残念世界の残念勇者

XT

第1話 魔王編

800年前、魔王により、3つの呪いをかけられた世界「カモミール」


子供が生まれ難くなる呪い。


男の子が生まれ難くなる呪い。


嘘、妬み、怒りなど負の感情を持つと、容姿が醜く成る呪い。


魔王は200年ごとに現れ、呪いの効果を高めて行く。


絶滅寸前のカモミールを守護する女神ティナが召喚した勇者は、6連敗中の残念な勇者だった。


呪いは、何故かけられたのか?


魔王とは?


残念な世界で、残念な住人と共に、残念な勇者は、世界を救えるのか?








「起きてください」


澄んだ音色のような響きと、新緑の香り。


なんとも心地よい感触の中、聞こえてきた声。


俺は、うっすらと目を開く。




どうやら、ここは森の中らしい。


仰向けに寝ている、俺の腹の上に跨った少女。


耳が横に伸びている・・・エルフか?


俺の右側から覗き込む少女。


とんがり帽をかぶり、手に持つ杖が目に入った。多分魔法使いだ。




「目を覚ましたよ~」


魔法使い風の少女が言うと、エルフが答える。


「やっと起きた」


俺は、上半身を起こす・・何かに頭が当たった。


柔らかく、弾力のある。これは胸だ!


「良かったぞ。起きないから心配したぞ」


俺は、この胸の持ち主の膝の上で眠っていたようだ。




茂みの中から、長い黒髪の女性が出て来た。


「周りに魔獣はいないようだ」


細身の体に似合わず、大きな盾を持つ。


ガーディアン?




「目が覚めましたね?」


澄んだ音色のような声。俺を起こした声だ。


木々の間から、空に映し出された女性。


今までの経験から、女神だな。


だいたい察しがついた。また召還されたようだ。




「私はティナ。この世界を守護する者です。この世界は滅びの危機に有ります。えっと・・・」


目線が一瞬、下に行った。カンペを見たようだ。


「彼方の力で、世界を救いなさい。勇者よ魔王を倒すのです」


はい、テンプレート。


「お断りします」


「かつてない危機が迫っ・・え?いまなんと?」


「だから、嫌ですと言いました」


「・・・・よく分からない単語は聞こえました。続けますね」


「おい」




ティナと名乗る女神は、俺にまた勇者をやれと言う訳だ。


だが、俺は御免だ。俺は既に、7回召喚されて、現在6連敗中だ。


世界が滅ぶところは見たくない。


俺は、うんざりだ。




「そうですか、残念です」


お?意外とあっさり諦めてくれそうだな。


まぁ、今のご時世、適当に召喚して、強大なスキルの一つも授ければ、はい、勇者様誕生。


俺以外でも、勇者なんか幾らでもいる。




「この世界は、男性の絶対数が足らず、男と言うだけで、モテモテなんですけど」


「なに?」


「男性なら、足が臭かろうと、耳の後ろにカビが生えていようと。・・・・でも、お嫌なら無理にとは言えません。女神がしつこくするのは・・・」


「待て、少し詳しく」


女神がニタリと、ほほ笑んだ。


「アリスさん」


ティナと名乗る女神が、4人の中の一人を指名した。




俺以外の4人は、女神を前に片膝を付き、地に頭に付けんばかりに平伏していた。


その中から立ち上がった少女。俺を膝枕に乗せていた少女だ。




「この世界、カモミールは、人口減少で滅びの危機にあるぞ。男の数が少なすぎるぞ。1日3回、3日で10回だぞ」


「なんだ?その算数に成って無い標語は?」


「男性がする、Hの目標回数標語だぞ」


「なんだと!!!」




「カモミールの女性は、すべて美人美女です。女神の私から見ても、魅力的な方ばかりです」


!?確かに此処の4人も、美人だし可愛い。


「カモミールの女性は嘘はつかないぞ。嫉妬や、怒りなどの醜い感情もないぞ」


アリス、冒険者風の出で立ちで、腰には立派な剣を刺している。


語尾に「ぞ」を付けているが、それはそれで可愛い。




「怒りや?嫉妬の感情がない?」


「はい。カモミールの方々は、まさに天女のような方ばかりです」


女神は嘘は言わない。騙すようなことはしない。


これは間違いない。なら、本当に?だとしたら、ここは男の天国じゃないか?




「勇者よ、今一度、間いましょう。この世界を救ってください。彼方にしかできない仕事です。お願いします」


ティナは上半身しか映し出されていないが、深々と頭を下げていた。


!!女神が頭を下げてお願い・・だと!?




「勇者様、どうか我々をお救い下さい」


黒髪の女性が口を開く。


「お願いだよ~」


魔法使いの少女も続いた。


「頼まれろ」


おい、エルフ・・




「私たちにできる事は何でもするぞ。勇者様の力が必要だぞ」


・・・・俺の力か?


