第4話 コンビニまで全力疾走4分(ただし衣服は着用しないものとする
そういえば4話まできといてなんだけど、大切なことを忘れていた。
そう、俺の自己紹介だ。
ここらで一つぶちかまして差し上げようか。え? 野郎の自己紹介なんていらない? 確かに。だったら……。
ふぇぇ……ボク男の子だよぉ……。
これでいいだろ?
俺の名前は一ノ瀬辰巳。
それなりに普通の高校を卒業し、それなりに普通の大学に入った、どこにでもいる普通の大学生だ。
家族構成は今年高校に入った妹が1人、女海賊みたいな性格の母親が1人、行方不明の父親(職業冒険家、最後に『群馬に行く』と言ったきり、連絡はない)、猫のシュレちゃんが1匹(3代目)の5人家族だ。
現在俺はは親元を離れ、大学近くのアパートで一人暮らしをしている。
つい最近一人暮らしでなく、先住者らしき幽霊がいたのでもーびっくり。
容姿は……普通だと思う(でもそれは世間一般的な感性であって、俺の中では俺≧コンスタンティン出てた頃のキアヌリーブスだと思ってる)
普通宇宙の普通星の普通国家に生まれたどこにでもいる普通に俺だが……ただ唯一普通と違う部分を上げるとするならば、年中首に巻いているマフラーだろうか。
大学進学祝いに妹から貰ったものだが……これ外れねーの。
絶対呪われてる。
近くに教会もないし、近所の雑貨屋に解呪石も売ってないんで、取りあえず諦めている。
趣味はサブカルチャーを少々、リアルタイムで見る深夜アニメはたまらんでゲソ!
嫌いな食べ物は特にない。好きな食べ物は鯖。
彼女いない暦=年齢、つってもほら、別にモテないわけじゃなくてさ、女性と話す機会が無かったていうか、女子が俺の姿を補足するなり『あ、一ノ瀬だ。あの顔見て。あれ絶対私達がチョコくれるとか勘違いしてる顔よ。ふふっ、あげるわけないじゃん、バーカ。泥でも食ってろ』ウワァァァァァァ!
……ふぅ。
ま、俺の自己紹介はこんなもんか。
あ、言っとくけど、俺の個人情報とか漏洩したらマジでキレっから。
俺キレっとマジみさかいないぜ?
具体的にはお前ん家の犬『何か常に口からバターの匂いがする』ってご近所さんに吹聴する奥義お見舞いすっから。
そこんとこヨロシク!
しかし個人情報ってのはどこから漏れるか分からんから怖い。
情報化社会の弊害ってやつだな。
この間も全く知らない番号から『しまくろファッションです。この度そちらの近くに店舗を新しく展開しまして、近い内に説明会を開こうと思っています。無料で手に入るプレゼントも用意してますので是非、いらして下さいね!』とか超カワイイ姉ちゃんの声で詐欺確定な電話があったわけ。
しまくろファッションとやら、一つ言っておくぞ……。
俺の部屋にある服――妹が買ってきた服だから!
自慢じゃないけど自分で買いに行ったこととかねーから!
もうちょっとリサーチしてから声かけろよ。
※※※
「……ぐすっ、すんっ」
大家さんが俺の鳩尾辺りに顔を埋めて、鼻を啜っている。
やれやれ、やっと泣き止んだか。
さっきまでわんわん泣き喚いて大変だった。
周囲を見渡すとどこから沸いたか、マダムの軍勢(恐らくこの地域に棲んでる全マダムが集結していると見た)が遠くから俺達のことをOA(オバサンアクション。手首のスナップを利かせ、こちらを煽ってくる行動。主に『ヤァネェ』なんて言葉と共に発動される)しながらジッと見つめている。
俺は覇気の伴った魔眼を発動し、マダム達を追い払おうとしたが、マダム達のレベルはざっと俺の8倍ほどであり、完全にディスペル(無効化)された。流石はマダム。スーパーで『豚』と呼ばれ半額弁当を荒らしていることはある。
俺が改めてマダム達に対し戦慄を覚えていると、完全に泣き止んだ大家さんが、ゆるゆると俺の鳩尾から顔を離した。
そしてペテペテと数歩下がり、はにかむ。
「……てへへ。は、恥ずかしいところを見せちゃいました……。この歳になってあんなに泣くのは久しぶりです」
真っ赤に充血した目で「そ、それにしても女の子を泣き止ませるのは上手ですね? 今までに何人もの女の子を泣かせてきたんじゃないですか?」とか恥ずかしさを隠すようにからかってくる大家さん。
そんなことよりさっきの大家さんの言葉『は、恥ずかしいところを見せちゃいましたね』って言葉、凄くいいと思う。
今は『見せちゃいましたね』だけど、いるか『わ、私の恥ずかしい所……み、見てください……(裾を自分で持ち上げつつ)』って言葉を聞く方向で行こう。もちろん俺の部屋でな。
大家さんは照れ顔から、真面目な表情に切り替え、ペコリと頭を下げてきた。
「……すいませんでした。今まで黙ってて。本当に……ごめんなさい」
「いえ、俺もちょっと言い方が悪かったって言うか……大家さんを追い詰める様な言い方になってしまって、反省してます」
してねーけどな。
それどころか大家さんの泣き顔見れてラッキーとか思ってるし。
おっといけねえ。これ以上いらんことを考えると俺の性癖が『泣き顔フェチ』であることがバレてしまうな!
