第43話 指揮官
召還されたナーガラージャ4体は、奇声を発しながら強固な守りを見せるエーヌ王国の城壁めがけて突き進んだ。
その機動力は他の追随を許さず、あっという間に城壁前にたどり着いたナーガラージャは何とそのままの勢いで城壁を走って昇り始める。
度肝を抜かれた王国兵だが、すぐに壁を昇るナーガラージャを打ち落とさんと矢を射る。放たれた矢は、しかし身体に届く前に六本の腕にそれぞれ握られた剣によって打ち落とされた。
城壁を昇り終え、弓兵に躍りかかったナーガラージャ達。
その姿はすぐ見えなくなり、しばらくして強固に閉ざされた城門は内側からゆっくりと開かれたのだった。
それを待っていた他の魔物達は我先にと門の中へ押し入る。それはまさに地獄絵図であった。一切の抵抗を許さず蹂躙する。そこに慈悲など無く、まさに魔王の所行である。
「・・・しかしアンタ、ナーガラージャを召還できるんだな。制限とか無いのかい?」
目の前の戦場を諦めたような眼で見下ろしながら速見は尋ねる。もし先ほどのナーガラージャを無尽蔵に召還できるのならそれは恐るべき事だ。
「ふむ、制限らしい制限は無いな。強いて言えば体力を消耗するくらいか。・・・妾は召還士だ。直接的な戦闘力は低いが体力の続く限り手下を召還する事ができる。まあ、数の暴力と言ったところかな」
数の暴力。
個として最強の力を持っていた魔王カプリコーンとは全く逆のアプローチだ。そしてその力は使い方によって恐ろしいほどの被害を人間社会にもたらすだろう。
下手したら、この魔王だけで人間という種族が滅んでしまうほどに・・・。
「しかし以外に時間が掛かっているな。何か人間どもが抵抗をしているのだろうか?」
ヴァルゴが呟いた言葉に速見は首をひねる。
情報ではこの国に腕利きの兵はいない。国の最高戦力は勇者と供に魔神を倒す旅に出ている筈だ。
(・・・しょうがない、少し状況を見てやるか)
魔王サジタリウスの魔眼を発動。
紅く染まった右目が分厚い城壁を透過して戦況を把握する。
「・・・ほう、これは」
◇
「隊列を組めい! この通路は狭い、一気に攻められる数には限りがある! 来た魔物を一体一体確実に処理するのだ」
城へと続く通路に陣取った騎士団。
その長とおぼしき男が部下達に的確に指示を飛ばしていた。
この絶望的な状況。
しかし彼らは自らの指揮官を信じ、この戦いで命を落とそうとソレが祖国のためになるならばと決死の覚悟で戦場に赴いている。
一部の隙も無い堅実な隊列。
前列には大盾を持った兵でラインを作り、盾の隙間からは長槍が顔を覗かせる。少し後方の高台には弓兵部隊が迫り来る魔物を遠距離から狙撃していた。
個々の力、そして数すら魔物が上。
しかし現状、こうして魔物側が攻めあぐねている理由は指揮官の有無の差だ。現場で直接戦場を操る指揮官の存在が、力で劣る人間を魔物と同等に戦える戦士へと昇華させたのだ。
このまま城への通路を守り通す。そんな気概を漲らせる騎士団へ飛来する、粒ほどの青白く光る物体が一つ。
音も立てず真っ直ぐに飛んできたソレは、騎士団を指揮していた男の額に打ち込まれその命の炎をいとも簡単に吹き消した。
◇
「・・・お見事。一発で仕留めたようだな速見殿」
その強面に驚きの表情を浮かべて速見を賞賛する魔王ヴァルゴ。速見はライフル銃の姿をした”無銘”の構えを解き、大きく息を吐き出した。
通常のライフルでは不可能な城壁を貫通しての狙撃。その非常識な一撃をこの”無銘”は可能にする。
まあ、分厚い城壁を透過して視認できる魔王サジタリウスの右目があってこそなのだが。
「ぶっつけ本番だったが上手くいってよかった。・・・これで指揮官はいない、とっととこの戦を終わらせよう」
速見の提案にヴァルゴはニヤリと笑う。
「もちろんだとも、何そう長くは待たせんさ」
そこから先は一方的な蹂躙だった。
指揮官を失った騎士団は隊列を維持することが出来ずあっけなく崩壊。魔物達は城へ攻め込むとあっという間に城内の兵士を皆殺しにした。
「さて、今日からここが妾の城だ」
血に濡れた王座に座る魔王ヴァルゴ。
その姿は威風堂々。魔王を関する者にふさわしい迫力を持っていた。
◇
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