「俺の過去を知ってっるのか?」


「勇者様のプロフィールは、皆さんに伝えてあります。女神として、この世界を守護する者としての役割は、果たしています」


そうか、個人情報をバラまいたんだな。




「それを知って、なお俺なのか?」


アリスが俺に近寄った。


「そうだぞ。勇者様しかいないぞ」


「俺のどこを褒める?褒められるところんか無い。過去6回、俺は世界を守れずに、滅ぼしたんだぞ」


「全部だぞ!頭の先からつま先まで。鼻の中の糞も含めて全部だぞ」


随分と買われたもんだな。


「分かったよ。よく分からないことだらけだけど、ここまで買われたんじゃ、答えるしかない。勇者をやろう」


俺は引き受けた。


決して、モテモテや、H目的ではない。




天空の女神は微笑を浮かべる。


「困った時は、私を呼んで構いません。守護者として、私も協力しますね」


ティナは、そう言うと天空から消えた。






「自己紹介をしよう。私はレナ。ヒーラーだ」


黒髪のスレンダー美女、胸は無いが、余りの無さに潔さを感じる。


「私は~マオだよ~ヒーラーだよ~」


魔法使いじゃないんだ。


「ターナ。ヨロ。ヒーラー」


「アリスだぞ。宜しくお願いだぞ。私もヒーラーだぞ」


「君たちの恰好はなんだ?なんで全員がヒーラーなんだ?」


「私たちは職業選択で、ヒーラーを選んだだけだ。ただ選んだだけなので、回復系スキルは一切ない」


潔いほど衝撃的な一言だ。


「でも、魔法は使えるんだろ?」


「ヒーラーはね~魔法は使わないよね~」


「なんだと?」


「戦う。物理攻撃」


ターナは拳を握って見せた。


「物理攻撃って?まさか?」


「そうだぞ。手持ちの道具や素手で、叩く殴るだぞ」


アリスは腰の剣を鞘ごと抜いて、振り回して見せいた。




酷い。これは酷い。


これをパーティーと呼んでよいモノか?


ダメ臭がしてきた。




「我々は王都より、勇者様を迎えに来たのだ。一休みしたら、王都に向かおう」


レナは、一休みの指示を出す。


4人とも、大きなリックサックを持っていた。ターナとマオがリックを開き、シートを広げる。アリスが茶を入れだす。


ピクニックみたいだ。




「さぁ勇者様、私の焼いたクッキーだぞ。 召し上がれだぞ。あ~~~んだぞ」


アリスが俺の横に座り、クッキーを口に入れてくれた。


「う!旨い!こんな旨いクッキーは初めてだ」


「嬉しいぞ」


本当にうれしそうな笑顔を見た。




そのアリスが語りだす。


「この世界は、男の数が少ないぞ。800年前に魔王が掛けた、3つの呪いのせいだぞ」


3つの呪い?


「1つ。子宝に恵まれ難い呪いだぞ」


子供が生まれないのか?


「そうだぞ。今は、呪いが掛かる前の1/100まで少なくなったぞ。勇者様、また、あ~~んだぞ」


あ~~~~ん


「私の入れたお茶だぞ」


げほほほげほほ!!お茶は、あ~~ん駄目だから。




「2つ目の呪いは、男の子が生まれ難い呪いだぞ。


 男の子が生まれる割合は、100人に1人だぞ」


「子供が生まれにくい上に、男が生まれないのか?」


「そうだぞ。勇者様、またまたあ~~~んだぞ」


あ~~ん


「私の掘った、クマの彫刻だぞ」


なんで今、彫刻だ!?喰えるものにしてくれ。




「3つ目が、魔獣落ちの呪いだぞ。怒りや嫉妬、妬みなどの負の感情を持つと、容姿が醜くなり、遂には人ですらなくなり、魔獣へと変わってしまうぞ」


魔獣?


「この世界に居る、化け物だぞ。元は人間だった人が魔獣落ちして、新たな種族になったんだぞ。あ~~んするかだぞ?」


アリスの手には、串に刺さった団子があった。


「団子だけだよな?」


「私が竹から割いて作った串だぞ。串ごと行くぞ」


串ごとだと死んじゃうから。魔王倒す前に、喉に串が刺さって死んじゃうから。




「この3つの呪いが、私たちを苦しめている。魔王は200年ごとに現れて、呪いの効果を強めていく。今回、魔王を倒せなければ、人類は、次の200年を耐え抜くことはできない」


