みんな大好き宝箱
薄暗い光苔の単調な光に鈍い反射を感じた気がして近づくと、洞窟型迷宮に不釣り合いな金色の縁取りがなされた赤い箱を見つけ、思わずガッツポーズと共にダンジョンの中にもかかわらず歓声をあげそうになってしまった。
宝箱だ。
覚醒者でも改造人間でもないソロの探索者が潜れるようなダンジョンの浅い階層ではなかなか見つけることが敵わず、これが半年ぶりの邂逅である。嬉しくないわけがない。
前回の宝箱からはそこそこな等級のポーションが出て宝箱として当たりではないが、それなりの金額になり、その金でくたびれていたショートソードと靴を中古品とは言え少し品質が上のものに変えることができた。
そのおかげで日々の探索が随分楽になったので次にも期待したいなと笑みを浮かべながら宝箱に罠がないかの確認に入る。
おっとその前に近づく人がいないかの確認だ。
先ほどまでの探索ではそのような気配は感じなかったが、宝箱がかかっているのだ念には念を入れた方がいい。
耳を澄ませて壁や地面にしばらく押し付けたが水滴の落ちる音ぐらいしか聞こえない。人どころかモンスターもこの付近にはいないようだ。
さてそれでは罠の確認だ。壁、天井、地面を色々な角度から眺めたり、鞘でつついてみたが特に違和感を感じる場所は見つからなかった。
宝箱も鞘で押してみたが前に見つけた宝箱と同じで地面に張り付いており動きそうにはなかった。
朗報だこれで誰かがいたずらでそっくりの空箱を置いている可能性は低い。
さて本命の宝箱にかけられてる罠の可能性だが、ここまでいろいろやっておきながら、正直言って罠の解除方なんて学ぶ機会はないし、どういったものがあるのかぐらいしか分からない。
取りあえず宝箱の後ろに周り鞘で色々な所を叩いてみる。
反応がないのを確認して宝箱に耳を近づけたまま叩いてみるが音を聞いてもうーんさっぱり分からん。
よっし男は度胸だ。
斜め後ろからショートソードを少し苦労しながら差し込み勢いよくこじ開ける。
セーフ
何も反応がない。
余裕だったな。
さてお楽しみの確認タイム。
リュウは羊皮紙を一枚手に入れたぞ。
中央に魔法陣と手形の書かれた羊皮紙。
これは恐らくは使い魔召喚の儀式書か。
前回のポーションとは桁違いの金額で取引されてるモノだが困ったな。こんな高額な品を取引できるコネがない。
このクラスの品だといつもの店には卸せないし、もっと上の新たな店に卸そうにも、今まで関わりのなかった低レベルなカモだと見抜かれ相場の9割引きどころか、そのままいちゃもんをつけて取り上げられる恐れすらある。
高い上納金で縛られるのを恐れてどこのグループにも入ってなかったのがここで響くとは。グループに入ってたなら馴染みの店があっただろうにな。しかし今更入ろうにもこの儀式書以外に売りがないから、集団で襲われて奪われそのまま殺されるか奴隷として売り払われる可能性が高い。
ソロ探索者でやるにしてももう少し人と関わってコネを作るべきだったな。しかしその場合は奴隷になっていたかもしれないし、うーん難しい。
よっし、こうなったら自分で使って探索の糧とするか。
妖精に精霊に魔物に魔族、はたまた神やロボットまで何が出るか分からない上に、使いこなせるかもわからない使い魔召喚よりも、《セフィロトの樹》を解放して確実に強化したり市民権を買って安全に街で暮らしてみたりしたかったが仕方がない。
神の加護は特に信じてる神はいないし、改造手術は信頼できるコネがないものな。
さて、今回の探索は満足いく結果もあったことだし帰るか。
通常の探索と違うそぶりを見せてばれて奪われないようにすることが最重要ポイントだが、この浮ついた気分で探索なんて怖くてできない。
今日はじっくりカレーを煮込むということにしとくか。1ヶ月に一度ぐらいの頻度でやってる行動だからそこまでおかしな点はないはず。
そして使い魔召喚の儀式書だが、リュックに入れると他の素材で汚れるし、モンスターの攻撃を受ける可能性がなくはないから肌に身に着けるか。
それでは上と下どっちにすべきか。上なら腹に巻いてるさらしの中。一番安全な気がするが解いて巻くのに時間がかかる。
下ならおしりは圧力で破れる可能性があるからサイドにいれるべきだが、うん、腹のさらしの下が一番だな。
さらしを解こうと思ったが前回確認して以降かなりの時間周囲の確認をしていないことに気づいた。やはり高揚してるせいで注意力散漫になっている。
既に宝箱はダンジョンに飲まれて消えていた。
前回と同じように確認したところ地面に耳を付けた時に小さく鈍い金属音が聞こえた。
これは急がねばならぬと、左腰の下に使い魔召喚の儀式書を予備のさらしを巻きつけ固定してしっかりとベルトを締める。
ここなら鞘があるからモンスターに直接攻撃される可能性は低いはず。
そうして焦って急がぬように音が聞こえた方向と反対に落ち着いた歩調で歩き出し、ここから最短で入口に戻るべく周囲に注意を払いながら地図を思い浮かべた。
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