異世界アルバイト生活
双葉鳴🐟
一章:死の淵に立たされし者達
第1話 追放
通学途中、突然の眠気に襲われ目を覚ませば俺は見知らぬ部屋で目を覚ました。周囲には俺と同じような状況に陥る、見た目から察するに学生が60人程。
そこはまるでアニメや小説で見たことあるような中世の装い。広大な空間に重苦しい雰囲気。
周囲には武器を持ち、こちらを威圧してくる鎧騎士。そう、それはまさしく異世界召喚と呼ばれるやつだった。
ざわめく俺たちを制するように肥え太ったおっさんが声を上げる。
「静粛に! 国王の御前であらせられる。控えよ」
一同が一瞬で黙り込み、中央で偉そうにこちらを見下ろすおっさんが語りはじめた。
話を掻い摘んで並べるならば、俺たちは歓迎されているようだった。そして気になったのが『異界渡りの民』と呼ばれる言葉。
この国では頻繁に異界渡りの民から脅威を退けて貰ってきた伝承があるらしい。
つまり俺たちは窮地を退ける為だけにこの国、グランツ王国とやらに呼ばれたようだった。
その上で迎え入れる準備と称して各自の部屋を与えられ、一晩を過ごす。
みんながみんな納得がいってない顔をしている。
そりゃそうだ。俺だって納得行ってない。
ただ同時に興奮している奴もいた。アニメと現実を履き違えたオタクの類だろう。
自分が主人公になれるんだと、そんな声が聞こえた。
翌日。
案の定というか、お約束というか。
俺たちには固有スキルと呼ばれるものが与えられていた。
王様達はそのスキルの公表を求めていた。つまりは使えるか使えないかの選別の始まりである。
で、
「悪いが君たちとはここまでだ。だが見ず知らずの場所で苦労も多いことだろう。これは手切金だよ。せいぜい遠い地で僕達の活躍を見守っていてくれたまえ」
俺とあと二人の男子の前には高慢ちきな男が一人。顔を見ればわかる。当たりのスキルを得たのだろう。勝ち誇った余裕な態度のまま、俺たちを見下していた。
金貨が約10枚入った袋を突きつけ、それを受け取ると俺たちは着の身着のままで王宮から追い出されたって訳。
要は無能扱いをされた上でお払い箱だよ。
そんなこったろうとおもってたぜ。
俺も最初自分のスキル見た時は「ないわー」って思ったもん。
「なんだよアイツ、感じ悪いなぁ」
「よせ、言うだけ無駄だって。あの勝ち誇った表情を見てみろよ。完全に俺たちを哀れんでるぜ?」
「くそっ、同じ環境なのにどうしてこうも差がついちまったんだ!」
「ある意味では追い出されて良かったかもよ?」
全員が思い思いの言葉を並べる。
自己紹介も特にしてないので誰が誰だかわからない。そこで取り敢えず追放されたもの同士で交友関係を築くべく自己紹介から始めることにした。
幸にして男三人。トラブルも少なそうだ。
「まずは自己紹介から。俺は栽場、栽場有樹ってんだ。固有スキルは『超健康』よろしくな!」
持ち前のポジティブ精神で、愚痴っていた二人に対して笑いかける。が、相手の反応は良くも悪くも侮蔑の色が含まれていた。
「超健康とか、確かに追い出されるわな!」
ワハハと笑い転げる坊主頭。その笑いぷりときたらそのニヤけた横っ面を叩いてやりたいと思うほどにムカつく。
「うっせーよ。人が気にしてる事をいちいち揚げ足取るな。それよりお前はどうなんだ?」
「聞いて驚くなよ?」
男は、溜めに溜めたあとこう言った。
「アイテムストレージだ!」
「うん? ストレージなら俺も持ってるぞ?」
「僕も」
そう、勿体ぶって言った固有スキルは『アイテムストレージ』。それは、異界渡りの民なら誰でも持ってて当たり前のものだった。
上限は人によってまちまちだが、坊主頭の男の上限はたったの1つ。しかもスキル化した事で本来持てるはずの荷物も持てずじまいときている。
ただしそのスキル、一つに括れば入れられるサイズは天井知らずだという困った扱いのものだった。
使えそうで使えない。それがこの場所に送り込まれた理由だろう。
もっと他の奴ら見たく、ものすごい魔法だかが使えればワンチャンあったろうに。
「そりゃまた……残念だったな」
俺は精一杯の哀れみの視線を送ってやった。
お前も俺とどっこいどっこいじゃねーか。
「くっそー、こんな筈じゃ。なんで俺はこんなハズレスキルを引いちまったんだよぉ」
「で、お前の名前は?」
「お前……この流れで聞くのか?」
坊主頭の男は空気読めよと真顔で訴えてくる。
「聞かなきゃ話が進まんからな」
「ったく、しょうがねーな。耳をかっぽじってよーく聞きやがれ!」
