第5話

あの日から私は、引きこもりになった。

突拍子もない話に妄想だけが膨らんで、何だか周りの人間が全て敵に見えてきたのよ。えぇ、わたくし小心者ですよ!

だって、今まで住んでた世界で命の危険を常に考えながら生活なんてしてないもの!怖いです!マジ、怖いんですよ!ホント!

それでもって、色々考えた。考えても無駄な事だけど、考えずにはいられないから。

一つ一つ整理しては行き詰る・・・の繰り返し・・・なんだけどね。


その1 自分はアリオスの魔力を一気に満たすことができる

その2 この国を侵略しようとする人たちにとっては、アリオスの魔力は天敵で、エネルギー補給源の私は邪魔な存在

その3 しかも私の面が一応・・・割れている

一応・・・と言うのも、あの混沌とした状況であまり多くの人に私の顔は見られていなかったようなのだ。

でもあれ以降、各国の間者が引切り無しに私の存在を探る為に、この国にやってきてこの城に潜り込もうとしているらしい。

それは今の所、アリオスやこの国の優秀な魔法師によって阻止しされているようだけど・・・・


という事は自立する為の町での生活ができなくなった?籠の鳥生活、決定って事?

あぁぁぁ!!いやぁぁぁ~~~!!帰りたいぃぃ~~~!!


ふかふかのジュータンの上で、クッションを抱きしめながら、悶絶するようにゴロゴロ転がりまくる。


なーんで、こんな事になったんだろう・・・・

私、なんかしたのかな・・・お風呂場ですっ転んだだけなのに。

変なとこ来て、キラキラ王子に求婚されて、魔力のエネルギー補給源にされて、しかも王子限定なんて・・・嫌過ぎっ!


アリオスの結婚の目的がわかったら、それに対処する策を練ろうと思ったけど、あまりにもどでかい問題がおまけに付いてきて・・・

悶々と考えていくうちに・・・・段々と腹が立ってきた。


なんで私だけ八方塞がり?

エネルギー源だから結婚しようだなんて・・・悲しすぎる!それが無ければ見向きもされなかったってことでしょ?

あぁぁぁ!!ムカつく!私は自立したいだけなのにっ!


イライラが頂点に達し、クッションをささやかな力加減で乱暴に床に投げつけ、今度は室内をウロウロし始める。

だって、このクッションもそうだけど、此処にある物はみんな上質なものなんだもの・・・・おもいっきり八つ当たりすら出来やしない。

この憤りを発散する事が出来ずに、黙っている事ができないくらい、心の中も頭の中も沸騰しそうだ。


どうにかならないか・・・

結婚なんて、嫌だ・・・・

力だけが目的だなんて・・・そんな、初めから仮面夫婦しなきゃいけないってわかってて、誰が結婚なんてする?

今の国王みたいに何人も側室侍らせるんだろうし。

あぁ・・・私が男だったら、こんなに悩まなくても良かったんじゃないの?


「・・・・・・男・・・・・・・?」

ポツリと口から洩れた自分の言葉にはっとして顔を上げた。

私が、男だったら、んで、相手がお姫様でなくて王子だったら??

別に結婚なんてしなくても側近みたいな形でも大丈夫ってことよね?

そこまで考えたら、パァーっと世界が開けたかのように、目の前が明るくなった。

「あぁぁ!そうよ!男同士結婚できないじゃん!そうよ!側近上等!!」

町で働く事は叶わないけど、仕事も居場所も一気に確保できた気がして、一瞬で気分が高揚する。

そして次の瞬間、突然大声を出した私に「サーラ様!どうされました!?」と、珍しく焦った顔でリズと騎士さん数名が部屋に飛び込んできたのだった。


「賊ですか!?」

「・・・・・あ、いや、誰も居ないけど・・・」

皆は部屋の中を調べるようにあちこち見回り、異常がないとわかると騎士さん達だけが出て行った。


今のは、何だ・・・・悲鳴を上げたわけでもないのに、この反応・・・


あっけにとられている私にリズは一瞬「しまった」という様なばつの悪い顔をしたけど、すぐさまいつもの表情に戻った。

「驚かせてすみませんでした」

そう言いながら私を椅子に座らせようとした。

・・・・いや、ちょっと待って・・・・

「今の、何?どーゆーこと!?いつもこんなに見張られてるの??」

町に出た時も、もしかしてこんな風に見張られてたの!?確かに護衛はつけるとは言われてたけど、二、三人程度だと思っていた。

でも、今この部屋に入ってきた騎士さん達、何人いた?軽く十人近くいたよね!?