え、泣き顔のどこがいいかって? ……零れ落ちた涙が鼻筋を通って首までたどり着く光景とかマジ幻想的じゃん。わざわざ海外のナイアガラの滝なんか見に行くより、ずっと綺麗だしコスパもいい。
「じゃあ、聞かせて下さい。あの部屋のこと」
「はい……で、でも」
大家さんが上目遣いでチラリと俺を見上げてくる。
何を考えているのかはすぐに分かった。
『あの部屋の秘密を知っても……私のこと好きでいてくれる?』
とかそんな感じだろう(童貞補正あり)
「別に聞いたから『ハイ、じゃあ出て行きますね』なんて言わないですから。そもそもこんなに安い部屋他にないですし」
あと大家さんカワイイし。隣人がまるで死んでるかの様に静かだし。いつも飴くれる小学生住んでるし(全く、最高な小学生だぜ!)。まあ、マダムのボス的存在がアパートの目と鼻の先に住んでるのがネックだな。それ以外はよし。
できれば近くにT○UTAYAの一軒は欲しかったなってのが本音だけど。
そしたらそこのAVコーナー商品を全網羅して『禁書目録』なんて二つ名で恐れられるのであった~一ノ瀬辰巳パーフェクトガイドブック P32~より抜粋。
「それを聞いて安心しました。一ノ瀬さんが出て行ったら……私とっても寂しいですから」
「な、なんちゃって、えへへ」なんて照れながら上の台詞をおっしゃる大家さん。
……え、嘘、マジで?
これってちょっと俺に惚れてる系じゃねーの? い、いやそんなのありえるはずがない……でももしかして……もしかしてワンチャンあるかも? たまたま大家さんが俺みたいな男がタイプな趣味の悪い女の子だったとしたら……ありえる。
ヤダどうしよう……。好かれてるかもしれないって思ったら、何かますます大家さんが可愛く見えてきた……。
家事万能で性格もよくてナイスバディ(人によっては)な女の子か……俺この子と結婚するわ。大家さんすきー!
はいこれにて一ノ瀬辰巳結婚RTAクリアです。多分これが一番早いと思います。
「このアパートでゲームの相手してくれるの一ノ瀬さんだけですし。いなくなったらすっごく困ります」
まあ、分かってたけどな!
