第68話 戦の結末

 度重なる奇襲攻撃により、行軍の速度は予定より大幅に遅れはしたモノの、フスティシア王国の騎士団は、その熟練の動きで無駄な犠牲を出さずに戦闘を乗り切り、ほぼ完璧な状態でドロア帝国の目前までたどり着いたのだった。





「破城槌の用意をしろ!」





 アルフレートの指示で、部下達が車輪の付いた木製の屋根のようなモノを運んでくる。中には天井から紐でつるされた大きな丸太が一本。





 破城槌と呼ばれる原始的な攻城兵器だ。





 コレを城門に密着させた状態で、紐につるされた丸太を後方に引き、鐘を突くような要領で思い切り城門にぶつけて破壊する。





 シンプルだが故に使い勝手が良い。





 上部に取り付けられた屋根は、槌の操作をする人間を敵の矢から保護する役割があり、安心して扉に専念できる仕組みとなっている。





 ドロア帝国の城門が目視できる距離まで近づいたその時、城壁の上から無数の弓兵が一斉に顔を出しその弓を構えた。





「ふふ、さて戦争を始めようか」





 それを見て不敵に笑ったアルフレートは腰の聖剣を引き抜き、その切っ先を前方へ向けて大声を張り上げる。





「盾を構えて前進!」





 その命令に答え、一斉に盾を構える騎士達。





 王国の紋章が刻まれた盾が乱れなく一斉に構えられる様は、正面から見る弓兵にまるで突然壁が現れたかのような錯覚を覚えさせた。





 盾を進行方向斜め上に構え、最強の騎士団が進軍を開始する。





 一斉に飛来してきた矢の雨は、構えられた盾に阻まれて騎士の身体に届くことは無かった。





 しかし帝国兵もそのまま黙っている訳では無い。矢が聞かないのがわかると次は投石機による投石が始まる。





 放たれた大きな石による攻撃を防ぎきる事は流石の騎士といえども不可能で、投石により潰される騎士も多数出てきた。





 だが騎士団は動じない。





 隣で仲間が潰されようが一切の動揺も見せず、隊列を崩すことも無く一定の速度で城門へと迫ってくる。





 その異様な姿はまるで感情を持たぬ死霊の軍勢と戦っているようで、城門の上に配置された兵達はぶるりとその身を震わせた。





 城門にたどり着いた騎士団達は破城槌の設置にかかる。





 そしてその少し後方には騎士団の弓兵部隊が隊列を組み直した。即ちこの部隊は投石などで破城槌の設置を邪魔する兵を地上から射抜くサポート役なのだ。





 城門前での攻防を少し離れた所から眺めながら、アルフレートは静かに頷いた。





 順調だ。





 この調子なら後数分で城門を破る事が可能だろう。この関門をクリア出来れば後は地上戦で負けることなど無い。





 そう思考している内に城門の破壊が成ったようだ。





 なだれ込む騎士達を見て勝利を確信したアルフレートは、我も参加せんと破られた城門の穴へ馬を走らせた。


























 騎士団の進軍を止めようとなだれ込んでくる帝国兵達。





 鳴り響く金属音と鼻を刺激する生臭い血の香り。





 そして行く手を阻むモノ全てを斬り捨てた騎士団たちは、ついに城の内部へ侵入する事に成功した。





 馬から下りて城を探索しながらアルフレートは妙な事に気がつく。





(おかしい・・・何故城の中に兵がいない?)





 恐ろしいほど静かだ。





 先ほどの騒がしい戦闘が嘘のよう・・・。





 アルフレートの眼が見開かれる。





 気がついたのだ。





 この奇妙な現状の正体に。





「不味いぞ! 早く撤退を・・・」





 そして





 城の各地に設置された爆弾が爆発した。



























 煌々と燃え上がる城を見上げながら、ドロア帝国皇帝ジョージ・フラギリス三世は複雑な思いを抱いていた。





 当然だ。





 圧倒的な戦力差を埋めるための策とはいえ、歴史ある自分の城が燃えているのを見るのは嫌なモノだった。





「陛下、かの最強の騎士は仕留めましたがまだ敵の残兵おりますのでそこは危険です。移動しましょう」





 そう言ったのはジョージの最も信頼する部下、騎士クリサリダ・ブーパ。この策を提案した張本人である。





「・・・そうだな悪いがクリサリダ、残兵の掃討は任せたぞ?」





「ハッ! お任せ下さい」





 いくら最強の騎士団とはいえ急にその長を失った動揺は大きいはず。クリサリダほどの男ならその隙をついて掃討する事は可能だろう。





 この場はクリサリダに任せて避難しようとしたジョージ、最後に燃える城をちらりと一瞥し・・・あり得ない光景を目にして口をあんぐりと開ける。





 その男は悠々と燃えさかる城の壁を破壊して、外に出てきた。





 史上最強の騎士アルフレート・ベルフェクト・ビルドゥ。





 身体の各所がわずかに焦げ付いてはいるものの、あれだけの爆発の中、致命傷を負った様子は見られない。





 乙女と見まがうばかりの美しい顔を憤怒に染めて、最強の騎士は単機でこちらにゆっくりと歩いてきた。





「・・・驚いたよ。私が炎の聖剣使いで無ければ死んでいたところだ」





 そしてアルフレートは手にした聖剣の真名を解放する。





「燃え上がれ! ”沈まぬ太陽の剣”」





 刀身に深紅の炎が纏わりつく。





 それを大きく振り上げたアルフレートは、そのまま怒りに任せて聖剣を全力で振り下ろした。





 刀身から放たれた灼熱の炎が一瞬にしてその範囲を拡大し、ドロア帝国皇帝、ジョージ・フラギリス・三世の元へと襲い来る。





「・・・・・・嘘だろ?」





 その言葉を最後にジョージは深紅の炎に飲み込まれた。





 周囲にいた近衛兵達も巻き込まれて辺りは炎の地獄へと変わり果てる。





「へ、陛下ぁあああ!?」





 主を失ったクリサリダの絶叫が炎の地獄に響き渡った。















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