第17話 骨砕きのディアマンテ
薄暗いダンジョンの最奥。闇を切り裂くように、茜色の輝きを放つ剣線が無数に煌めいた。聖剣による無慈悲な連続攻撃を、ダンジョンの主”骨砕きのディアマンテ”は自慢の鱗ではじき返す。
「無駄無駄ぁ!! いくら速かろうとそんな弱い攻撃じゃあ、このディアマンテ様に傷一つつけられねえよ」
”骨砕きのディアマンテ”
ギルドにより危険度Sランクの指定を受けているこの魔物は、二足歩行のトカゲのような姿をしており、体調は約二メートル。鋭いかぎ爪にギザギザの牙。何よりやっかいなのが全身を覆った光沢を放つ鱗だ。
この鱗はありえないほどに堅く、鉄や鋼の武器を跳ね返し魔法を遮断する。一説によると、最硬金属のアダマンタイトで作られた武器でさえ通さないらしい。
「くそっ!! 突破口が見えないな」
相対するは勇者ショウ。
国王より賜りし聖剣を構えるが、その聖なる一撃ですらディアマンテの鱗は通さなかったのだ。
「勇者様、幸いこの魔物は動きがあまり速くありません。ここは一度引いて体勢を立て直した方が得策かと」
お供である赤毛の女騎士アンネ・アムレットが提案するが、ショウは首を横に振った。
「駄目だ。俺たちが引いている間に人質に危害が加えられる可能性がある」
そう、今回はディアマンテに攫われた聖女を助けるためにここまで来たのだ。ここで引き下がっては聖女の身に危害が及ぶ可能性が高い。
(でもどうすれば・・・俺にはこの聖剣以外に攻撃手段がない)
打つ手が無かった。
力が
力が欲しい。
この悪を倒せる力が。
皆を守る為の力が・・・
『力が欲しいのですね?』
声が聞こえる
『ああ勇者よ。アナタは力を望むのですね』
『戦うために』
『守るために』
聞いていると心が安らぐような柔らかな女性の声。
(ああ、俺は力が欲しい!!)
『アナタの強い心が私を呼び覚ましました』
『アナタ一人では勝てない敵も』
『私たち二人でなら倒せる筈です』
『さあ解放しなさい』
『我が・・・名は』
「”暁の剣”(アルバ・カローレ)」
聖剣の真名を叫ぶ。
その瞬間、今まで押さえられていた力が吹き出したように聖剣の美しい刀身がその輝きを大きく増した。
赤く
より紅く
なによりも深く
深紅に染まったその刀身はまるで咆哮をあげるように大きく振動する。
「へっ! 無駄だぁ! どんな攻撃だってこのディアマンテ様には届かねえよ!」
そう叫んで鋭い爪を振りかざし、ディアマンテはショウへめがけて突っ込んできた。その巨体から繰り出される必殺の一撃がショウの体に触れる寸前、聖剣を握ったその両手がブレた。
目で追えぬほど高速で振り抜かれた聖剣の一撃は、今までの苦戦が嘘だったかのようにあっさりとディアマンテの鱗を切り裂き、その右手を切断する。
「ば、馬鹿な!?」
驚愕に目を見開くディアマンテ。
ショウはその命の終わりをつげる死に神のようにゆっくりと歩を進め、光り輝く聖剣を振り上げる。
「さよならディアマンテ」
振り下ろされた死に神の刃は正確にディアマンテの太い首を断ち切り、その命の灯火を吹き消した。
「助けて頂きありがとうございます勇者様」
教会から攫われたという聖女は地下にある牢屋にとらわれていた。ショウは聖剣で牢屋を破壊して聖女を救出する。
牢から解き放たれた聖女はショウにふわりと笑いかけた。
薄い色の金髪。少したれた目の瞳の中は青く澄んでいる。汚れを知らぬ白い修道服に身を包んだそのはかない少女にショウはしばし目を奪われた。
ショウのその様子に面白くない顔をしたアンネに肘でつつかれ、ショウはハッと我にかえる。少女の美しさにしばし呆然としていた自分に気がつき顔を赤くした。
「い、いえ。勇者として当然のことです」
少しどもりながら答えたショウは、少女に手を貸して立ち上がらせる。
「改めてありがとうございます。わたくしはカテリーナ。カテリーナ・フェデーレと申します。巷では聖女と呼ばれていますのよ」
そうして笑ったカテリーナの顔が美しすぎて、ショウはまた顔を赤くして目を背けてしまうのであった。
◇
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