レナの顔は真剣だ。


「だから~今回がラストチャンスなんだよ~」


「後が無いという事か」


レナは茶を飲み干すと立ち上がる。


「さぁ、王都に向かおう。みんなが待っている。と、言いたいところだが、問題が発生した」


レナは困り顔になった。


「問題だと?」


「ああ、非常に不味い事態だ。王都の方角が、分からなくなってしまった」


「おい!」


「勇者遭難だぞ」


「何のための迎えだ?」


「ここは~来たことないからね~」


「方角 まるで分からない」


どうやら、マジで遭難したようだ。




「勇者様、方角は分からないが、安心してくれ。食料は十分にある。時間をかけて戻ればいい」


レナはターナを指さしながら、俺に言った。


なるほど、4人とも大きなリックサックを背負っている。万が一の備えも、してあるようだ。




「今が旬 食べごろ」


「ターナの次は~私だよね~」


「私が美味しく料理してあげるぞ」


「・・・一応聞いておくが、十分な食料って?」


「私たちだぞ。ターナのどこが食べたいか言うぞ」


「胸 おいしい」


ターナは、まだ未発達の胸を突き出す。




「いやいやいやいや!流石にないから!人食はないから」


首を左右に振りながら全否定だ。


「生き抜くためには、人は時に、残酷になる必要もある」


「私たちの命は、勇者様に捧げているぞ。食べ残しさえしなければ、悔いはないぞ」


「その大きなリックがあるだろう」


「日曜大工キットだぞ」


「何故?」


「勇者様と意気投合したら、愛の園の建築用だぞ」


「私のリックには、折畳式だが高級ベッドが入っている。Hの時に背中が痛くないようにな」


「私は~庭に木が植えられるように~ガーデニングセットだよ~」


「快楽が得られるオモチャ」


「食い物は無いのか?」


「あるぞ、私たちだぞ」


当たり前のように、サラっと言いやがった。


俺が「腹が減った」とでも言えば、こいつらは間違いなく皿に乗る。


なんとかせねば。




「勇者様・・お願い」


ターナが頬を赤く染めて、俺の右手を引っ張る。


「最後 女に成りたい」


これは・・。


「ターナ、いつでもいいぞ。痛くないように、首から捌くぞ」


って、もう準備してるし!


腰の剣を抜いてるし!




「色んな意味で私を食べる」


上目使いで、切なそうな眼差しが俺を襲う。


「鉄板の温度も丁度良くなった」


レナの持つ大きな盾、まさかの鉄板代わりだ。




「ターナは~勇者様の一部になるんだよね~永遠に勇者様の体となって~生きていくんだよね~」


いいこと風に言った~




「向こう。レナがベッドを用意してくれた」


くはぁ~まずい。このままでは、俺は人食勇者だ。


策は?策は無いのか?


「待て待て待て!俺たちは遭難なんかしていない。王都への道は分かる」


「なんと!?勇者様は、王都への方角が分かると言うのか?」


「俺は分からないが、知っている奴がいる」


「誰だぞ?私たち以外の登場キャラはまだいないぞ」


「ティナさ」


「女神様を~呼び出しなんて~出来ないよ~」


「神罰下る」


「困ったら呼べと本人が言っていた。俺は今、困っている。問題ない」


「そんなに私 たべたくない?」


そんな顔で俺を見るな。って言うか、なぜ食べさせたがる?


命を大事にしろ。




ティナ!ティナ!来てくれ!


俺は強く念じた。


「ティナ様だぞ!呼び出しに答えてくれたぞ!」


ああ・・・!!!!


