第81話 炸裂弾

 ランスを失ったフェアラートは、左手の大盾を両手で持ち直して突進する。





 ストーンドラゴンの前足による叩きつけを大盾ではじき返し、そのまま距離を詰めるとその頭部に大盾を叩き込んだ。





 クレアにより魔改造されたフェアラートの人ならざる膂力。その膂力により思い切り振るわれた大盾の威力は絶大で、ドラゴンの巨体がぐらりと傾いた。





「まだまだぁ!」





 追撃。





 さらに踏み込んだフェアラートは、たたみかけるように大盾を突き上げた。





 倒れかけたドラゴンの身体は下から突き上げられ、一瞬その身体が宙に浮かぶ。そして重力に引かれて地面に叩きつけられ、ドラゴンは苦悶の声を上げた。





 フェアラートは倒れたドラゴンの腹部からランスを引き抜いて、そのままドラゴンの頭部まで移動、体重を乗せた突きでストーンドラゴンの右側頭部を破壊した。





 しかしストーンドラゴンは、その負傷を全く問題にせず立ち上がる。





「・・・ふん、コアは頭では無かったという事か」





 立ち上がるドラゴンに向き直り盾とランスを構え直すフェアラート。再び両者が戦いを始めようとしたその瞬間、背後から乾いた破裂音が鳴り響き、相対していたドラゴンの右前足が破裂したかのように吹き飛んだ。





 体勢を崩して、ドウと地に倒れるストーンドラゴン。





 フェアラートがちらりと背後を確認すると、”無銘”を構えた速見がニヤリと不敵な笑みを浮かべてこちらを見ていた。





「・・・やるな速見殿」


























(やはり思った通りだ。コイツは使えるぜ)





 狙撃でストーンドラゴンの右前足を破壊した速見は、ニヤリと笑うと今度は別の足に狙いをつけ直す。



 次は左の後ろ足でいいだろう。あの巨体だ、二本も足を破壊されては立ち上がることは困難になるはずであろうという算段だ。





 速見がイメージしたのは炸裂弾。弾を放ち、着弾した地点で起爆して相手を広範囲で負傷させる銃弾だ。





 当然ながら速見の知る通常の炸裂弾では、ドラゴンにダメージを与えられる筈が無い。しかしこの ”無銘”になら可能なのだ。着弾地点でドラゴンの巨大な足を吹き飛ばすほどの爆発を巻き起こす、そんな規格外の弾を放つことが・・・。





 速見は冷静に二発目を放ち、的確にドラゴンの左後ろ足を吹き飛ばす。これでドラゴンの機動力は完全に奪えたと言ってもいいだろう。





 速見は構えを解き、ホッと息を吐いた。





(これ以上の援護は必要ないだろう。・・・後輩の活躍の場も取っておかないとな)





 お手並み拝見とばかりに、速見は奮戦する暗黒騎士の姿を見守るのであった。 


























 速見の狙撃により足を二本失ったストーンドラゴン。





 巨体のバランスの悪さ故に立ち上がる事も出来なくなった遺跡の守護者に引導を渡さんと、フェアラートが目前に立ちはだかる。





 しかしストーンドラゴンは最後のあがきとばかりに半壊した口を大きく開き、金属同士をこすり合わせたかのような耳障りな鳴き声をあげる。





 それが合図であったかのようにストーンドラゴンの周囲に無数の魔方陣があらわれ、一斉にサンダーボルトの魔法を展開した。





 迫り来る無数の雷。





 フェアラートはグッと右手のランスを身体に引き寄せ、武器と身体を一個の塊と化する。静かに目を閉じ足に力を溜める・・・ドクンッと心臓が一つ高鳴った。





 クレアがフェアラートを作る際に用いたパーツは数あるが、そのどれもが一つの目的の為に集められたモノだった。





 即ち、純粋な肉体の強化。





 核となるフリードリヒという人間の持っていた高い技能を十全に生かす為のその改造は、瞬間的に怪力の魔王カプリコーンを上回るほどの膂力を発揮する。





 カッと目を見開き、フェアラートは迫り来る雷の中へ思い切り踏み込んだ。





 身体を焼くサンダーボルトの魔法を無視してドラゴンの懐まで距離を縮め、シンプルな突きを繰り出す。





 何の変哲も無いその突きは、しかし、そのランスに貫けぬモノ無しと言われたフリードリヒの研鑽と、クレアによって与えられた人ならざる膂力が合わさった究極の一撃。





 ソレは音速の壁を突き破って衝撃波を産み、ストーンドラゴンの巨体全てを、そのコアごとバラバラに吹き飛ばした。





 ミシミシと音を立てて軋む全身の筋肉を感じながら、暗黒騎士フェアラートはストーンドラゴンの残骸を一瞥してそっとランスをしまうのであった。


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