家賃1万円風呂共用幽霊付き駅まで縮地2回

宇宙ヒモ理論者

第1話 布団から食卓まで1歩

 布団の上に胡坐をかきながら、六畳ある自分の部屋をぐるりと見渡す。


 築30年の古参物件にしては、目に見えて気になる汚れや損傷はない。


 俺が越してくる前から、このアパートを管理している大家さんがこまめに掃除や修繕を行っていたのだろう。


 このアパートはいい――。


 風呂は共用だが、トイレは部屋にある。可愛い大家さんもいる。隣人もまるで死んでるみたいに静かで過ごしやすい。近所に安いスーパーもある。レンタルビデオ屋が徒歩10分圏内に2軒もある。今となっては珍しい個人でやってるゲームショップもある。


 何より大学に近い。


 ここは……いい物件だ。


 一ヶ月過ごしてきて、改めてそう感じる。


 端的に言って素晴らしい、自分にはもったいないほどの良物件。



 ――が、しかし。



 この部屋に越してきて一ヶ月、俺の周りで妙な出来事が起こり始めた。


 はっきりとは分からないが、何かが起こっている。それだけは確かだ。



 ついでに言うと、明らかに俺以外の何かしらの存在がこの部屋にいる様な気もする。


 その何かは気配も感じないし、姿を見たことも無い。


 ただ、何かがいる気がする。


 ずばり言おう。



 この部屋、幽霊いんじゃね?と。



 そもそも、だ。


 まずこの部屋の家賃を聞いたときにおかしいと思うべきだったのだろう。


 家賃1万円。


 くっきりぽっきり丁度1万円だ。1コインならぬ1ペーパー。


 幾らなんでも安すぎる。


 一般的な人間であったら、まず何かしらの陰謀やドッキリ、モニタリングをを怪しむところだが、残念ながらこの部屋に越してくる前の俺は一般的な人間ではなかった。


 正確に言うならば、一般的な人間が持つほどの財産を持っていなかったのだ。


 念願叶って大学に受かったのはいいものの、入学金、借金、その他もろもろを払い終わった時には、俺の手元には一枚のお札しか残っていなかった。わずか1万円。


 こうなれば闇金に手を出すしかねぇ、とダークサイドへと堕ちかかっていた俺は『痴漢が出ます!』と貼られた電柱に寄りかかり、ふと地面にこのアパートのチラシを見つけた。



『家賃1万円ポッキリ! 美少女大家もついてくるくる!』



 眼の前に蜘蛛の糸カンダタストリングが降りてきた。


 俺はそのチラシを見るやいなや、他の連中に先を越されてはならぬ、とそのアパートへ向かった。


 その時の俺の焦りっぷりたるや阿修羅をも凌駕し、他に糸に群がる連中がいたならコロニーに毒ガスを注入するレベルの外道行為を平気で行うであろう我武者羅ロードを驀進していた。


 幸い糸を奪い合うような相手はおらず、その日にアパートの104号室を契約した。


 ちなみに大家は想像以上の美少女であった。やったね。



 それから一ヶ月。

 平凡な大学生活を送っていた俺に降りかかる、摩訶不思議な出来事の数々。

 最初は勝手にテレビや部屋の明かりが消灯する、家具が揺れる、妙な物音がする、お茶を飲もうと思ったのに牛乳にすり替わってる、座ろうとした椅子が急に引かれる――そんな悪戯レベルの出来事だったが、今となっては……


 とにかく俺は不可解な現象に直面している。アンビリーバボーな不思議体験だ。


 つい先日現在俺が直面している妙事を踏まえて、大家さんに『この部屋――なんか出るんじゃないスカ? どうなんスカ? ええおい?』と問いただしたところ、



『え、えええっ? な、何を言ってるんですかっ? え、出る? 出るって何がですか? あ、もしかして私の体の一部分が出てるとか出てないとかそういう話ですかー? も、もうやだー、エッチなのはいけませんよ一ノ瀬さん? うふふー』



