第16話
「サーラ様、私の言っている事、理解できてますよね?」
「・・・はい」
ソファーに腕と脚を組んで座り、怖い顔で私を見下ろしてくるのは、アリオスの異母兄妹であり私の侍女でもあるリゾレット。
美人って無表情になると怖いもんなのね・・・と、どこが現実逃避しつつも項垂れる私は、目下リズにお説教されています。しかも、ワタシ正座デス。
事の発端は本当に些細なことで・・・・というか、リズ的には溜まりに溜まった鬱憤をちょっとした切っ掛けでとうとう爆発させた・・・的なところがあるようだけど・・・
彼女が何に怒っているのかと言うと、私のアリオスに対する態度についてだ。
そして何故かアリオスの魔力を満タンに出来る能力を持っていたらしく、それでもってこれはいまだ懐疑的だけど・・・彼は私を好きだという。
魔力を満タンに出来る人間を『運命の人』と呼ぶらしく、過去の体験により『運命の人』などと言う言葉も、それを口にする人間をも信じない私は、彼のプロポーズも何もかも拒否。
でも、今現在お世話になっているのは彼の家ともいえるお城だから、これはいかんっ!と、私は独り立ちを計画。
まぁ、それはことごとく頓挫。というか、自分が思っているより自分の立場ってとても微妙で危うい事が発覚したのよね。
んで、そうこうしてるうちに虐待されていた子供達を保護して、最終的には五人の子供の親となりましたよ。
子供を引き取るには色々細かくて厳しい規定があるんだけど、それはアリオスと婚約する事で全てクリア。何にも持っていない私には、致し方無いんだけれど・・・
だから婚約はしたけど、婚約と言う名の契約を取り決めた。
契約内容はあまり難しくはないものだと思う。だって、第一に子供達の事を思っての内容だから。
私の身を守るための内容も勿論取り込んでいる。――――このままずるずると結婚に持ち込まれないために。
当然、アリオスの為のものも。
でも、アリオスの為にと思って提案した項目は何故かことごとく却下された。
リズがご立腹なのはその、却下しているはずの内容に沿う様な事を、私がしてしまったからだ。
『婚約期間中、恋人を作っても良いものとする』という、却下された私の提案。
私の事を好きだ、と言ってくれているアリオス。その事自体、いまだに信じられない。それに、その気持ちがいつまで続くかわからないし。
ましてや今の所、私にその気はない。なので、私の我侭に突き合わせてしまって申し訳ない気持ちの方が大きい。
だから取り敢えず逃げ道的な?提案で、好きな人ができたんであれば、付き合っちゃっていいよ!ってな提案をしたのだ。
私なりに気を使ったつもりなのだが、それはアリオスの心を打ちのめし、リズには無神経だと怒られる。
「もし貴女の片思いの相手から『彼、良い奴だから付き合ってやってよ』なんて言われてら、どう思います?嬉しいですか?」
「うぐっ・・・・」
「まぁ、言われて嬉しいのであれば私は何も言いません。男から『運命の人だ』と言われ舞い上がり、挙句に『君は勘違い』と言われ捨てられる事に関しては傷ついても、これに関してはなんとも思わないのでしょうね」
「ぐっは・・・ごめん、なさい・・・」
私は容赦ない攻撃に力尽き、そのままふかふかのジュータンの上に倒れ込んだ。
「アリオスの気持ち、わかっていますよね?」
冷たいリズの声に、私は無言で頷く。
怒られても仕方が無い事を私はやっている。その自覚はある。
子供を引き取る際も、彼の好意を利用するのは嫌だとも思ったけど、利害の一致という事で『契約』した。彼もそれでいいと、言ってくれたから。
なのに、私には戸惑う事ばかりなのだ。
『契約』だというのに彼はとても嬉しそうに、私や子供達と関わっている。溢れんばかりの愛情を注いでくれるから。
―――――罪悪感、半端ないし・・・・・何だか怖いのだ・・・
そもそも、何で私とアリオスが契約婚約してまで子供達の親となったか・・・それは、一番末っ子のティナの希望だったからだ。
契約時、彼等に再度気持ちを聞いてみた。私だけが盛り上がってもしょうがないから。
それに彼等にしてみれば、別に親は私でなくても良かったのかもしれない。五人一気に引き取ってさえくれれば。
現実的に、五人まとめて引き取れる事ができるのは、今現在アリオスにしか出来ないのだけれど・・・・
そんな子供達の我侭を彼は快く引き受けてくれた。婚約者となるのは私という条件付きで。
ティナの元々の希望が、私とアリオスが親となる事だったから、正に彼女の希望を叶えた事になる。
まぁ、アリオスと私の思惑が・・・中身は別として・・・一致したから、かなり悩みはしたけど了承した。
そんなこんなで婚約発表まで・・・してしまったのよ。正に電光石火とはこの事を言うんだろうなぁ・・・と、その時の記憶が曖昧なほどにあっという間だった。
超冷静になった今では『やばいかも?マジ、やばいかも?このまま、結婚?』と、心の中で呪文の様に繰り返されている。
そんな私の焦りというか、何と言うか・・・そんな気持ちが態度に出てしまっているのだ。
リズは突っ伏す私に手を伸ばしてくれ、私は小さく溜息を吐くと、彼女の手を取って立ち上がった。
ソファーに並んで座ると握っていた手を、ポンポンと優しく叩いた。
私は又も小さく息を吐き、観念したように口を開いた。
「怖いんだ・・・」
「怖い?」
「うん・・・アリオスの、何ていうか・・・・邪な気持ちが入り交じった無償の愛情?」
「邪な・・・・まぁ、分かる気がしますが」
そう、彼は婚約してからというもの私に対する好意を隠そうとせず・・・これまでもダダ漏れだったとリズは言うけど・・・何と言うか・・・恋愛感情の他に家族愛もプラスされグレードアップされていて、厄介な事にそれがあまりに心地良すぎて、引き込まれそうで、私的には危機感を感じひじょーに困っているのだ。
子供達が来てからひと月が経った。引き取った初日、親睦を計る為と称し私は床に毛布を敷き詰め十人くらいは寝れるよう布団を作り、皆で雑魚寝した。
意外にもそれが好評で、それからというもの月に何回かは必ず皆で寝ている。その中には勿論アリオスも含まれている。
彼は王子なのに床に寝る事に何の抵抗も示さず、反対に戦場での野営に比べればと笑い飛ばしている。
子供達との関係も比較的良好で、今は学校への入学手続きで二人額を合わせ話し合う事も多い。
今まで単なる女好きのイケメン野郎だと思っていたのだが、深く関われば関わるほど彼の内面が見えてくるようで・・・・
「ぶっちゃけ、惹かれてきてるって事ですよね?」
期待感の籠るリズの一撃に、私は真顔で返す。
「いや、それはないから」
なんとも微妙な顔のリズに一応、言い訳をする。
「まぁ、見直しているっていうか・・・」
「では、何故他の女性をあてがおうとするのです?」
「だって、あんなイケメンの王子様が本気で私の事好きなわけないじゃない。単に珍しいものが目の前に居て、自分に中々靡かないから意地になっているだけで・・・」
「はぁぁぁぁぁ~~~~~~~~」
リズは頭を抱え、こいつバカなの?みたいな目で私を見ながら、大きくも長い溜息を吐いた。
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