第23話 実力の差

「え? 私が勇者様のパーティに参加・・・ですか?」





 突然の申し出に戸惑ったシャルロッテ。





 ショウはそんな彼女にこの旅の重要さを力説した。





「うん、俺たちには君の力が必要なんだよ。今俺たちは王命で世界の崩壊をもくろむ魔神を討伐する為の旅に出ていてね、強い仲間が必要なんだ。俺たちのパーティは出来たばっかりで魔法使いがまだ居ないんだけど、さっきの君の魔法を見て確信したね。この出会いは運命だって」





 そして右手を差し出しながら爽やかな笑みを浮かべる。





「さあシャルロッテ。一緒に世界を救おう」





 シャルロッテは助けを求めるように、ショウの隣に立っているギルドマスターの方へ視線を送った。





 その視線に気がついたギルドマスターは、大きくため息をついてからぼりぼりと白髪交じりの髪を掻いて話し出す。





「お前にその意思があれば勇者のパーティに参入する事は可能だ。ギルドの決まりとしてあまりにもランクの離れすぎているモノ同士でパーティは組めないが、先ほどの魔法を見る限りお前はAランクに昇格させてもよさそうだしな」





 それを聞いたシャルロッテは恐る恐るマルクの方を向いた。





 誰よりも英雄となることを夢見ていたマルク。彼を差し置いて自分が高ランクの冒険者になってしまったら悲しむのでは無いかと思ったのだ。





 しかし目が合ったマルクは、ニコリと微笑むとシャルロッテの肩に手を置いた。





「なんて顔してんだよシャル。よかったじゃねないか。Aランク昇格おめでとう。・・・世界を救うためにシャルの力が必要なら、俺なんかに遠慮してないでパーティに参加したらいい・・・俺たちは英雄になるために頑張ってきたんだろ? なら行かない手はないさ。・・・でもな」





 そしてマルクはショウに向き直ると深々と頭を下げた。





「勇者さん・・・俺は世界を救うためだって言うならシャルがアナタのパーティに入る事に賛成です。もちろん彼女の意思があってこそですが。・・・なんですが一つだけお願いしてもいいでしょうか?」





「なにかな? 言ってみて」





 ショウに促されマルクは言葉を続ける





「俺にもパーティに入るテストをしてくれませんか? なんだかんだシャルとは小さい頃からの付き合いです・・・何もせずに別れるのは嫌なんですよ」
































 緊張した面持ちでショートソードを握りしめるマルク。その目前には燃えるような赤毛の女騎士、アンネ・アムレットが余裕の表情で立っていた。





「来い少年。どんなやり方でも構わない、私に一太刀入れる事が出来たら合格だ」





 そう言うアンネの手には剣が握られていない。そして腰のベルトに差した剣を抜く気も無いようだ。





 流石にDランクの冒険者とSランク冒険者である彼女がまともに打ち合ったら勝てる筈も無く、ハンデとして素手で相手をするつもりなのだ。





 確実に舐められている。





 だがそれだけ実力に差があるのも事実だ。





 マルクは唇を強く噛みしめた。





 悔しかった。そして実力の無い自分が情けなかったのだ。





 口の中に血の味が広がる。供に歩んできた幼なじみのシャルロッテは念願の高ランク冒険者へと仲間入りを果たした。





 それなのに自分はどうだ?





 父のように慕っていたハヤミを切り捨て、死ぬ気でがむしゃらに努力した結果がこれなのか? バジリスクにはいいようにやられ、幼なじみに命を救われた凡人・・・それがマルクだった。





(・・・いや、このままでは終わらない)





 その為のこのテストだ。





 自分を変える為の最後のチャンスだと思い、死力を尽くさなくてはならない。





「”フォース” ”アーマー”」





 マルクは自分の使える二種類の身体強化魔法を発動して自身を強化した。魔法使いで無いマルクの魔法の発動は遅く、本来ならその隙を突かれてもおかしくないのだが相対したアンネは何も動かずにこっちを見ている。





