第7話 面会
「お、帰ってきたか。何かいいものは買えたか?」
「いいものかはわからんが、適当に買ってきた。ところで、知り合いが一緒に昼飯食べたいって言ってるんだけどいいか?」
「ん? いいぞ、それくらい。遠慮するなよ、連れてこい連れてこい」
「ありがとう、ちょっと待っててくれ」
そう言って再び流湖のもとへ行く。
「お待たせ、大丈夫だってさ」
「ほんと? やった〜、いつも少ししか話できないから、伊導くんのこともっと知りたいなって思ってさ〜。ほら、夏休み前くらいからじゃない? 登校時に喋るようになったのって」
「そういえばそうだったな」
そのきっかけは、自転車に轢かれそうになった流湖を助けてあげたことだ。律儀に恩義を感じてくれたのか、登校時間も似ていて経路も似ているという偶然から、少しずつ話をするようになっていったんだっけか。
勿論それまでも同じ方向に登校していたのだろうが、それまでは接点もなかったもんだから、人間なにがきっかけで知り合うか分からないもんだな。
確か7月入ったくらいの出来事だったか。だから知り合ってまだ2ヶ月くらいしか経ってないんだな。
それに毎日会ってるってわけでもないから、話すようになったとはいえそれほど交流があるわけでもないんだよな。
学校でもそれぞれ仲の良い友達がいるし、クラス合同の授業でも、流湖は二組なので一組と、俺は三組なので四組とと、単純に接触点がないっていう理由からだが。
だがこうして仲良くなる機会を得られたのは良いことかもしれない。俺だって男だ、女子と仲良く慣れて嬉しくないわけがない。
あ、下心があるわけじゃないぞ? 単純にもっと友達になれたらいいな程度の気持ちだ。
「お待たせ」
「おお、おかえ……りっ!?」
三度泰斗のもとへ。と、なぜか驚愕された。
「お、おい、この子……折原さんじゃん!」
「ん? そうだが?」
「えへへ、始めまして? でいいのかな。折原流湖です。私のこと知ってるの? ごめん、どこかで話ししたことあったっけ」
隣の椅子を借り、既にくっつけてある俺の机と泰斗の机に、俺、その左隣に流湖、正面に泰斗の順に座る。
「あ、いや……その……はじめまして! よろしく! 俺、阿玉泰斗って言います。こいつの友達だから、折原さんとも仲良くできたらいいな、なんちって」
と、泰斗は照れた風に自己紹介をした。
「あ〜、君が泰斗くんか、よろしくね!」
「えっ、オレのことをご存知で?」
「伊導くんからたまに話しを聞くからね〜」
「な、なるほど」
そう言って泰斗は、俺の首をヘッドロックし、コソコソと内緒話を持ちてくる。
「なんだよ、お前なんか変だぞ?」
「折原さん、男子の間で有名人なんだぜ?」
「え?」
「いや、悪い意味じゃないぞ! 校内美人&可愛い女子ランキングベスト10に入り、また一度はお付き合いしてみたい女子ランキングでもベスト10入りなんだぞ!? なんでお前なんかが仲良いんだよ? 今までそんな話したことなかっただろっ」
「嫌、別に話すほどの仲ってわけでもないし。登校するときにたまに会って話するくらいだよ」
「そうなのか……なあ、ぶっちゃけるとオレも実は折原さんのファンなんだ、仲をとり持ってくれよ」
そういえば隠れファンがそこそこいるんだったか?