いや、本当に。この世で俺にLOVE光線向けてくる女の子なんていやしねえのは、この世界に生れ落ちた時点で分かってたことだし。
だから痛くも痒くもないね。
ただちょっと……胸の辺りがチクンとする、それだけさ。
そうだ、この気持ちを歌にしよう……世界中の俺と同じ様な人間に送る歌を……題名は『童貞っていいな』で。そしてどっかの動画辺りで初音ミクに歌わせたこの歌が大ヒットするわけ。メディアでも取り扱われ、俺ん所にも『あの素晴らしい歌の作曲者』みたいな煽りでテレビカメラが来るわけ。
え、あの曲を作ったきっかけですか? ……ええ、昔僕が怪我をして入院した時にある一人の女の子と出会ったのが始まりですね……。彼女の病は重く、しかし彼女はそれを感じさせない明るさで……。え? 事実と違う? いいんだよ、みんな美談が大好きなんだから、捏造しても。
俺は試写会で大爆笑をお見舞いする予定のギャグ(今のところ、俺の名前の辰巳を『タッチミー』って感じで捻るギャグを土台としている)を考えつつ『で、俺の部屋のことなんスけど』という顔で大家さんを見た。
大家さんは少し躊躇している様子で、それを振り切るかのようにぷるぷる首を振り、話し始めた。
「……はい。あの部屋、104号室にその……幽霊、さんが出始めたのは4年ほど前からです」
そうなのか。
てっきり何十年も前からあの部屋に住み着いているとばっかり。
ちなみに大家さんは俺と同じく、全く霊感がないようで、今まであの部屋で幽霊自体を見たことはないらしい。
つーか幽霊さんって。
幽霊にもさんを付ける、そういう所すごい大家さんっぽいけさぁ……。
自分よりも明らかにロリ(年下)にさん付けるってのはねぇ……いや大家さんも同じロリではあるけど。まあ同じロリでも俺にとって、大家さんは裸を見たくなるタイプのロリだけど、あの幽霊の裸は……まぁ、あれもあれでいい物だな。
つまるところロリは正義ってことだな!(真理)
「今年に入ってからも、突然入居者の人が出て行って。それからすぐに新しい人が越して来たんですが、その人も三日と経たずに出て行って……それが何回も続いていたんです」
三日、か。
随分と早い。三日坊主ならぬ、三日退居ってやつだな。
「それでその内、『何かが出る』って噂が流れ始めて……あの部屋に越してくる人が誰もいなくなりました。幸い他の部屋の人達は噂とか気にしてないって言ってくれたんですけど。でもずっと部屋を空けておくと、噂が加速していくと思って、何とかしないとって考えて……」
「で、1万円ですか」
「……ハイ」
大家さんは申し訳なさそうに俯いた。
相当切羽詰っていたのだろう。アパートの一室がいつまでも空いている、ついでに妙な噂付きで。そんなことが広まったら、将来的に他の部屋にも越してくる人間がいなくなるだろう。
故に取りあえず誰かを住まわさなければならない、だからこその1万円か……。
そしてそのエサに釣り上げられた俺。
しかし分からないのが、『あんな幽霊』にビビッて出て行く奴らだ。
あんなチビっ子幽霊(カワイさ当社比3倍)に「う、うらめしや~」なんて迫られても、「かわい~い」なんてほのぼのとした気持ちになるだけだろ。
前住んでた奴らどんだけチキンなんだよ。いや、チキンなんて言ったらチキンにも失礼だな。
よし、この鮭野郎!
え、何で鮭? ああ、俺が遠足の時に妹が作ってくれた鮭弁当を一人で食ってたら、トンビがヒューって飛んできて、やっこさん俺の弁当箱から鮭のみを奪い飛んで行ったのよ。俺思わず『ヒューゥ』なんてセクシーな姉ちゃんに愛用する口笛をしちゃったの。その時悟ったね。鳥>魚ってな。
それ以来俺、水棲系のモン娘(モンスター娘)から鳥系のモンスター娘に乗り換えたわけ。ンー、ハーピーは正義!
「あの、その幽霊のことなんですけど」
「や、やっぱり怖かったですか!? だ、大丈夫です。今まで騙していたお詫びですっ、私が一ノ瀬さんのお部屋に寝泊りしてその幽霊から一ノ瀬さんを守りますっ」
そいつはグッドな提案だ。つーかそれでよくね?
同じ部屋で過ごす二人、その距離は様々なイベント(主に風呂トイレでの遭遇)を経て接近していく。
そして結ばれる二人。
後はアパートという閉じられた世界の中で蜜の様な甘くドロドロした日々を過ごしていく……。
『大家さん。ジッとしてて下さい。今ティッシュで拭きますから』
『もぅ……いつまで大家さんって呼ぶ気なんですか? こ、こんな事までしておいて……』
『分かりましたよ。……大家。ハイこれで満足ですか? ……あっ、ちょっとそんな急にそこはまだ敏感(略』
……ふぅ。
「その幽霊のこと詳しく知りたいっていうか……今まであの部屋に住んでた人の話とか聞きたいんですけど」
「敵を知り、己を知れば何とやら、ですね!」
何言ってんだこの人。
何でちょっとドヤ顔なの?
いや、可愛いからいいんだけど。
「分かりました。今まであの部屋を使っていた人達、ですね。私も越していく前にちゃんと何があったのかは聞いておきましたから、大丈夫ですっ」
そうして大家さんは、俺の前にあの部屋を使っていた連中(鮭野郎)のことを語り始めた……。
※※※
~戦場帰りのニック(37)の場合~
ん? ああ、なんだ、またあの話を聞きたいのか?