未だ一般市民感覚の私には、驚き以外の何ものでもなく、もうこれ以上は開けないだろうというくらい、私の目は見開かれている。

そんな私にリズは、小さく溜息を吐くと「貴女はこの国では最重要人物なのですから」と告げた。

「・・・・・暗殺?誘拐?」

「そうです」


本当だったの?本気だったの?マジだったの?

怖い怖いと言いながらも、心の奥底では「冗談でしょう」なんて思ってるトコも正直あった。だけど、こんなの見せつけられると・・・

・・・・・・あぁ・・・やめてぇ~~!!

思わず頭を抱えてしゃがみこんだその時、先ほどと同じ位の勢いで扉が開いた。

「サクラ!!大丈夫!?」

と、いきなりアリオスが部屋に駆け込んできた。

「え?何でアリオスまで?」

数時間ぶりのキラキラ王子は、相変もわらず無駄にキラキラしている。

けど、どこか焦った顔は初めて見るものでちょっと新鮮だなぁと、不覚にも見惚れてしまった。

「しゃがみこんで!何があったの!?」

アリオスは私の前まで来ると、手を差し伸べ、私は取り敢えずそれに掴まり立ち上がる。

「リズ、一体何があった」

私には見せることのない厳しい表情でアリオスはリズを問い詰めた。

「いえ、何もございません。サーラ様が大きな声を出あげたので、室内を確認した次第です」

「大きな声?サクラ、何かあったの!?」

「あ、いや・・・と言うか、何でこんな大事になってるの!?何で王子まで来るわけ!?」

その疑問に関してはリズが答えてくれた。

「サーラ様に何かが起きた際、すぐに王子に伝えられるよう室内には術式が施されているのです」

「えっと・・術式??」

「まぁ、簡単に言えば、貴女に何かあれば我々に直ぐわかるような魔法がかけられている、という事です」


・・・・もっと簡単に言えば、見張られてるってか、厳重に監視されてるって事??

何てこと・・・私に自由はないのか!?


思わず頭を掻き毟る様に両手で抱えると、「どうしたの?サクラ」と王子が心配そうに顔を覗き込んできた。

「どうしたのって!・・・・って、名前・・・え?」

まだ少し発音が怪しいけど『サクラ』と、名前を呼んでいる・・・え?

私が驚きのあまり呆然としていると、嬉しそうに、そしてどこか照れたように頬を掻くアリオス。


「驚いた?まだ発音は怪しいけど、サクラって言えるようになったんだ」

「いつから、練習してたの?」

「初めからだよ。でもなかなか言えなくて。でも、最近は何とか言えるようになってきたから嬉しくて、呼んでみた」

私にあれだけ罵られていたというのに・・・名前の練習してたって?


・・・何で? 


「ほら、求婚する相手の名前もまともに言えないんじゃ、失礼だろ?」


・・・・だから、何で?


「サクラ?どうしたの?具合悪い?」

拳を握りしめ俯き、返事もしない私に、アリオスは心配そうに近づいてくる。

それを私は一歩一歩と後ずさり、距離をとった。

「・・・何で?」

「え?」

「何でそんな事するの!?貴方の目的は私の力だよね!?貴方には権力があるんだから、そんな事しないで力づくで私を自分のものにすればいいじゃない!!」

期待を持たせるような事、しないでよ!

「それは嫌だよ。自分の妻になる人にはやっぱり自分の事好きになって欲しいし」

「私の力だけが欲しいんでしょ?だったら、好き嫌い関係ないじゃない」

「力だけが目的だったら、側近とか別の役職を与えるよ」

その言葉は私を打ちのめすのに十分な一言だった。

だって、色々悩んで、出した答えだったんだもの。それをあっさり彼は肯定したんだから。

「でも、俺はサクラに力があってもなくてもどちらでもよかったんだ」

「へ?」

「一目惚れだったから」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

ほんのり頬を染めはにかむ目の前の男に、私は正に魂が抜けたように白くなって立ちつくしてしまう。

一目惚れ??そんな事、一回も…いや、欠片も聞いたことないぞ??

「戦の時も、サクラの裸見た奴らにムカついて、ついつい本気で殲滅したくらい」

そう言いながら、非常に良い笑顔を向けてきたのだった。

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