「行きます!!」





 関係ない。


 例え相手が棒立ちのままだろうとマルクは全力で叩きつぶすつもりだ。





 一人こんな所で置いて行かれる訳にはいかないのだ。これまで一緒に視線をくぐり抜けた仲間なのだから。





 身体強化の魔法で通常ではありえないスピードを出して距離を詰める。その勢いを乗せて右手のショートソードを突き出した。





 マルク渾身の一撃。





 しかしアンネはそのスピードの乗った一撃を退屈そうに見つめると、刃の腹を素手で払いのけた。





 素早い一撃を的確に見抜くその動体視力。





 何より身体強化をしたマルクの攻撃を、何の強化も掛かっていないアンネがたやすく払ったという事実。





 その衝撃は剣を持った右手に伝わり、ビリビリとしたしびれでマルクはショートソードを取り落としてしまった。





「疾っ!」





 剣は落ちたが勢いは止まらず突っ込んでくるマルクに、アンネは鋭く息を吐き出すとその鍛えられた足でカウンター気味に蹴りを突き出した。





 ぐしゃりと鼻のつぶれる音と供にマルクは宙で一回転して地に落ちる。





 肺から息が全て吐き出され、鼻からは血がだらだらと流れている。





 呼吸ができない。





 意識がもうろうとする中、マルクはアンネの冷たい声を聞いた。





「ふん、身体強化の魔法か。・・・くだらないな。お前はその魔法を身につける為にどれだけの時間を要した? その時間で剣の鍛錬を積めばより強くなれるとは思わなかったのか? 魔法も剣もなどと両方器用に極められるのは極一部の天才だけだ」





 その言葉には覇気があった。





 怒っているのだ。





 ただ愚直に剣の道を極めた彼女だからこそ、才能も無いのに剣も魔法もと、どっちつかずに学ぼうとしたマルクが滑稽に見えたのだろう。





「お前はより強くなるために魔法を学ぼうとしたのだろうが、それはつまり剣の道を舐めたという事にならない。剣だけではこれ以上強くなれないから魔法に頼る。それは剣を、そして人間の強さを舐めている事に他ならない」





 そしてアンネはくるりと振り返ると、後ろで見ていたシャルロッテに声をかけた。





「シャルロッテ、私に何か魔法を打ってみろ」





「え? ・・・でも・・・」





 戸惑うシャルロッテにアンネは怒気を込めた視線で答える。





「いいから! 早く!」





 その気迫に泣きそうになりながら助けを求めるようにショウに視線を向けるが、ショウは困ったような笑顔で肩をすくめるばかりで彼女を止めようとはしなかった。





 シャルロッテは震える手で木の杖を持ち上げ、体内の魔力を練り上げた。





(どうしよう・・・弱い魔法じゃまた怒られるかもしれないし。かといって最上位魔法じゃ間違ったらアンネさんが死んじゃうかも・・・)





 彼女は迷ったあげく、最上位では無いがそこそこの威力を誇る魔法を選択した。





「”ファイアボール”」





 放たれた魔法の火球をアンネは鋭い眼光で見据える。





 そしてその魔法が自身の間合いに入った瞬間腰の剣を抜き、流れるような動きでファイアボールを両断した。





 マルクは地に伏せながらその様子を呆然と見つめる。





(ありえない・・・剣で魔法を斬るなんて・・・)





 抜刀した剣を鞘に収めたアンネはマルクに向き直る。





「見たか? これが剣だ。この道は決して魔法に劣るモノではないし、お前ごときが見くびるほど安いものでもない」





 事実だった。





 どうしようもなく彼女の言っていることは正しく。その正義は寸分の狂いも無くマルクの純粋な心をずたずたに引き裂くのだ。





 だけど認める訳にはいかなかった。





 誰がそう言おうと、マルクだけはそのクソッタレな真実を認めるわけにはいかなかった。





「あぁあああぁああ!!」





 ショートソードを拾い上げて立ち上がる。





 涙と鼻血とよだれでグチャグチャになった顔でマルクは叫んだ。





 叫んだ。





 そして両手で握りしめたショートソードを握りしめアンネにがむしゃらに突っ込んでいく。





「・・・救えないな。つくづく」





 繰り出された鋭い蹴りがマルクの顎にクリーンヒット。





 マルクの脳をを的確に揺らし、マルクは崩れ落ちた。





「マルク!!」





 駆け寄ろうとするシャルロッテを、横に控えていたギルドマスターが引き留める。





「離して下さいギルドマスター! マルクが・・・」





 懇願するシャルロッテにギルドマスターは疲れたような顔で首を横に振った。





「行ってどうなる? 慰めの言葉をかけるのか? いつか強くなると励ましてやるのか? ・・・やめておけ。この状況になることくらいマルクも承知の上でテストを申し出たんだ。今お前に慰められたら余計に惨めな思いをする事になる」





「・・・でも」





「駄目なんだよ。奴のプライドはもう十分ズタボロだ。これ以上いじめてやるな・・・最後に少しくらい格好つけさせてやってくれ」





 そして納得のいかないシャルロッテをつれてギルドマスターは退室した。それに続くように勇者一同も鍛錬場から出て行く。





 残されたのは地に転がった無様な冒険者が一人。





 マルクは震える手で地面を思い切り殴りつけた。





「・・・・・・ちくしょう」

















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