はっ、あんたも物好きだな。いいぜ聞かせてやるさ、何度でもな。
俺がこのアパートに来た理由は知ってるな?
ああ、そうだ。あの戦場に生き残ったからだ。
あの硝煙と血の匂いが満ちた戦場。
俺はあそこで生き残った、生き残っちまった。
本来なら俺はあの戦場で死ぬ運命だった……マイクがいなけりゃな。
ああ、マイクはいい奴だった。
マイクの話すジョークはいつも俺たちを楽しませてくれた。
あのジョークはもう一生聞けねえ……一生な。
あの塹壕の中、俺とマイクは二人きりだった。
弾丸がすぐ側を跳ねる穴蔵、俺たちは気楽にもタバコを吹かしていた。
いつものことだって、ヘラヘラしながらな。
ただ、まあ、そうやってヘラヘラ過ごして来て、残ってるのが俺とマイクだけだった。
俺たちは分かってたんだ、次に死ぬのはどちらかだって。
俺は別に死んでもよかったよ、俺みたいなクズはどうせ戦場から離れても生き場所はねぇって。だがマイクには才能があった。生きる才能がな。こんな泥くせえ戦場以外でも立派に生きていける才能が。だから俺はマイクに生き残って欲しかったんだ。
でもマイクは死んだ。
俺を庇って死んだ。俺みたいなクズをな。
それから俺は生き残ってこの国にやってきた。
何のことはない、マイクが生前この国に来てみたいって言ってたからさ。
特に目的もなくこの街にやってきて、ただ安いってだけでこのアパートを借りた。
アパートを借りたその夜、俺は暗がりの中に何かを見た。
最初俺はそれがマイクの亡霊に見えた。
あまりにも不確かで、朧気だったからだ。
だが違った。
あれは、俺が見たあれは……死神だった。
血塗れで濁った瞳の女……死神だったんだ。
俺はすぐにそいつの目的が分かった。
やっぱりあの戦場で死ぬのは俺だった。
が、何の手違いか代わりにマイクの奴が連れていかれちまったんだ!
フ○ック!
俺は怒りに任せて懐のベレッタを死神に撃ち込んだ、全弾をくらわせてやったさ。
が、死神の奴ピンピンしてやがる。
生憎俺はビル・マーレイじゃない。
次の日、俺はそのアパートを出た。
当然生きる為さ。死神から逃げる、その為にな。
俺は生きる、マイクの代わりに。
アイツがしたかったことを全部俺がやるんだ。
死神になんて負けやしない。
話はこれで終わりさ。
さ、俺はそろそろここを離れるぜ?
そろそろ死神の奴に嗅ぎつかれるだろうからな。
次の目的地?
ああ、何だって言ってたかな……アキ、アキバハラ?
確かそんな地名だ。マイクが生前に行きたがってた場所でな。アキバハラでメイド喫茶にいってその流れでコスプレフーゾクでメイドコスしたネーチャンとシッポリだとかなんとか……。
それが終わったら……まあ、一度故郷に帰ってみるかな。
キャロラインにプロポーズの答えをもらってないからな。
じゃあな、酒美味かったぜ。
~クローズドサークル大好き五反田弘(45)~
……またあの話か?
もう私はあの件とは関係が無いと何度言えば分かるんだ!
ええい、もういい分かった!
これが最後だぞ?
そして何度も言うが、この話の出所が私であることは絶対に外部に漏らすな。
あの日、私はとても気分が悪かった。
ミステリー小説大好きオフなんてものに参加したのがそもそもの間違いだった。
どいつもこいつもミステリーが大好きだとほざいておきながら、何だ!
東野圭吾? アガサ? 乙一?
馬鹿馬鹿しい! 他にもっと読むべきものがあるだろうに!
特にあのゴスロリ服を着た変な小娘と来たら……この私を『自分が認めたものしか読まない狭量な人だね。そんなんで人生はつまらなくないのかい?』などと……!
