ちきれなかったんだから仕方がないだろ。とりあえず、ゲート広場まで行こうぜ」
「そうだな。エイトも来たことだし、全員揃っている以上ここにいる必要もなかろう。エイトは準備ができているかな?」
準備、準備か。
インベントリを確認するが、昨日のうちに十分な量の回復アイテムを用意してある。
回復アイテムは腰のサイドポーチに入れてあり、ショートカットとして使えるようにした。
武器も防具も耐久値は十分だし、問題ないだろう。
「準備はできてます。それじゃあ、行きましょうか」
「うむ、それでは出発だな」
俺は工房の鍵をかけて皆と一緒にゲート広場へと向かった。
ゲート広場に向かう途中、歩きながら今日の予定を確認する。
「さて、本日は今日実装された『紅妖精フランジャ』を討伐に向かう。『紅妖精フランジャ』は、フィールドボスやダンジョンボスではなく、ボスバトルで戦う相手のようだ。なにか質問はあるかな?」
フォレスト先輩が聞いてくるけど……ボスバトルってなんだ?
「フォレスト先輩、ボスバトルってなんです?」
「ああ、エイトは知らないのか。ボスバトルというのは、ゲートから直接ボス戦に挑む形式のエリアのことだ。ボスバトルでは制限時間が決められていて、それ以内に倒せなかったらクエスト失敗でエリアから追い出されることとなるな。逆を言えば、制限時間内であれば、デスペナなしで何度でも挑めるわけだ。……途中で死亡して復活すると、衰弱状態のデバフはつくがな」
衰弱状態は、攻撃力が三割低下するデバフだ。
主に戦闘中に死亡して復活したときにつくと聞いていたが、本当らしい。
とりあえず、ボスバトルについてはわかったし、後聞きたいことは……。
「それ以外に情報はないんですか? たとえば攻撃パターンとか」
「それ以外は調べていないな。せっかく実装初日に挑むんだ、攻撃パターンを知ってから初戦に挑むなど興醒めではないかな?」
「……俺としては、安全な道を選びたいんですけど」
「そこは諦めることだね。……さて、ゲートについた。ボスバトルはいきなりボス前に転送されるため、ほかのパーティとの接触はない。サーバーを変える必要もなかろう。全員、覚悟はいいな?」
覚悟か。
……もうどうにでもなるよな?
「了解です」
「勿論、できてますよ」
「早く行きましょうよ、フォレスト先輩」
「覚悟も準備もできてるよー」
「さあ、お祭りの時間だぜ!」
「よろしい。では行くぞ!」
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
ゲートから転移してたどり着いた場所、そこは火山の火口のような場所だった。
周囲はマグマの壁に囲まれ、強い熱気が周囲を包んでいる。
……これ、赤妖精装備だったから問題ないけど、火属性耐性がない装備だと持続ダメージを受けるんじゃないかな?
「……ふむ、あれが紅妖精フランジャか。やはり大きいな」
フォレスト先輩が見据える先、そこにはドラゴンが鎮座していた。
PVで見たときも大きかったが、実際に対面してみると、それ以上に大きいな。
「ねえねえ、フォレスト先輩。早く始めましょう!」
「そんなに急くなよ、レイ。全員、レベルはどうなっている?」
レベル、戦闘レベルか。
俺は40だからあまり関係ないけど、念のため確認しよう。
「……俺は40のままですね」
「俺も42のままです」
ブレンの戦闘レベルは42か。
ほかの皆はどうなんだろう。
「あ、私は43まで下げられてます」
「私も43ですねー」
「俺も43だ。43のレベルシンクだろうな」
「ふむ、私も43か。ソードの言うとおりだろうな」
つまり、高火力で押し潰すような戦闘方法はとれないというわけか。
なんとも楽はさせてもらえないことで。
「状況確認も終わったし、戦闘を始めるぞ。まずは、赤妖精と同じように立ち回ってみよう」
「はーい。それじゃあ、始めますねー」
ブルー先輩の攻撃から戦闘が始まった。
戦法はブルー先輩が引き付けている間に、ほかのメンバーが攻撃して倒すといういつものやり方である。
フランジャの攻撃も、爪や噛みつき、時々ブレスといったところでいまのところ注意すべきところはない。
だが、戦闘を始めて少し経ったころ、フランジャが尻尾を高く掲げた。
「む、あれはまずい。全員、フランジャから離れろ!」
「え?」
ほかの皆がフランジャのそばから離れる中、俺だけ反応がおくれて下がるのが遅れてしまう。
そこにフランジャが尻尾を回転しながら叩きつけてきて……。
「うわっ! ……って、熱い!」
尻尾で吹き飛ばされたダメージのほかに、マグマの床によってスリップダメージが入ってしまう。
俺は慌てて普通の地面まで戻るが……尻尾攻撃のダメージもあわせて七割の体力が減ってしまった。
「そういえば、エイトはドラゴンと戦うのは初めてだったな。ドラゴン種の共通する特徴として、尻尾を高く掲げた後にスピンアタックをしかけてくるんだ。これの威力は高いが、予兆を見極めやすいので回避することができる、というわけだ」
「……それ、先に教えてほしかったです」
俺のことを回復しながら、フォレスト先輩が説明してくれる。
俺はうらめしそうにフォレスト先輩を見やるが、先輩はどこ吹く風という様子だ。
「まあ、一回体験してみるのも悪くはないだろう。それに、周囲のマグマまで飛ばされれば赤妖精装備でもダメージを受けることがわかった。これはこれで収穫だぞ」
……確かに、マグマは踏んじゃいけないというのはよくわかった。
それでよしとしようか。
「さあ、ダメージ回復も済んだし、戦闘を再開するぞ。……の前に、またスピンアタックの予兆だな。あれが終わってから戦線復帰としよう」
「そうですね、そうしましょうか」
二回目のスピンアタックは全員が回避して、戦闘を継続する。
五分かからない程度で相手のHPを二割ほど削り、フランジャがフィールド中央へと移動した。
「む、これは、『陽炎』か?」
「どうでしょうね。とりあえず、様子を見ましょうか?」
「そうだな。……分身したか。やはり『陽炎』のようだ」
フィールド中央でフランジャが分身を作り出す。
分身が火の玉を作り始めたので、『陽炎』で間違いないだろう。
全員が手分けをして分身に攻撃をしかけるが……その途中で赤妖精との違いが現れた。
「ちょ!? 本体が全体攻撃をしてくるなんて聞いてないぞ!?」
「ふむ、どうやら攻撃パターンが変わっているようだ! 回復は私が行うから、ほかの皆は攻撃に集中!」
「了解!」
数秒おきに飛んでくる全体攻撃の回復をフォレスト先輩に任せて、俺たちは分身の破壊に専念する。
そして、五体までは分身の破壊に成功したが、一体だけ破壊しきることができなかった。
その結果として、『陽炎』の効果が発動し、全員にダメージが入る。
ダメージ量は最大HPの八割ほど、被害はかなり壊滅的だ。
そこに、フランジャからの全体攻撃が再度入り、ダメージが重なる。
それが決定打となって、俺たちは最初の戦闘に敗北するのだった。
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