 と、大変うざ可愛いリアクションをされた。


 ちなみにその時の大家さんは箒をレ○レのおじさんの様な速度で前後に動かし、目は石川賢に出てくるようなグルグル目であった。怪しい。怪しすぎて逆に怪しくないレベルだ。



 なにか……ある。この部屋には間違いなく、何かがある。俺は大家さんのリアクションからそう確信した。



 しかし現象の正体が幽霊だとして……幸か不幸か、俺に霊感の様なものは一切ないようで、ハッキリとした証拠を見つけることが出来ないでいる。


 もしかすると幽霊なんてものはいなくて、俺の脳に何らかの異常があり、そのせいで何かがいると錯覚しているという可能性もある。


 その場合は速やかに病院プリズンへ行かなければならない。


 檻の中で一生過ごすのとかマジ勘弁なんで、脱走する予定も並列して立てつつ。



 ともかく、いるのかいないのか、だ。ハッキリさせておきたい。


 俺の勘違いなのか、はたまた本当に『いる』のか。



 俺は答えを出すために、大学へ向かった。





※※※





 俺の数少ない友人に、遠藤寺という人間がいる。


 大学に入った頃からの付き合いだ。


 互いに大学には友人がおらず、入学式後から何だかんだと行動を一緒にしている。いわゆる腐れ縁というヤツだ。



 俺は大学内に二つある内の近い方の食堂に入った。


 テーブルを中心に雑談をしたり、カードゲームをする生徒の集団をすり抜け、一番奥へ向かう。


 食堂の一番奥にはテーブル郡からポツリと離れて一つだけ孤島染みたテーブルが存在する。


 壁や観葉植物の死角になっており、未だこの席の存在を知らない生徒もいるかもしれない。



 そこに遠藤寺はいた。


 実質そこは遠藤寺の専用席だ。今日も遠藤寺は自分が共有物である所のテーブルを占有しているのが当たり前のような顔で、学食にて200円で販売されてるうどんに興じている。


 うどんを啜っている遠藤寺の正面に座る。



「……おや、今日授業は無かったはずじゃ?」



 椅子を引く音で気付いたのか、遠藤寺が顔を上げながら言った。


 つるんと音を立てて麺が、遠藤寺のほんのり赤い唇に挟まれ吸い込まれていく。うどんが羨ましい……俺も遠藤寺の唇に吸い込まれたい……。

 そんな心中をSNSとかに乗っけると問答無用で倒錯者と思われるのがアレなんで弁明するが、遠藤寺は美少女である。それもかなり極まった美少女だ。



「ふむ? ボクの顔に何か付いてるかい?」



 相変わらず見ているだけでこちらが眠くなってくるようなジト目でこちらを見つめてくる。相手に威圧感を与えるその目だが、俺はもう慣れた。


 次に目に入るのは、ふんわりウェーブがかかった肩まである茶髪……の上で自己主張するドでかい真っ赤なリボンだ。


 リボンだ。リボンなのである。


 いい年してとかそういうレベルではない。


 こんなリボンをつけている大学生は現状、眼の前にいる遠藤寺だけだろう。


 そして着ているのはフリフリのロリータファッション。



 言っておくが遠藤寺は飛び級してきた小学生でもなければ、未だ中学生に間違えられる様な合法ロリでもない。


 それなりに小柄で童顔ではあるが、どれだけ頑張って見ても高校生に見えるかギリギリの体格である。



 そんな女性がフリフリのロリータでリボンである。加えてどことなく芝居がかった口調。そして一人称はボク。


 ひぇぇ……。


 そりゃ友達もできないだろう。だってヤバイもん。美少女であるという利点を補ってなお、出来たら近づきたくないヤバイタイプ。ヤバイど(しげ〇ーっぽい)で言えば、街中でアレな主張を看板に書いて振り回す人とどっこいどっこいだ。


 そしてそんなヤバイタイプしか友達がいない人ってだーれだ? はい、俺でーす!


