第12話 九等分の奇跡

 夕食に冷しゃぶを食べていた時のこと。


私「残りのトマト、寅のやでー」


 うちは大皿に盛り付けて、それぞれ器に取り分けるスタイルである。


寅「え?俺自分の分食べたで」

私「間違えてない?トマト一個を八等分したから、一人四つずつやで?」

寅「うん、四つ食べた」


 寅はそう主張するが、それはおかしい。

 いつも食べた数を忘れる私は、この時忘れる前に自身の皿に四つ、最初に取り置いていたからだ。


 にも関わらず、大皿に取り残されたトマト一切れ。


寅「駄文、食べた数忘れたんちゃうん」


 前科持ちのため信用がない。


私「いや、今回はちゃんと数えた!うち四つ食べたもん」

寅「じゃあなんで残ってるん」

私「知らんよ、寅こそ三つしか食べてないんちゃうん?」

寅「だから、俺四つ食べたって」

私「でも、うちも四つ食べたし。もう寅食べよ」

寅「いやいや、絶対俺ちゃうもん。駄文が食べて」


 そしてお互い譲らない。

 しばらく議論を白熱させていた二人だが、ふと我に返った。


私「いかん、初の夫婦喧嘩がトマトになってしまう笑」

寅「しょーもない笑」


 喧嘩原因、どちらがトマトを食べていないか。

 アホらしすぎる。


 さっぱり決着がつかないので、「このトマトは奇跡的に九等分されたのだ」という結論に落ち着いた。

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