school rifle.

ヨルムンガンド

一人孤独に

《彼我の距離約200m。マスターの得物の射程内です。風速2m/s。気温22°。狙撃に問題なし。コリオリの力等、弾道学に基づく計算開始。計算中___計算完了。いつでも行けます!》

 俺の電子端末から、電子音の合成とは思えないほど、自然な少女の声が発生する。


 スコープを覗く。標的は、現在も動いている。

 ビルの7階にいて、やっと頭が見えるというのだから驚くべき大きさだ。外殻は構成物質、不明。だが、並の武器では貫くことが出来ないのは、素人でも分かる。


 大きな大蛇に似た姿のそれは、けだものと呼ばれる異形の怪物だった。


 ちょうど半世紀前の西暦2000年に、奴らは突如として現れた。たった数時間で、災害級の被害が発生した。当時、ここ八洲やしまでも、対策に追われる日々が続いたという。



 度重なる犠牲と努力の末、獸には対獸物質(Anti-creature-material)通称、ACM(アカム)が有効な手段として考えられるようになった。


 アカムは、ごく限られた場所でしか採掘のできない貴重な物質で、水に弱いという弱点があることが判明している。それでも、まだまだ発見されてから長い年月が経っていないために、不明なことの方が多いのが現状だ。


《対象に水流装甲は確認出来ませんので、気兼ねなく、頭をぶち抜いちゃてください!》


 このAIの名前は、ネクト。現代では、自身の端末に高機能AIがあることは一般的だ。だが、俺の端末に入ってるのは、そんな粗悪品ローエンドとは違う。特殊な改良、もとい改造をされた俺のAIは、既に日常生活では不必要なほどのスペックを持っていた。それも、軍の最高機密程度なら盗み出せるほどに。


 俺は、目の前の標的に意識を戻す。薬室にアカム弾が装填されているのを確認すると、再度銃のグリップを握る。


 俺の得物は、古き良き火薬式だ。最近は電磁加速によるものもあるようだが、エネルギー切れが怖いので、俺は使っていない。


 呼吸をする。


 ただそれだけで、標準が安定していく。この仕事を始めて、身についた技能スキルのひとつだ。


 見つけた。


 それは、ネクトすら感知できないほどの大きさだった。大蛇の眼の奥にそれはある。コアだ。全ての獸に必ずある弱点。奴らは、それを理解しているからこそ、全力で隠し守る。


 だが、俺には分かる。それもミリ単位で。先天性なのかは知らない。そういう能力アビリティがあったのだから使う。それだけだった。


 トリガーを引く。


 凄まじい轟音と共に、狙いすました場所に吸い込まれていく弾丸。


「グルガァァァッッツ!?」


 獸は、予想だにしない方向からの攻撃に対応出来ていない。


《損害率は___もう100%ですねー。どうして毎回そんな所に当てられるのか、不思議ですよー》


 数回痙攣した後、獸は崩れ落ちていく。下には、ビル群が立ち並んでいたが、俺もネクトも焦ることは無かった。ビル群にぶつかる寸前、獸の身体は、粒子になって消えていった。


 獸に付随する発見で、1番のものと言われているのが、「多次元論」である。獸は、普段人間が住んでいない次元に棲息していることが、既に分かっている。

 更に、次元が数が大きくなるに比例して獸が強力になる法則なども見つかっている。だが、何故どうやってこの人間が住んでいる3次元に来ているかは不明だ。


 閑話休題。


 無事討伐を終えた俺は、銃の脇に置いてあった端末を操作し、依頼達成を報告する。


 すると、依頼主から直ぐに俺の口座に入金がなされた。額は、家が3軒ぐらい余裕で買えるほどだった。初めのうちは、大金だと思っていたが、職業病と云うべきか金銭感覚が完全に狂ってしまった。


 入金確認後、メールが来る。開くと、送り主は、仕事を斡旋してくれている木塚きつかさんからだった。


 <よォ、元気してるか、坊主?木塚だ。大蛇の件はありがとうな。仕事が早くて頼りになるぜ。それはそうとよ。最近、うちの事務所に新入りルーキーが入ったんだが、なんだその、仲良くしてやってくれ。同い年タメでお前んとこの学校に転校するらしいみてぇだ。そこんとこよろしくな>


「転校生か……」


《どうかされました?あ、まさか、転校生の子が可愛い女子だといいなとか思ってるとか?》


 取り敢えず、阿呆なことをほざいている奴はほっとく。波乱な予感がするのは間違いない。筆舌に尽くし難い気持ちだが、何となくこれから忙しくなりそうな予感がする。


 俺にとって、忙しいのは何よりも忌み嫌うことだ。フラグと分かっていながらも、忙しくならない事を切に願ってしまう。


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