第2話


ここでは天涯孤独の私だ。右も左もわからない異世界で、玉の輿。・・・・と、考えてみるも、乾いた笑いしか出てこない。

自分の世界での玉の輿なら大喜びだけど、ココでは、ちょっと・・・嫌かも。

彼の求婚を受けたが最後。未来の国王の妻だよ!?ムリムリムリ・・・・・

なら、こんな品もない女はこちらから願い下げ!ってな感じで、嫌われればと思っていたんだけど・・・

何やら怪しげなフィルターでも装着しているのか、一向に嫌う様子が無い。

「サーラは可愛」「サーラは綺麗」「サーラは優しい」などなど・・・かなり重症だ。

ちなみにサーラと言うのは私の愛称のようなもので、「サクラ」と上手く発音ができないらしい。

いくら練習しても変な発音になるので、最終的に「サーラ」で落ち着いている。


しかし、あのしつこさはまさに国宝級だ。冷たくされて萌えるタイプなのだろうか?

そこまで考え、ただでさえマイナスだった彼に対する好感度は、地面にめり込む勢いで下がっていく。

正直、毎日断るのも疲れてくるし、断った時のあの縋る様な眼差しを見ると、自分がもの凄い悪人になった様な気がして、気持ちが滅入るのだ。

もう、本当に疲れた・・・・と、ため息を吐きながらどうやったら自分は帰れるのかを考え始めた。

此処に来てからずっと考えている事だ。でも、考えれば考えるほど、あまり良くない方向へと進んでいく。

もしかしらた、風呂場ですっ転んで間抜けにも死んでるんじゃないか・・・とか。

多分、そうなっている可能性が高いかもしれない。


だったら・・・めっちゃ、嫌だ・・・・素っ裸で大の字になって死んでるなんて・・・・

しかも親より先に逝くなんて・・・親不孝もいいとこだわ・・・・


親しい人達の顔を思い浮かべ落ち込み、行き付くところはネガティブな事ばかり。万が一そうだとしたら・・・とりあえずここで生きていくしかないけど、王子に囲われるのはまっぴらごめんだ。

何の身分もない私はきっと、側室どまり。

今の国王にも、正妃以外にあと三人の側室がいる。

アリオスは正妃の息子なので、将来の国王に決定している。

他の側室にも子供はいるけど、うまい具合に全て女の子だ。

一夫一妻制の世界で育った私には、これだけは絶対認める事は出来ない。

彼の求婚を跳ね除ける理由の一つでもある。


側室は論外だから・・・この城をでて、町で暮らすしかないよね。

この国の王子でもある彼に、あれだけの失礼な悪態をついているんだから何時追い出されてもおかしくないし。

今は彼が求婚なんてしているから私は不敬罪なんて罪に問われてはいないけれど・・・・私の態度に良い顔をしない人もいる事も確かだ。

遠慮しないで「あんな礼儀知らず、城から追い出せ!」って、進言してくれてもいいのにと、彼等の顔を見ていつも思う。

そうしたら私は町で仕事を探して、自分の世界の知恵をフル活用して生きていくのに。

でも、身元もしっかりしていない人って、雇ってもらえるのかな?

もし・・・もしも仕事が出来るのであれば、住み込みがいいなぁ。接客商売でもいいし、事務系でもいい。

今までの仕事は事務だったのだから、それはそれでラッキーだ。

それよりも、どんな職種があるのかな?

あぁ・・・もっと時間を有効に使って、この国の事を勉強すればよかった!!

ここの所の私は、いかにアリオスの求婚をねじ伏せるかに心血を注いでいた。何て無駄な時間だったんだ・・・!!


反省に反省を重ねながら一抹の不安に、ならば下見に行けばいいじゃないか!と閃いた。

ぐじぐじ悩んでてもしょうがないし!

元の世界に戻れるかわからない・・・・戻れたらそれは喜ばしい事だけど、戻れない未来も考えておかなきゃならない。

だって・・・あんな勢いよくすっころんでたしね・・・


心が澱んでいきそうになるのを押し止める様に、大きく息を吐く。

そして、この世界で仕事をして楽しく暮らしている自分を想像し、心を浮き立たせた。


住み込みで働いて、お金を貯めて・・・・そして、そして・・・


色々妄想していくうちに、何だか楽しくなってきて、すぐにでも町で生活したくなってくる。

まぁ、空元気と言われればそれまでだけど、時にはそれも必要な事だと思う。

思い立ったら吉日!このままだと嫌な事しか浮かんでこないし気持ちが沈んでしまうもの。


「よし!町へ行こう!!」


私は、抱きしめていた枕を投げ捨てリズを呼んだ。


「サーラ様、お呼びですか?」

「町に行きたいの!」

私は、就職先を見つけるために、とにかく町に行く事にした。

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