第22話 二人だけの初詣

(ねえ、昴)

(ん?どうかしたか?)

 

 年が明けて、皆でまったりとしていてると、結衣が耳打ちしてきた。


(これから、二人で初詣に行かない?)

(父さんたちと皆で初詣は行くことになってたはずだけど)

(それも行くけど、ちょっと二人きりで出かけたいの)


 ちょっと唐突だったし、外は寒そうだけど「二人きりで」というお誘いを受けて

 断るわけにはいかないだろう。


(わかった。じゃあ、ちょっと準備するから)

(私も、部屋に戻って、色々取ってくる)


 お互い部屋に戻って、団地の一回で落ち合おうということになったのだが。


「ん、どうした、二人とも?」


 父さんが不思議そうな顔をして声をかけてくる。

 別にやましいことをするわけじゃないんだけど、ちょっと気が引けるな。


「昴とこれから一緒に初詣に行こうって話をしてたんです」

「そうか。仲が良くて何より。外は寒いから気を付けてな」

「元旦からお熱いわね」

「結衣も大胆になったものだね」


 父さんたちは温かい声で送り出してくれるけど。

 そして、嬉しいのだけど。

 やはり恥ずかしい。


 外は寒いので、手袋もしっかりして、愛用のジャケットもしっかりジッパーを上げる。

 準備を終えて団地の一階に行くと、既に結衣が来ていた。


 茶色いウールのコートに、白いロングスカート。上はピンク色のカーディガンといった

 装いだ。手にはピンク色の暖かそうな手袋。


 派手さはないけど、よく似合っている。


「似合ってるな。新しく買ったのか?」

「うん。せっかくだし、冬物も新しくしたかったから」

「そうか」

「昴も似合ってるわよ」

「俺のはいつもの使いまわしだからなあ」


 褒めてくれているのはわかるのだけど、いつも通りだと素直に喜べないのは少し卑屈だろうか?


「とりあえず、行こうぜ」


 いつものように手をつなごうとするが、防寒重視の手袋同士だと、少し感触がイマイチだ。

 どうしようかなと思っていると、結衣が触れ合ってる方の手袋を外して、ジャケットに

 突っ込んできた。


「うお?」

「これなら寒くないでしょ」

「まあ、そうだが」


 ちょっとイチャイチャし過ぎな気がして、恥ずかしい。

 結衣も少しは恥ずかしそうな様子だけど、それよりも嬉しそうだ。

 

(まあいいか)


 そう思って、そのまま神社へ向かうのだった。


 家から歩いて15分といったところにその神社はあった。

 元旦の深夜といえば、初詣客で賑わう時期だが、その神社に人影はほとんど見られない。


「やっぱり、人居ないなあ」

「そうね。ちゃんと準備はしているみたいだけど」


 それもそのはず、その神社は非常に小さくて、初詣客にもほとんど知られていないのだ。

 境内を見ると、一部に明かりがついているもののほぼ無人だ。


 とはいえ、初詣客も一応受け入れていて、賽銭箱やおみくじといった無人で対応可能な部分は整備されている。

 結衣も俺もそれほど人混みが好きではないので、ひっそりと参拝できるこの場所を選んだのだった。


 誰も居ない深夜の元旦の神社は、ほんのりと明るくて、不思議な雰囲気がある。

 横の結衣をみると、同じように感じているのか、神妙な表情をしている。


「お願い事」

「ん?」

「お願い事、何にする?」

「どうしようかね」


 なんとなく神社に来たのはいいものの、特に考えていなかった。

 

 無難なのはいくつも思いつくんだけどなあ……。


 結衣と二人、仲良く過ごせればていうのはもちろんだけど、それは少し違う気もする。

 と考えていて、少し思いついたことがあった。まだ、気が早いお願いだけど。

 

 二人で手を合わせて、祈る。


 神社から出た後、ふと


「昴は何をお願いしたの?」

「結衣やおじさんたち、皆と仲良く過ごせますようにって」

「そう」

「おまえは?」

「似たようなものよ。昴やおじさん、おばさんたちと末永く、一緒に居られますようにって」

「そうか」


 本当のお願い事はごまかすことにした。


 「結衣と家庭を作って、末永く一緒に居られますように」


 なんて言ったら、いくらこいつでも、驚くだろうから。

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