 多分友神(友達を作る能力を司る神)は俺のことが大嫌いなんだろう。いや、もしかすると逆に大好き過ぎてツンデレっぽく『ほ、他の奴なんて近づかせないんだから!』とか職権乱用をしてるのかも……?


それならよし! 友神フレちゃん可愛すぎてシルブプレ~。



「授業は無い。遠藤寺、お前にちょっと相談があってな」


 俺は遠藤寺の整った顔を見ながら、席に着いた。



「ボクにかい? それは嬉しいね。ボクは人に頼られるのが世界で三番目くらいに好きなんだよ」



「へー」



「2番目はうどんだ」



「知ってる」



 毎日食ってるからな。最早見慣れすぎて、遠藤寺がうどん以外の物を食べてると違和感すら覚える。やっぱりうどんは遠藤寺に限るな。



「言うまでもないことだけど、1番好きなのは……推理をすることさ」



 遠藤寺は推理大好き人間である。そして学生の傍ら、その性癖を満たす為だろうか探偵業を営んでいる。ハッキリ言うと変人だ。



 しかし変人ではあるが、知識量は凄まじい。


 今まで数多の難事件をその知識、推理力、財力(こいつん家マジ金持ち)で解き明かしてきた。


 その難事件だけで、アニメにして1クールほどの番外編ができるだろう。タイトルは『遠藤寺の極めて不本意な名推理』でどうだろうか。もし何かが間違って本当にアニメ化したら、俺の存在はエロゲのアニメ化における男主人公に習って無かったことになるだろう。



 ともかく何らかの相談をするのにはうってつけだ。


 俺は早速、現在自分の部屋で起こっている出来事について話してみた。



「……ふぅん、幽霊ね」



「ああ」



「君がそんなオカルトじみた存在を信じていることに、ボクは驚くよ」




 俺がオカルトを信じてない? それどこ情報よ。


 俺ほどオカルトっつーかファンタジー好きな人間はいないぜ?


 ファンタジーとかモンスター娘とかめちゃくちゃ好きだし。もん〇えぱらどっくすの終章を今か今かと待ちわびてるし。



 それにサンタさんの正体を知ってなお、サンタさんへのお手紙を続けてるくらいロマンティックでもあるしな。

 しかし、サンタさんマジ日本語うめぇ。毎年、律儀に俺へ返事返してくれるけど、習字の先生並みな達筆で毎年惚れ惚れしちゃう。ただ俺の妹と筆跡がクリソツなのが少し気になるけど。



「だって仕方ないだろ? 実際明らかにおかしいことが起こってるんだ」



「ふむ。具体的には何が起こってるんだい?」



 遠藤寺には俺の部屋に幽霊的なものが出る、としか話しておらず、具体的なことは話していない。


 そうだな……。


 俺はここ一ヶ月で起こった出来事を頭に浮かべた。



「まず、部屋が綺麗だな」



「それはあれかい? 自分が掃除好き、ということを主張したいのかい?」



「いや、そうじゃない。俺は越してきて一ヶ月、一度も掃除をしていない。なのに埃の一つも積もらない、窓はピカピカ、トイレの蓋に顔が映る。廊下はスケートできるくらい磨かれてるんだぜ?」



「……」



 遠藤寺は『何で一回も掃除してないんだよ……』みたいな顔で俺を見た。


 だってしょうがないジャン。


 そういうのってさ、普段の習慣でしょ?


 俺って今まで掃除なんてしたことないし。


 むしろ実家にいた頃は、妹が絶対にさせてくれなかったし。


 自分の部屋くらいは自分やるって言っても、ギラギラした目の妹に押し切られてたし。



 どーでもいいけど妹さん。エロ本の中身をすり替えんのマジ勘弁して欲しい。


 さえない草食系の青年が小悪魔ちっくなロリに誘惑される系とか、俺あんまり食指が動かないんだけど。


 でもそのジャンルしか残ってないから読まざるをえない。


 え? もしかして実の妹に性癖調教されちゃってる?


 あはは、まさかナ!