なるほど、ランキングを表に出したら問題になるかもしれないから、隠れファンになっていたわけか。そりゃ、女子からすれば勝手に人気付けなんかされていたら怒るに決まってるもんな。
「あ? 別にいいが……そこから先は知らんぞ」
「大丈夫、任せておけって」
と言うと、俺のことをようやく解放してくれた。
「お待たせお待たせ、いや〜、まさか伊導と知りあいだなんてな!」
泰斗はあからさまに明るく振る舞っている。いつもの二倍増しだ。
「まあ、最近話すようになったんだけどね。ところで、内緒話のつもりだったんだろうけど、普通に聞こえているから」
「えっ!?」
泰斗の顔が引きつる。
「当たり前じゃん、こんな距離で。漫画じゃないんだから、聞こえるに決まってるよ〜、アハハっ」
そりゃそうだよな……
「それにその校内ランキング? って言うの? 存在はとっくの昔にバレてるから、あまり話題に出さない方がいいよ。怒ってる女子いっぱいいるよ」
「なん、だと」
「ふふん、女子の情報共有ネットワークを舐めたらダメよ」
「ハイ……」
「女子の伝達能力は今も昔も恐るべし、だな」
「あははっ、なにそれ! 伊導くん面白いこというね〜」
「そうか? 思ったことを言っただけだけどなあ」
「それと、泰斗くん。私今好きな人いるから、お付き合いは無理かな、ごめんね〜」
「ええっ!? そ、そんな〜〜……」
「あはははは、まあまあ、友達くらいなら喜んでだし? 仲良くしてね」
「ハイ……」
と、初めての会合にしては中々の盛り上がりを見せ、昼休みは過ぎていった。
❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎
「ふうむ、なるほど。つまり妹さんの身体は、定期的に、その……『伊導お兄さん成分』を摂取しないといけない身体になったと……ううむ、にわかには信じがたい話でありますな」
最近髪の毛の量を気にし出した、担任の中年教師が眉間にしわを寄せる。
「診断書もお見せいたしました。確かに、普通ならば馬鹿にしていると思われるでしょう。ですが、これは現実に娘の身に起きてしまったこと、何卒ご理解いただけますよう」
お父さんが頭を下げる。
「いやいや、皆さんの話を疑ってるわけじゃありませんぞ! しかし、突拍子もないというか、我々としても急に対処法を考えるは難しくてですね……ひとまず、経過観察ということでよろしいのでしょうかな?」
「はい、よろしくお願いします」
今度はお母さんが頭を下げる。
「わかりました……しかし、この……い、『伊導お兄ちゃんのことが好き好きすぎて脳がアヘアヘしちゃうのおおおおお病』……ですか? の存在を生徒たちに教えてもよろしいですかな? 子供達もまだ14、5歳。大変心苦しいのですが、もしかすると心ないことを言ってくる者もいるかも知れません。勿論、そうならないように我々としても尽力いたしますが」
「真奈、どうだ?」
「えっと……」
確かに、病名だけ聞くと、ふざけて茶化してくる人間もいるかも知れない……でも、私は病気から、お兄ちゃんから逃げたらダメなんだ。
昨日の夜は、これからのことが不安だったけど、やっぱり早く依存症を治して、一方的に頼るだけじゃなく、パートナーとして真正面からお兄ちゃんと結婚できるようにしたい!
お兄ちゃんには、今の私じゃなく本当の私を見て、堂々と好きになってほしいから。
「……いいえ、公表してください、先生」
「え、本当にいいのかな?
「はい。構いません。私の病気に嘘はつけないので。もしかすると先生の仰ることが起きるかもしれません。ですが、それは私と皆との問題ですから」
「そうか……わかりました、では今日の昼休みの後のホームルームで話をさせていただききましょう」
「「よろしくお願いします」」
そして成績のことや普段の私の様子なんかを面談したあと、担任のもとを辞し、お父さんは会社は、お母さんは家は帰ることとなる。
「どうだ真奈、何か体調に変化は?」
廊下を歩きつつ、お父さんがそう訊ねてくる。
「今のところは大丈夫。朝と変わりないよ。むしろまだまだ元気が有り余ってる感じ」
「よかったわね、この分なら、思ったよりも早く治せるかもしれないわ」
「かな?」
「どちらにしても、しんどいのに無理をしては意味がない。きちんと対処をしながら、効率よく治していくべきだろう」
「わかった、何かあったら保健室に行くようにするね」
「気をつけるのよ!」
そうして二人を見送り、私は妙に有り余る元気を抑えながら、教室に帰った。
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