第199話 一手









「お手を煩わせてしまい申し訳ございません、我が主人よ」




 深々と頭を下げるは上級魔族のトパーズ。その端正な顔を苦々しげに歪めながら主人の言葉を待つ。




「・・・良い、お前の失態を許そうトパーズ。・・・・・・それに、目的のモノは手に入ったしな」




 男性にも女性にも思える中性的な声音。トパーズの主人である魔王サジタリウスは、魔王城の玉座にユッタリと腰掛けていた。




 その部屋は薄暗く、魔王の姿はハッキリとは視認できない。わずかな光源から、そのシルエットが薄らと浮かび上がって見えるのみだった。




 意外というか、サジタリウスのシルエットは小柄だった。只人の戦士と比べても細身で、戦闘を生業としている風には見えない。




「ありがたき幸せ。して、我が主人よ。何故この小娘が必要なのですか? 見たところ、特別な力は持っていないようですが・・・・・・」




 そう言いながら、トパーズはチラリと隣に視線を向ける。そこには、ブルブルと震えている少女の姿が。




 魔王サジタリウスは、少女に興味が無さそうな視線を向ける。




「もちろん、この少女に力なんて無い・・・ただの変哲の無い異世界人だ」




「異世界人・・・・・・ですか?」




 困惑したようにそう繰り返すトパーズを無視して、魔王サジタリウスは少女に向かって何かを語りかける。




 その言葉は、トパーズには聞き慣れない不思議な発音で、まるでこの世界の言葉では無いようにすら聞こえたのだった。




 しかし、魔王サジタリウスの言葉を聞いた少女には、その内容が理解できたようで、急に血相を変えて後ずさりを始めた。




「・・・・・・今の言葉は?」




 トパーズに問いに、魔王は不敵に微笑んだ。




「ふふっ・・・なんでも無いよ。お前が気にすることはない」




 答えをはぐらかす魔王に、自分が知るべきでは無いことだと判断したトパーズは、無言で深々と頭を下げる。




 その様子を見ていた魔王サジタリウスは、上品に笑い声を上げた。




「ハハッ・・・そう、それで良いんだよトパーズ。お前はお前の仕事をすれば良い」




 そして魔王は、その右目をカッと見ひらく。




 深紅に染まった右の千里眼が爛々と妖しい光を放っていた。




「さて、この一手に対して、里のジジイはどう出るかな?」









 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る