「他には?」



「朝起きたら食事ができてる。学校から帰ってきても同じく」



「……昼は?」



「ほれ、これ弁当」



 俺は遠藤寺の前に弁当箱を置いた。


 中身はタコさんウインナー、卵焼き、一口ハンバーグと定番のものが入ってる。

 野菜もちゃんと入っててヘルシー。


 そして美味い。冷めてても美味い。山岡〇郎にだって『明日もう一度来なくていいです。ごめんなさい』って謝罪させるレベルだ。


 ちなみに大学用の鞄の中にいつの間にか入っているのだ。



「確かに。ここ1ヶ月で君という人間をある程度は理解したが、どう考えても料理をしそうにない」



 遠藤寺は眉間にシワを寄せ、右手で顔を覆った。



「……もしかして、食後の皿も気付けば洗われてたり?」



「よく分かったな」



「君今までに遅刻してきたことないよね?」



「まあな。何か朝スッキリ目が覚めるんだよ。起きる時も心地よい揺れと共に。まるで誰かに起こされてるみたいに」



 遠藤寺はフゥとため息をついた。



「君、それ――幽霊じゃなくてお嫁さんじゃないのかい?」



「いや俺結婚してねえし」



「知ってるよ……ふむ」



 遠藤寺はうむうむと唸り始めた。珍しい。


 いつもだったら俺の質問や相談に対して、ものの数秒かからず『それはだね』と皮肉気に微笑みながら答えを返してくるのに。


 これはもしかすると遠藤寺探偵もお手上げですかな?


 お、つまり次は助手的立場にある俺がこのロートルを下して、主人公になったり?


 いいね!


 あ、でも俺推理とかできないな……。


 いや、これからの時代、専門職一辺倒だけではやっていけない。


 探偵だって推理以外の何かが必要として然るべきだ。


 そして俺にできるのは……脱ぐくらいか。ここだけの話、俺……服を脱ぐ早さは誰にも負けない。浦安の花〇木にだって負ける気はしない。


 こ、これいいんじゃなイカ?


 犯人を追い詰める時、おもむろに脱ぎ出す探偵。犯人を押し倒す。


『犯人はあんただ。今からあんたの謎を俺が解き明かしてやんよ』暗転。


 何やかんやで犯人が白状。自首しようとする犯人を引き止め囁く。


『あんたを警察には渡さねえ。俺ンとこで罪を償いな。少しずつ、衣服を脱ぐように、贖うンだ……』


 一話毎に増えていくヒロイン。プレイの幅も増していく……そして伝説へ。


 はいきた!


 これ海外狙えるで! 人気出てズルズル引き伸ばしてメインキャラ殺したりして話題性を再燃させようとする展開が見えた!



「しかしそれが幽霊の仕業だとしたら……幽霊という存在の認識を改めてなければならないね。幽霊というのは基本的に誰かを怖がらせるものだと思っていたけど……ふむ。幽霊にも色々いるのか、はたまた何らかの目的があるのか。幽霊、幽霊……ね」



 俺がゴールデングローブ賞を受賞し、隣にエマ・ワトソンを侍らせている光景から現実に帰ってくると遠藤寺が鞄から眼鏡を取り出した。


 何の変哲もない、普通の黒縁メガネだ。



「これを君にあげるよ」



「え、何で?」



 どういうことだろうか。


 眼鏡を俺にプレゼント? 着けろってこと? メガネ男子になれって


 なんだ遠藤寺は眼鏡フェチだったのか。


 しかし残念ながら俺とは相容れない。俺は眼鏡ってやつが大嫌いなんだ。


 人間ってのは素の状態、神に与えられた肉体そのものが美しい。


 ピアスや刺青、眼鏡や指輪、そんなもん糞喰らえだ! 大体、眼鏡ヒロインってなんか卑怯な感じするじゃん。眼鏡って外部属性におんぶで抱っこみたいな? で、いざとなったらその外部属性を脱ぎ捨てて『眼鏡外したら印象が変わった!』みたいな必殺てんかい持ってるじゃん? ズルいじゃん。他の身一つで頑張ってるヒロインたちに悪いと思わないの? 恥知らず! 眼鏡ヒロインなんて、眼鏡ヒロインなんて……絶滅しちゃえばいいんだ! え? 言い過ぎ? 君も緑の悪魔マナマナに触れれば俺の気持ちが分かるよ……。


 はぁ、やれやれ俺とコイツの関係もここまでか。

 俺の人生で初めて出来た『友人』枠なんだが……しょうがない。性癖の不一致はいつだって人と人の仲を引き裂くんだ。



 俺は遠藤寺に絶縁を申し出ようと、受け取った眼鏡を振りかぶった。ゴミ箱をセンターに入れてスロー!