天空に映し出されたティナは、入浴中だった。


しかも、気が付いていない。


「綺麗なおっぱい」


自分の胸を持ち上げながら、ターナがつぶやく。


ターナは、幼さの残る顔から、まだ成人していないようだ。




「ティナ様!見えてます!どうか気が付いてください!」


レナは大きな声で叫ぶ。


「ティナ様~ティナ様~」


マオも叫ぶ。


「ティナ様~立ち上がるぞ。下も金髪か見せるぞ」


神罰確定が一人。




まだ、気が付がつかない。


綺麗な上半身が丸見え状態が続く。


「勇者様、ここはこらえて下さい。今は後ろを」


いい判断だ。流石に、俺には見られたくないだろう。もう目に焼き付けたから、後ろを向くとしよう。


「ありがとうございます。後で映像をお渡しします」


「映像だと!?」


「王都に戻り次第DVDに」


「ああ、頼む。これで心置きなく後ろを向ける」




「きゃ!」


どうやら気が付いたようだ。


「ティナ様、突然の呼び出し、申し訳ありません」


レナの言い方は、端的でわかりやすい。


「見ましたか?何時からですか?」


「見たぞ。乳の先を洗ってるところからだぞ」


そこを正直に言う馬鹿が居るとな。


「ご安心ください。見たのは我々だけ。勇者様は紳士です。すぐ後ろを向かれました」


「そ、そうですか。勇者様、お気遣いありがとうございました」


「ジェントルマンとして当然です。もう振り向いても?」


「ダメです!まだ裸のままです」


「金髪だぞ」


立ち上がったのか。DVDが楽しみだ。




「で?皆さん、どうされたのですか?」


パジャマ姿のティナも、格別だ。美しく可愛い。


「はい。勇者様を王都へ案内しようと思ったのですが、王都の方角が分かりません。どうか、神のお導きを」


少し、はみかみながらレナが説明した。


「分かりました。地図を用意します。少しお待ちください」


ティナは、そういうと席を離れた。




ティナが居なくなると、映像は部屋全体を映し出していた。


ここは、ティナの部屋のようだ。


女の子の部屋らしく、奇麗に整頓されている。


部屋の壁に「脱‼ドジっ子女神」と書かれた紙。


TVにパソコン、女神とはいえ普通の女の子の部屋だ。


「枕の横のあれ、ブルブル震えて気持ち良くなる奴だぞ」


「ああ、3か所同時に攻められる、優れものだな」


彼氏は居ないようだ。




「お待たせしました。あ!あまり部屋を見ないでください。恥ずかしいです」


「綺麗な部屋ですね~流石は女神様です~」


「はい。女神は、身も心も、身の周りも綺麗にしていなければなりません」


その美しさは、普段からの心がけ、と言う事だな。


「では、神の導きです。えっと・・・・・・・・・王都は北です」


「よし、北へ向かうぞ」


「あ!待ってください。これが・・・・王都は南です」


「良し!南だ!」


「あれ?東?西?あれ?」


神の導き迷走中。




「地図、嫌いです」


女神が地図を放り投げた。まぁ、女性は苦手なんだよな。


「皆さんを神の加護で、王都迄転送します」


便利な神の加護が来たか。


※神の加護とは、女神が使う加護の総称である。


未来から来たネコのポケットより万能なのだ。




「では、この先揺れますから、ご注意ください」


バスのアナウンスみたいだ。


「うぁ!だぞ」


「こ、これは!」


「あれ~~~~」


「・・・」


4人は神の加護「転送」を知らなかったらしい。


俺は、過去の女神に使ってもらったことがあるので、驚きはしない。




一瞬で森の中の風景は、田園地帯の風景と変わる。


「ここは人類域です。王都への道は・・・・どなたかに聞いてください」


いい判断だ。地図が読めない女神が、下手の教えると、迷子になる。




「勇者様、お伝えしておくことがあります」


「??」


「勇者様には、勇者スキルの付与があります」


「強大な力。勇者スキルだな?」


「はい。でも私は、これまでの戦いで、多くのコストを使ってしまいました」


「ああ、過去4回の戦いか・・・」


「はい。最初の勇者様の召喚から、今回で5回目です。200年ごとに召喚して、そのたびにコストを使い、残りが心もとなくなっています」




女神が世界を守護する力は、コストを消費する。


あてがわれたコストをうまく使い、世界を守る。


これが優秀な女神なのだ。




「私がダメなせいで、皆さんにはご迷惑を・・・」


「そんなことはありません!我々をティナ様を見ています。ダメなんかじゃありません」


レナは激しい口調で反論する。


「そうだぞ。ティナ様が守護者じゃなかったら、この世界はとっくに滅んでるぞ」


「そうだよ~ティナ様は~悪くないよ~」


「ティナ様 好き」


みんなに慕われているようだ。


確かに俺の知る女神は、無償の加護を施してくれた。だが、対応は事務的で、どこか高飛車だ。僅かの間だが、ティナは他の女神と違う、温かさを感じる。




「みなさん!ありがとうございます」


両手を口に当て、ウルウルしながらティナは微笑んだ。


「で?勇者スキルの事だが?」


凛とした顔になる。


「はい。ご存知の通り、勇者スキルは強大な力です。世界を変える力です。付与には膨大なコストがかかります。勇者様には、試練をクリアして頂くことで、コストを抑えようと思います」


「試練だと?」


「はい。3つの試練を与えます。すべてクリアすれば、勇者スキルを獲得できます。今回はラストチャンスなので、勇者スキルの中でも、トップレベルを用意しました。単に付与すると、この世界を守るコストが無くなってしまいます」


「トップレベルか?それは凄いな。今までは、しょぼいのばかりだったから、助かる。3つの試練を受けよう」




「では説明します。


1つ【聖剣を手に入れる】


2つ【勇者の戦いに勝つ】3つ目は、先の2つをクリアしたら解放されます」


王道の異世界物みたいになってきたな。


「わかった。聖剣を手に入れ、勇者の戦いに勝てばいいんだな」


「はい。お願いします。2つをクリアしたら、また呼んでください」


ティナは消えた。


俺は、勇者スキルを手に入れえる為、勇者の試練に挑むことになる。


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