私はその下らない集まりを早々に見限り、帰宅した。
そこそこ綺麗に掃除された廊下を通り、自分の部屋へ。
ふと、自分の部屋であるはずのそこが、どこか別の場所の様な気がした。
この感覚はどこかで感じたことがある。
そうだ。これは某有名ミステリーの舞台になった山荘へ泊まった時の感覚だ。
あの山荘には昔本当に殺人事件があり、小説はその話を元にしたと聞き、恐怖と好奇心が混ぜこぜになった、あの素晴らしくも寒気が走る……あの時の感覚だ。
なぜ私の部屋で……。
私はここで引き返すべきだった。
しかし愚かにも私は六畳間に何の心構えもなく入った。
そこにあったのは死体であった。
血まみれの少女の死体。
銀色の髪に血が染みこみ、不思議と綺麗に思えた。
少女に近づく。
小説の文章では伝わらない、濃密な『死』がそこにあった。
私は不謹慎にも、笑っていた。
死者を笑う、それは何と冒涜的な行為だっただろう。
しかし、その時の私は嬉しくてしかたがなかった。目の前で少女が死んでいる、そして私の部屋で。まるでミステリー小説のようだ。
その時、私は確かに『探偵』だった。
部屋は密室、現場にある痕跡、遺体に残されたメッセージ。
私は定石通りそれらを調べ、瞬く間に犯人を特定した。
密室であるこの部屋に入るためには、私が持っている鍵がいる。
現場に荒らされた形跡はなく、この部屋の住人もしくはそれらに近しい人間が怪しい。遺体の首には手の型……絞殺だ、手の大きさから推定して、一般的に男性か。
ふと、私は何気なく自分の手を見た。
手には無数の引っ掻き傷があった。首を絞めた犯人の手につく傷が。
犯人は私だった。
探偵の私は犯人でもあったのだ。
私は犯人を見つけた喜びと自分が犯人であったことの絶望をミキサーにかけた様な悲鳴をあげた。
気付けば私は包丁を持っていた。
そうか、遺体の血は殺害した後にこれで刺したのか、なるほど。
私は遺体を見た。
遺体は立ち上がり、こちらをジッと見つめていた。
血にまみれた美しい少女だ。
私が殺した美しい少女だった。
少女の口が動き、こう呟いた。
「い た か っ た よ」
私は逃げ出した。
そしてそのまま帰ることはなかった。
あれから時間が経ち、私は今も少女から逃げている。
本当にあれは私がしたのか、それともただの幻だったのか。
それを確認する術もなく、私は逃げている。
……。
これで終わりだ。
くれぐれも言っておくが、この話は……。
あ、ああ、ああああああああああ!
いる! そこに少女が! 私が殺した少女がいる!
い、いやだ!
ここはあの部屋なんだ!
こんな部屋になんていられない! 私は出て行く!
※※※
他にも『窓に! 窓に!』とか叫んで消息不明になった人やら、一緒に住んでた恋人に『ここは俺に任せてお前は逃げろ!』とか行ったきりやっぱり行方不明になった人の話が続いた。
その人たち今もリビング(生きてる)してるんでしょうねぇ。
話を聞いた俺の感想がそれだった。
つーか俺がいる104号室と話で聞いた連中の104号室って同じ部屋か?
平行世界かなんかじゃねーの?
登場人物がちょっと別人過ぎやしませんかね。
おばけ(舌っ足らずな声で)とAKUMA(デスボイス)くらい違うんすけど。
「俺の部屋にはとんだ化け物がいるようですな」
「大丈夫ですっ、私に任せてください! こう見えても私、幽霊とかには強いんですよっ」
バンバンと架空の銃を撃つジェスチャーをする大家さん。
それってゲームですよね。
現実に妄想持ち込むとか……ちょっとひく……。
そもそも幽霊とか銃きかなくね?
やっぱり幽霊に必要なのは神聖魔法でしょうが。俺、こう見えても中学生の時に作った魔導書まだ持ってて、たまに呪文の詠唱の練習とかしてるから……ヤレるぜ?
大家さんといかに効率よく幽霊をぶちのめすか談義をしていると、ちょっと洒落にならない時間になってしまったので「スイマセン。ちょっとアレ(講義)がコレ(遅刻)なんで……」とジェスチャー付きで話を中断する。
若干寂しそうな大家さんの笑顔と、手をヒラヒラと振られつつ「頑張って勉強してきてくださいね!」の声援を受け、俺は大学に向かうのだった。
アパートの門を出るとマダム達の『ヒューヒュー』って囃し立てる声がマジうぜぇって思った。
あと、マダム達の中に紛れていた小学生に貰った飴が超うめぇって思った。
そんな飴を食べられる俺って特別な存在なんだなぁって思った。
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