「それは少し特殊な眼鏡でね」



 振りかぶった手をさながら竜の様な動きで戻した。


 え? 特殊な眼鏡?

 つまりは……そういうこと?


 ……。


 透ケルトングラァァァスッ!(必殺技っぽく)



 俺はおもむろに眼鏡を装着し、目の前の遠藤寺を穴が開くほど見つめた。

 メンチビームが出るほど見つめてやった。


 だが透けねぇ! 微塵も透けねぇ!


 遠藤寺の着痩せしている(と思われる)瑞々しい肢体が見えん!

 どうなってんだオイ!



「その眼鏡をつけると、普段は見えない物が見える……らしい。ちょっとしたツテで手に入れた物でね、ボクはオカルト方面には興味がないんで持て余していたんだ。それがあれば、件の幽霊も観測出来るかもしれない。その眼鏡はもしかすると今日君に渡す為にボクの手元に来たのかもしれないね、ははは」



 『運命は繋がっている、なんてね』とか痛いことを言いつつ笑う遠藤寺を無視して、俺は身体の全能力を視力に集中した。


 視ることに集中しすぎて心臓の鼓動すら弱まっていく。頭はぼぅっとしてきた、血液がうまく循環していないんだろう。


 しかし、それでも。


 俺の魂を削っても、遠藤寺の服の下が見えることは無かった。



「何も見えざらんや!」


 普段は見えない物っつったら、裸でしょーが!!

 どんな清楚な美少女でも、荒れ狂う大海の如く男を咥え込む美少女だって……普段はその服の下に裸を隠してるんでしょうが! それが平等に見えるからこそ、この手のエロ眼鏡(アイテム)は重宝されるんだろうが! せめて下着でも、下着だけでも……見せてくれや。んで、清楚美少女がちょっとエロイ下着を着けてて、その背景を想像したいんだよ……なんだよもう……ヌカ喜びさせやがって。



「こんな人の集まっている所にはいないんじゃないか? 『そういうの』は。まあ、常識的に考えて、だけど」



「常識なんてぶっ飛ばせよ!」



 んだよ糞!


 これから少年漫画レベルのエロ展開が繰り広げられるんじゃなかったのかよ! エロ展開だったら売れるだろうが!


 ふざけんなよ糞編集! 第二の矢吹神になりたくねーのかよ!



 ポルノのポの字も見えない眼鏡なぞ不要! さんざん青少年たちの純情を煽りやがって……へし折ってやる!



「あ、その眼鏡はね、何やら結構有名な職人が作った物みたいでね、世界に三つしかない。価格にするとしたら……ま、こういうのは無粋かな? 小さな国くらいは買えるかもしれないけどね。でも、それはもう君の物だから、好きにするといいよ。ただせっかくプレゼントしたんだ、大切にはして欲しいけどね」



「……これからよろしくお願いします――眼鏡様」



 今日この日、俺は眼鏡に屈した。


 自分より価値のある存在に媚へつらうのは人として当然だろう?


 これから俺は眼鏡様の意思に従い、眼鏡を普及していこうと思う。


 ただ忘れないで欲しい。


 心まで眼鏡に屈したわけではないと。


 いつか眼鏡レジスタンス(コンタクトは可)のリーダーとして立ち上がると。


 未来への宣誓をしつつ、俺は眼鏡を装着した。


 ちなみに眼鏡様、度は入っていなかった。


 「伊達眼鏡かよ……」

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