ややキレ気味に、坊主頭の男が自己紹介を始める。名は持主レオ。なかなかに漢気のあるキラキラネームだな。レオときたか。
「よろしくな、レオ」
「おうよ。こっちこそよろしく頼むわ。同じハズレ者同士、仲良くしようぜ!」
やや自嘲気味にぼやきつつも握手の手を差し出してくる。嫌なやつだと思ったけど、話せばそこまで悪い奴でもなさそうだ。
ただこいつも異世界召喚とやらに憧れてたクチらしく、主人公に慣れなかった鬱憤の吐き出し場所が欲しかったみたいだ。
それを俺に当られてもいい迷惑だが……
「じゃあ最後に僕かな? 僕は天城洋。固有スキルはウェザーリポート。要するに天気予報が分かるんだ。視界の片隅に、この街の現在地と、湿度、それと花粉警報とか大雨警報がわかるよ。内容は元の世界のニュースで流れてるあれとおんなじ。ま、よろしく頼むよ」
最後のやつもなんともまあ香ばしい能力者だった。天気予報て。まぁ超健康の俺に言われたくはないだろうが。
「天気予報か。それはそれで便利だな」
「それって雨を降らせたりする事とかはできないのか?」
「出来たらここに居ないと思わない? つまりはそういう事だよ」
「だよなぁ」
「何はともあれ、手持ちの金は大切に使おうぜ!」
「おう!」
俺、レオ、洋の三人は早速空腹を満たしにそれっぽい喫茶に入り、各々注文した。
なんだかんだ言って異世界の料理と言うものに興味は尽きないわけで。
意外と美味しくいただきながら料金を支払って店を出る。
「いやー、うまかったなぁ、異世界メシ!」
レオの晴れ晴れとした声に、俺は少し考えるようにしながら声を絞り出す。
「なぁ?」
「なんだ?」
「栽場君の言いたいこと、僕もなんとなくだけどわかるよ」
洋は同意してくれたがレオはまだよく分かっていないようだった。
「確かにメシは美味かった」
「だろ?」
「でも値段おかしくね?」
「それ僕も思った。なんでパスタを食べて支払いは金貨なのかってね。あれって結構上の方の金額だよね? ここじゃまるで日常的に使われてるチップみたいに使われてたよ」
そこなんだ。俺たちは確かに手切れ金として結構な大金である金貨を各々10枚いただいた。
しかしさっきの喫茶店で金貨を1枚から2枚支払っている。ちなみに食べたのは軽食もいいところ。
端的に言ってこの手切れ金、少なすぎねぇ? と思うところなのだ。
周囲にはファンタジーな住人と、魔法チックなアイテムの数々。もちろん支払いは金貨。
とてもじゃないが手持ちで支払える額ではない。
明らかに住む世界が違うと言わんばかりの周囲との差に耐えきれず、俺たちはそれらをガン無視して煌びやかな世界に別れを告げた。
歩く事十数分。周囲の人々の装いに少し貧相な感じが出てくる。
そういえば町の作りもどこか小汚い。
どこかで区切りがついていたのだろうか?
「なんか町の外観っつーか雰囲気? 変わった?」
「っぽいな」
「さっきの場所は貴族街で、ここは城下町らしいよ?」
訳知り顔で疑問符を浮かべる俺たちに洋が声をかけてくる。
「へー、ウェザーリポートってそう言うのも分かるのな」
「まぁね。天気予報ってまずは地名がわかることが前提なところあるでしょ? だから今いる場所の天気予報を確認するとここがどこだかが見えるんだ」
「便利じゃん」
「それぐらいしかできないけどね」
「でもなんもわかんねーより全然気分が楽だわ。サンキューな、洋」
俺たちは城下町を練り歩きながら、やけに武装した連中とすれ違うことに気づいた。
会話を盗み聞きしてみると、『冒険者ギルド』と言うワードが聞こえた。
こう言うところでレオのオタク知識が生きてくる。なんでもこの手の異世界召喚では冒険者ギルドに登録しておくのがお決まりのパターンらしい。
身分証明書も何もない俺たちの身元保証人をギルド側が受け持ってくれるらしい。
代わりにギルドや町の住人からのお手伝いをする事で恩返しをするそうだ。
それって要はアルバイトみたいなもんだよな?
レオは冒険者になる気満々だったみたいだけど、俺と洋はどこか不安が募っている。
そもそも俺たちは固有スキルからしてハズレ。
レオの語る定番のアニメは超優遇されての異世界スタートという事なので色々と心配ごとが尽きないのだ。
前を歩く能天気なレオについていきながら、俺たちはある程度の覚悟を決めてから道ゆく人に聞いたその場所、『グランツ王国冒険者ギルド・城下町支部』を尋ねた。
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